厨二病の幼馴染みの部屋で飾り付けたクリスマスツリーがなんか不穏。
早いもので、12月も半ばを過ぎた。
あのコスプレ衣装としては問題だらけのハロウィンパーティーから、ひと月半……
しかし何故だろう、もう一年も前だったような気がするのは。
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知らない人の為に説明すると。
厨二病を患い陽キャを憎むも、実はハロウィンでコスプレパーティーがしてみたい様子の幼馴染み・澄香の願いと、俺自身の『澄香のコスプレが見たい』というささやかな欲望を叶えるべく、ふたりきりのハロウィンパーティーを開いたのだが。
なんだかハロウィンとはかけ離れた、大分残念な結果に終わっていた。
詳しくはこちらである。⬇
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(※なろうでコレをUPしたのは一年前です)
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「──はっ!?」
「なんだ、圭介! なんか様子が変だぞ!!」
今俺は、一体脳内でなにを宣っていたのか──
目の前には澄香。
萌え袖の萌え部分をブンブンさせている彼女は、相変わらず可愛らしい。
そして萌え袖ができているオーバーサイズの上着も、相変わらず中学の芋ジャー。
澄香は『様子が変』と言いつつも目をキラキラとさせ、「毒電波か?!」と続けた。
相変わらず、安定の厨二病である。
「良かった、一年経ったような気がしたのは気のせいか」
「やはり毒電波だな?!」
「いや……それはどうだろう」
つーか『毒電波』ってなんだよ。
でもよくわからないだけに、『もしかしたら毒電波ってこういうのなの?』とも思えないでもない。
これが澄香の言う『毒電波』とかいうやつだならば、俺も厨二病に罹患したのだろうか。
厨二病とは伝染するモノなのかもしれん。
自認としては割と現実主義な方だと思っていたんだが。恐ろしいな、厨二病。
しかし伝染するかもしれない恐ろしい厨二病のキャリアであるからといって、俺は澄香と距離を置くつもりはない。
なんせ年末年始はイベントが盛り沢山。
付き合ってこそいないものの、既に告白済。
そして澄香の方も満更ではない様子を見せている……(※シリーズ参照)
あ、またなんか変なのが過ぎった気がしたが、それはさておき。
「澄香」
「ぬ?」
イベントは恋愛進展への格好のチャンスであり、特にクリスマスはときめき値が高め。
オサレに彩られた街。手を繋ぎ歩く恋人達。
なにしろ恋人はにわかサンタクロースだ。
浮かれた彼等をターゲットに企業の商戦は激しく繰り広げられ、お金持ちの家は電気代を考慮することなく電飾が輝き、クリぼっちと呼ばれし者達は孤独を恋人に、その名に相応しく一人家に取り残されし少年の過剰防衛の映画に胸を弾ませながらチキンをむさぼ……
あれ、なんでだろう。気付いたらあんまりときめく感じじゃなくなったな。まあいいや。
まあきっと、ときめくイベントに違いない。
世間一般ではそうな筈だ。『クリスマス≒恋人達の熱イベント』が都市伝説とかじゃなければ。
「クリスマスパーティーをしよう、ハロウィンのリベンジだ」
ハロウィンでは上手くいかなかったものの、そんな素敵イベントをスルーするワケにはいかない。
「なんと、リベンジとはまた面妖な……!」
「食いつくのそこ?」
「ふふ……圭介。 今までクリスマスなど陽キャ共のクソイベントであるとし『クリスチャンでもない癖に、この浮かれ頓痴気共が!』『私がサンタならば、本家サンタが良い子にプレゼントを配る中、浮かれし奴等の枕元に期限切れクーポンをこれでもかと詰め込んだ靴下をそっと置いて去る』などと思っていた私だが──」
わざわざサンタに扮する割にリアルにできそうな地味な嫌がらせが、逆にクリスマスへの拗らせた怨念を感じる。
だが澄香サンタの対象はあくまでも『奴等』──浮かれた陽キャ共であり、本家サンタが良い子にプレゼントを渡すのの邪魔はしないあたり。憎むべき相手を間違えない、ポリシーのある陰キャであると言える。
それにサンタ姿の澄香とか、絶対可愛い。別に陽キャでもないが、是非俺のところへ来て欲しい。
まあ可愛い澄香サンタからのプレゼントであれ、期限切れクーポンは捨てるけど。だって要らないし。
「圭介! 聞いておるのか?!」
「大丈夫、澄香の努力は心に留めておくから」
「なにを言ってるんだ?」
『期限切れクーポンin靴下』が愉快なプレゼント過ぎてちゃんと聞いてなかったが、どうやら澄香は『クリスマスツリーの飾り付けをしないか』と誘ってくれていたらしかった。
なんかちょっと照れ臭いのか、厨二病っぽい表現でまだるっこい余計な修飾がなされていた、彼女の話を要約すると『一足早く大掃除をしたところ、ツリーが出てきたので飾り付けがしたい』んだそう。
意外にもマトモなお誘い。
「終業式が終わったら我が家へ来るがいい。 特別に禁断の聖域を貴様の為に解放してやろう……!」
説明するまでもないと思うが、サンクチュアリとは澄香の部屋である。
健全な青少年である俺からすると、あながち間違ってもいないものの、仰々しい名前の割にそこそこの頻度でお邪魔している。
まあ付き合ってるワケでもないし、別になにもしないけど。当然ながらそういうチャンスがあれば吝かではないにせよ、物理的距離よりも距離感が近付くことがメインなので。
「平気なの? おじさんおばさんと文明(弟)は」
そもそも、家には大概家族がいるしね。
「ふっ……既に大人共には『今年は合同で』と話は通してある、抜かりはない」
「おお、やるなぁ」
俺達の家は隣で、親同士も仲がいい。
たまにふた家族一緒に過ごすこともあるものの、クリスマスに一緒なのは小学生以来。
勿論、俺は快諾した。
デートではないのは、少し残念だけど。
まあ、オサレに彩られた街にふたりで出かけたところで、結局学生である俺達の行ける場所などたかがしれている。
大体にして澄香は遠出……というか、公共交通機関が嫌いだし。
曰く、『自らが動いているならまだしも、見知らぬ人間共と同じ空間でじっとしているのは我には耐え難き苦行、闇の気に呑まれてしまう』のだそう。
なんかよくわからんが、可愛いから許す。
ステージにより、すぐ死ぬ雑魚敵に変化するタイプの魔物っぽくて、可哀想可愛い。
話を戻すと近所をぶらついたところで、クリスマスデートっぽいことはどうせ、駅前の大きなツリーを見る程度だろう。
そんですぐ行く宛てもなくなり、そのうち寒くなって『♪なんでも揃って激安迷宮』でお馴染みのディスカウントストア『サンチョ・パンサ』に入り、菓子を買って帰ることになるに決まっているのだ。
だって、公共交通機関と同じ理由で澄香は、ファミレスとかカフェが嫌いだから。
人間の意識の坩堝たるSNSでは、一時期『デートに格安ファミレスとか、有り得ない』という意見が話題になったようだが、数多の人々が意見を交換するあの場ですら、その理由に『闇の気に呑まれてしまう』なんて挙げるヤツは流石に澄香くらいだろうと思う。
そんなわけで、終業式後。
学校から帰った俺は私服に着替え、いざ禁断の聖域へ足を踏み入れんと、お隣へ向かった。
「ふっふっふ、我が眷属の妨害を掻い潜り、よくぞここまで来た……!」
「ケルベロスのことかな?」
名前をつけたのは澄香だとすぐにわかる、ここん家の飼い犬・ケルベロスは、澄香の弟の文明が丁度散歩に連れて行ったとこだった。
『眷属の妨害』って言うけど、俺の方がケルベロスに好かれてんだよな、完全に舐められている澄香より。
「おお、こんなでかかったっけ?」
「ふっ、気付いたか。 かつて貴様が目にしたものは、この半分から上のみだ」
ツリーは予想外にでかく、高さは俺の腰あたりまである。なんか分解保存して仕舞うことができ、大きさも変えられるやつらしい。
「じゃあ早速、飾り付けようか」
「ふふ……圭介、これが今回のオーナメントだ!」
物凄く自信ありげに、澄香は大きな箱を出し、勿体つけながら蓋を開ける。
中に入っていたのは、なんと──
「コレは……!!」
ハロウィン用の飾りであった。
「フッ」
「いやなにそのドヤ顔」
『サンチョ・パンサ』でハロウィン用の飾りが、激安叩き売り状態の75%OFFだったので、買うことにしたそう。
「来年使うつもりでいたが、これでクリスマスツリーを飾り付ければ、まるで黒ミサのようではないか……?! と思いついたのだ!(ドヤァ)」
「まあ確かに不穏な感じにはなりそう、黒ミサは兎も角」
まさにハロウィン・リベンジ。
道理で『リベンジ』に食いつくわけだ。
そして、俺達はツリーを飾った。
ハロウィンの飾りを使い、クリスマスのツリーを。
「素晴らしい……力作だな」
「うん、案外イイ感じだね」
意外にも、ツリーはカッコ良く飾れた。
不穏な感じなのには間違いないけれど。
「よし、点灯式だ!」
「おう!」
まだ昼過ぎだが、闇属性である厨二病・澄香の部屋のカーテンは遮光カーテン。
言われるがままにカーテンを引くと、部屋はかなりの薄暗さ。
「さあ、カウントダウンだ! 3、2、1……『バルス』!!」
「あ、そこは『バルス』なんだ」
『デストロイ』とかかと思ってたんだけど、まあ『バルス』も滅びの呪文だもんね?
ただ急に『バルス』ときたから『目が……目がぁぁぁ!!』と返せなかったのが若干悔やまれる。まいっか、俺眼鏡キャラじゃないし。
「おお……」
「フン。 悪くない」
元々あったクリスマス用オーナメントもちゃんと活用し、沢山あった75%OFFハロウィン用オーナメントはかなり厳選した。
電飾は青と白のものと色とりどりのやつ二種類あったが、使用したのは色とりどりの方。 特に赤や黄色を狙って被せた髑髏の開口部から灯りが漏れる仕様。
一番使ったのは星と蝙蝠。煌めく星の中、妖しく羽ばたく蝙蝠達。それを引き連れる謎のサンタが齎すプレゼントは、きっと悪夢に違いない。
……これ、悪い子へのお仕置サンタじゃない?
だけどバランス的には絶妙にカッコイイ。
頑張ったかいがあった。
「呪われし聖夜に乾杯……!」
「やなこと言うなぁ」
しかし澄香はご機嫌の様子。
電飾だけが怪しく点滅する薄暗い部屋、ムードは満点……いやどっちかっていうと『恋人ムード』ってよりマジで黒ミサ的な『儀式ムード』って感じではあるにせよ。
俺も健全な高校男児、ふたりきりのサンクチュアリに『ムフフ♡』な想像を禁じ得ない。
ここはいっちょ、恥を忍んでお父んの蔵書(※主に80~90年代漫画)のうろ覚え台詞を参照し、『綺麗だ……ツリーじゃなくて、君が』みたいなことを言うべきかもしれない。
「澄──」
しかし、俺の決心も虚しく
「姉ちゃん、けー兄!」
臭い口説き文句は、声掛けしながらノックもせずに入ってきた澄香の弟・文明に遮られた。
「ごは……うわぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
「ワンワンワンワン!!」
文明の絶叫と、警戒し吠えるケルベロスの声が響く。
ふたつ歳下で正真正銘の中二である文明は、将来有望なイケメンであり、陰キャでもないのだが。
残念ながら超ビビりなのである。
「ウウゥゥ……!!」
「ケ、ケルベロス……」
腰を抜かしてしまった文明を庇うように立った白ポメのケルベロスは、その場でフワッフワの毛を揺らしながら威嚇体勢。
家庭内順位が圧倒的に澄香<文明である、賢いケルベロスは、主人の恐怖の根源を認識した模様。
「ワンッ! ワンワンワンワンッ!!」
唸っていたケルベロスは再び吠えると共に、素早く敵へと飛びかかった。
「「あっ」」
「ああぁぁぁぁ!?!?」
それはさながら白い弾丸──!!
「ケ……ケルベロスゥゥゥ!!!!」
今度は澄香の絶叫が響く。
絶叫に次ぐ絶叫……なんかこう、まさに『呪われし聖夜』って感じじゃない?
良かったね、澄香。(遠い目)
文明を立たせ、俺はカーテンを開けた。
『呪われし聖夜』ってもまだ昼。冬の日差しに照らされ明るくなった部屋の中、妖しいツリーは無惨に倒れた状態で、控え目になった電飾の光がチカチカと点滅している。
「け、ケルベロス~、おいで~」
部屋には入りたくない様子の文明だが、流石にちょっと悪いなと思ったらしい。扉の陰から散歩用に持っていたオヤツを振り、ケルベロスを呼び寄せている。
「わぉん♡」
文明には素直に従うケルベロスに、部屋で蹲る澄香を気にする様子はない。やはり、完全に舐められている。
まあ、犬って家庭内順位の下から二番目に自分を据えるとか言うもんな。(慰め)
「澄香、まだまだ夜はこれからだから……っていうか、まだ昼だから。 いいじゃない、もう一度飾り直せば」
「……うん……」
「ここからの立て直しを『復活の儀式』としよう」
「『復活の儀式』……」
「逆に『呪われし聖夜』に相応しいだろ?」
「圭介……! ああ、そう、そうだな……!」
ツリーより先に澄香が復活した。まあそうじゃないとどうにもならないわけだが、なんつーか、チョロいな澄香。
「……けー兄、凄いね。 テイマーのスキルでもあるの? 一旦いじけると姉ちゃん長いのに……」
小声で文明に聞かれる。臭い口説き文句を考えていた俺の脳内はそれを引き摺っていたようで、ウッカリ『愛のなせる技だ』とか吐かしそうになってしまった。
明るくなった部屋で冷静に考えてみれば、臭い口説き文句が澄香に通じるか微妙。
「ありがとな、文明のお陰で黒歴史を作らなくて済んだかもしれない」
「え? う、うん??」
とりあえず一階の居間へと向かった俺達を待っていたのは、沢山のご馳走。
ウチの母も料理を持って既に来ており、まだ仕事中の父親達を抜かした団欒クリスマス・パーティー(※一次会)は始まった。
唐揚げを頬張りながら思う。
お腹いっぱいでご機嫌になったチョロ可愛い澄香と、もう一度ツリーの飾り付けをしたら。
今度は点灯式の『バルス』の後、『目が……目がぁぁぁ!!』と返してあげよう──と。
しかし、何故か二回目の点灯式では『デストロイ』と言う澄香。
なんでだよ。
ハッピー☆クリスマス!!!!




