表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/88

ずっと忘れられない

2028年6月

「ずっと忘れられない」ミリオンヒット

新たな幕開けが始まる東京ドームシティホール、バックステージ。

午後11時を回った頃、ステージの熱気がまだ残る空気の中で、凛は鏡の前に立っていた。

黒い瞳が、照明の残光を映して静かに輝いている。赤いカラコンを外して3ヶ月。

最初は違和感しかなかった自分の顔が、今は少しずつ「凛」として馴染み始めていた。

「凛ちゃん、お疲れ様」

悠里が後ろから近づき、軽く肩に手を置く。スタイリスト兼マネージャーの彼女は、今日も凛の黒髪を優しく整えながら微笑んだ。

「今日のステージ、最高だったよ。黒い目が本当に映えてた。ファンも『凛ちゃんの目が優しくなった』って大騒ぎ」 凛は鏡の中の自分を見つめ、ゆっくり頷く。

「ありがとう、悠里さん。でも……なんか、零の視線を感じなかった」 悠里の手が一瞬止まる。

「零さん、今日は客席じゃなくて、控室のモニターで見てたみたいだよ」

彼女の声は穏やかだったが、どこか微かな翳りがあった。 控室のドアが静かに開く。

真琴が入ってきた。キーボーディストの彼女は、汗ばんだ額をタオルで拭きながら、いつもの優しい笑顔を浮かべる。

「凛ちゃん、ミリオンおめでとう! 『ずっと忘れられない』、本当にすごいよ。ストリーミングも含めて、もう換算で150万超えてるって」

凛の表情が明るくなる。

「真琴ちゃん……ありがとう。みんなのおかげだよ」

彼女は立ち上がり、真琴を抱きしめた。千里ちゃんもBOHも是永も、控室に集まってきて、静かな拍手が起こる。

WIZARDのメンバー全員が、そこにいた。 しかし、零の姿はなかった。廊下の奥、暗い通路の端で、零は一人壁に寄りかかっていた。

スマホの画面に、リアルタイムのチャートが映っている。

1位。「ずっと忘れられない」――凛の声が、彼女の胸を優しく叩く。 零は目を閉じた。

(凛……この曲は、私がまだ君のそばにいた頃の、最後の贈り物だ。

聞く人を元気にするエールソング。君の黒い目で歌う姿が、こんなに眩しいなんて……予想外だった) 彼女の指が、画面をスクロールする。

ファンのコメントが溢れていた。

「凛ちゃんの黒目、めっちゃ爽やか! 元気出た」


「この曲聴くと、走りたくなる。ずっと忘れられないって、こんなに前向きな意味だったんだ」


「零さんのプロデュース、最高だったけど……凛ちゃんが変わった今の方が好きかも」

零の唇が、わずかに震えた。

(神崎さんの言葉が、正しかったのかもしれない。

私の所有が、君の光を少しずつ覆っていた。

だから……もう、離れなければ) スマホをポケットにしまう。

零はゆっくりと息を吐き、控室の方へ視線を向けた。

メンバーたちの笑い声が、遠くから聞こえてくる。

凛の声が、一番大きく響いていた。 「みんな、ありがとう! これからも、WIZARDとして……もっと大きなステージへ!」 零は微笑んだ。

それは、優しく、切ない、女性らしい微笑みだった。

(凛。

このミリオンヒットが、新たな幕開けだ。

君はもう、私のものじゃない。

自分の光で、走り続けて)

彼女は背を向け、静かに廊下を歩き始めた。

背後で、凛の笑い声がまだ響いている。


2028年6月。

「ずっと忘れられない」がミリオンを突破した夜。

零の影が、ゆっくりと、しかし確実に薄れ始める。

神崎龍一の意向が動き出し、真琴へのプロデュース交代が、秘密裏に始まろうとしていた。

WIZARDの新しい時代が、ここから静かに幕を開ける。



挿絵(By みてみん)


ずっと忘れられない

【https://drive.google.com/file/d/12xq7GCHP_SOzwYtA4u6X0bYpmDznLB05/view?usp=drivesdk】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ