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セッション1 黒崎のオファー

【銀座「つきじ治作」 完全個室】

銀座の裏路地。

ダブルミリオンの歓喜から一週間。

数寄屋造りの老舗料亭「つきじ治作」の離れ個室は、庭園の滝の音だけが静かに響いていた。

部屋に入った二人の男は、日本音楽業界を二分する皇帝たちだった。黒崎哲也。

LUXE総裁、“黒い皇帝”。

黒のテーラードスーツに、銀のネクタイピン。

完璧を売る男。

自身が手がけるプロデュース作品には、すべて「TK」というブランド名を冠する。

TKとは、Tetsuya Kurosakiの頭文字。

彼自身が、完璧の象徴として作り上げた、もう一つの顔。

対するは、神崎龍一。

BEGINNING現社長、“魂の皇帝”。

ダークグレーのジャケットに、ネクタイは緩め。

魂を守る男。

二人の出会いは30年以上前、業界の新人の頃。

互いに才能を認め合い、やがて市場を二分するライバルとなった。

仲居が料理を運び、酒を注いで退出する。

部屋には、二人の静かな息遣いだけが残った。

黒崎が、まず口を開いた。

「神崎社長。お久しぶりです。」

神崎は、盃を手に取り、静かに微笑んだ。

「黒崎総裁。相変わらず、完璧な装いだな」

黒崎の唇が、わずかに挑発的に上がる。

「おっと、今日は穏やかに、音楽人として語り合いましょう。」

神崎が、盃を置いた。

「で、今日は何の用だ?

 俺たち、こんな場所で会うのは初めてだろう」

黒崎が、ゆっくりと盃を回す。

「提案があります。

BEGINNINGとLUXEのコラボです」

神崎の眉が、わずかに動いた。

「コラボ?

 俺たちのレーベルが?

 市場を二分してる俺たちが?」

黒崎が、静かに続ける。

「WIZARDの凛……

 リンとTKで、一曲」

神崎の盃を持つ手が、止まった。

「TK……

 お前自身がプロデュースする、あのブランドか」黒崎が、頷く。

「作詞は凛。

 プロデュースはTK、つまり私。

 一曲だけ」

神崎の瞳が、鋭くなった。

「意図がわからん。このタイミングで。ダブルミリオンにケチをつける気か?」

黒崎が、静かに首を振る。

「違う。

 純粋に、

 凛の声が欲しい。」

神崎が、庭園を眺めながら呟く。

「純粋に?お前が?」

黒崎の表情は、変わらない。

「ええ、あれは本物ですよ、神崎社長。

我々クリエイターなら誰もが欲しがるアーティストだ。」

神崎が、黒崎を睨む。

「凛は、BEGINNINGのものだ。」

黒崎が、静かに続ける。

「だからこそだ。究極の融合。

 私の曲に、

 凛の作詞と声。日本音楽業界の、歴史が変わる」

神崎が、盃を傾ける。

「条件は?」

黒崎が、微笑む。

「一切の干渉なし。

 私がプロデュース、

 凛が作詞とボーカル。

 レーベルは共同クレジット。

 利益は折半」

神崎が、長い沈黙の後、

盃を差し出した。

「……条件をもう一つ」

黒崎が、盃を受け取る。

「どうぞ」

神崎が、静かに告げる。

「凛が、嫌だと言ったら即中止、総合的なプロデュースは零がクレジット。」

黒崎が、頷く。

「かまわない。」

二人の盃が、静かに触れ合った。

庭園の雪が、静かに溶け始めていた。

黒崎が、最後に呟く。

「WIZARDとTK……

 楽しみだ」

神崎が、庭園を眺めながら、

小さく笑う。

「確かに...私もだ」

二大レーベルのトップは、

静かに部屋を出た。

日本音楽業界の新しい歴史が静かに始まろうとしていた。



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