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セッション7 二つの時計

2027年11月1日 リリースまでちょうど30日。

BEGINNING本社、神崎龍一のプライベートルーム朝の光がガラス窓を透けて部屋に差し込み、神崎龍一の赤いネクタイを鮮やかに照らしていた。

テーブルには三枚のタイアップ契約書が整然と並び、その横に三曲のマスターディスクが置かれている。

神崎龍一が満面の笑みで、

「決まったぞ、凛ちゃん、零。

三曲すべて、タイアップがついた。」

凛は黒のロングコートを羽織ったまま、丁寧に姿勢を正した。

凛が、

「神崎社長、本当に? 全部ですか?」

神崎龍一は得意気に、

「ああ。

『君がいない夜に』はフジテレビ系冬ドラマ『影の抱擁』の主題歌。

『そばにいるのに』は大型オンラインゲーム『ETERNAL FLAME』のメインテーマ。

『Never Forget That Smile』は『名探偵アガサ』のエンディングテーマ。

最高の枠を取ってきた。」

零が静かに頷く。

「神崎社長、よくやった。」

神崎龍一が続ける。

「ドラマは孤独と抱擁の物語、ゲームは破壊と再生、ミステリーは記憶と笑顔。

三曲のテーマに、ぴったりだろ?

特に『君がいない夜に』がドラマのラストシーンで流れる瞬間、

視聴者の心を鷲掴みにするのは間違いない。」

凛は契約書をそっと手に取り、ページをめくった。

「神崎社長……ありがとうございます。

これで、私の声が、もっとたくさんの人に届きますね。」

神崎龍一は目を細めて、

「その通り。

あと30日。

静かに、だが確実に、準備を進めよう。」


BEGINNING側は驚くほど穏やかだった。

凛と零は毎日スタジオに通い、マスターの最終確認を行った。

タイアップ用の30秒・60秒ショートバージョンのミックス、ジャケットの色味調整、公式サイトの更新。

神崎龍一は毎朝、業界情報を二人に伝えた。

「LUXE側は美波の新曲が12月1日同日リリースはほぼ確定だ。

黒崎は、凛ちゃんの歌と美波の歌を、同じ日にぶつけてくる気だ。」

凛は首をかしげて、

「神崎社長……黒崎さんは、何を考えているんでしょう。」

神崎龍一が真面目な顔で答える。

「天才の執念だよ。

自分の傑作二つを、同じ時間に世に出して、

どちらが心を掴むか試したいんだ。

いや、両方がどう響き合うか、それを見たいんだ。」


夜は、凛と零の時間。

自宅のリビングで、三曲を通しで聴くのが習慣になった。凛

「ドラマのエンディングで『君がいない夜に』が流れるの、想像すると、胸が締めつけられます。」


「凛の声が、画面の闇を割る。

それで十分だ。」


11月10日

織田テツローが訪れた。

「『名探偵アガサ』のエンディングか。

小林のピアノが、事件解決後の静寂に溶け込む。

いい選択だ。」

凛は織田の前で深く頭を下げた。

「織田さん、小林さんのピアノが、私の心を全部開いてくれました。」

織田は笑顔で頷いた。


11月15日 残り15日ジャケット写真の最終決定。『君がいない夜に』──凛の横顔に冷たい笑顔の赤い光

『そばにいるのに』──厳しい表情の中で光る赤い炎

『Never Forget That Smile』──柔らかな笑顔の光


神崎龍一が

「これで、準備は整った。」

と、安堵の表情で呟いた。




LUXE側

2027年11月1日 リリースまでちょうど30日

LUXE本社 黒崎哲也のプライベートスタジオ

黒崎哲也は、一人で二つのマスターファイルを開いていた。


左 「君がいない夜に」──凛の声

右 「Break the darkness」──白石美波の声黒崎は


ヘッドフォンをかけ、二曲を交互に再生した。

凛の声が、完璧な闇の中で微かに震える瞬間。

美波の声が、完璧な光で闇を砕く瞬間。

黒崎(独白)

「あと30日。

同じ日に、二つの頂点を放つ。

私の完璧を、魂が割った曲と、

私の完璧を守り抜いた曲を。」



11月1日~11月15日 前半15日LUXE側は、徹底した沈黙を守っていた。

黒崎は誰にも会わず、スタジオに籠もった。

マスターの最終調整、ミックスの微修正、ジャケットの監修。

白石美波は、別室でボーカルの追加テイクを録り続けた。

美波は

「黒崎さん……同日リリース、本当にしますか?」


黒崎

「する。

お前の声と、凛の声を、同じ空気で聴かせる。

それが、私の答えだ。」美波は、水色の瞳を伏せた。美波

「凛さんの声が、私の完璧を、揺らしています。」黒崎

「それでいい。

揺らぐ完璧を、私は残した。

お前の声に、初めての亀裂を。」11月10日

黒崎は、一人で「君がいない夜に」を100回再生した。凛の最後の囁き──「約束、だよ。」黒崎は、初めて、小さく呟いた。黒崎

「……約束、か。」11月15日 残り15日ジャケット決定。「Break the darkness」──純白のドレスを着た美波が、闇を切り裂く光の中に立つ。黒崎は、モニターに二つのジャケットを並べた。左 凛の横顔に冷たい月光

右 美波の全身に輝く光黒崎

「どちらも、私の最高傑作。

だからこそ、同日に。」11月20日

黒崎は、美波を呼び、最終確認をした。美波

「黒崎さん……私は、まだ完璧でいられますか?」黒崎

「お前は、完璧だ。

だが、初めて、完璧を超えようとしている。

それが、この曲だ。」美波は、静かに頷いた。11月30日 リリース前日 夜11時LUXE最上階黒崎は、一人で二曲を同時に再生した。左スピーカー 凛の声

右スピーカー 美波の声二つの声が、重なり、対比し、響き合う。黒崎は、窓の外を見た。黒崎

「明日だ。

0時になったら、世界に放つ。

凛、零、神崎。

お前たちの魂が、私の完璧をどこまで侵食するか。 私は、まだ微笑みをやめない。

どちらかが完全に消えるまで。」時計が11時59分を指す。黒崎は、静かにヘッドフォンを外した。終章 12月1日 0時00分BEGINNING本社

凛と零は、手を繋いでいた。凛

「神崎社長……始まりましたね。」神崎龍一

「ああ。

今、二つの頂点が、世界に放たれた。」LUXE本社

黒崎は、一人でモニターを見つめていた。黒崎

「始まった。

光と魂の、最終戦争。」2027年12月1日 0時00分。「君がいない夜に」

「Break the darkness」二つの曲が、

同じ時刻に、

同じ空気の中で、

静かに、だが確実に、

世界に解き放たれた。

残り30日の二つの時計は、

ついに、ゼロを刻んだ。



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