表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/87

セッション8. 太陽は温かく

ダブルミリオン達成から数週間。

「Rise With The Sun」はまだチャート1位を独走し続け、街のあちこちで流れるほどになっていた。

この勢いアルバム【HOLD ME】にも影響を与え、ミリオンにまで押し上げた。



その日、凛は零の許可を得て、一人で皆川家を訪れていた。

手には、沙月へのお土産に大きなクッキーの詰め合わせと、新しい絵本。


玄関を開けたのは真琴。

スタジオ帰りで少し疲れた顔だったが、凛を見るとすぐに笑顔になった。

「凛ちゃん、来てくれてありがとう。

 沙月、もうずっと楽しみにしてたのよ」

リビングに入ると、沙月がソファから飛び降りて駆け寄ってきた。

「リンちゃん!!!」

いつものように、勢いよく凛の腰に抱きつく。

凛はしゃがんで、沙月をぎゅっと抱きしめ返す。

「沙月ちゃん、おはよう。

 お邪魔します」

真琴がキッチンでお茶を淹れ、瑛太は

「俺は邪魔だから」

と笑って書斎に引っ込んだ。

リビングには、凛と沙月、そして真琴の三人だけ。

沙月は凛の手を引いてソファに座らせ、自分は凛の隣にぴったりくっつく。

「リンちゃん、白い服たくさん着てるね!

 ライブのときも、テレビのときも! かわいい!」

凛は少し照れながら、沙月の髪を優しく撫でた。

「ありがとう。

 この曲のイメージが『朝』だから、明るい色にしてみたの」

沙月が目をキラキラさせて身を乗り出す。

「ねえねえ、『私の太陽』って、私のことだよね!?

 パパが言ってた! リンちゃんがテレビで言ってた『大切な人の笑顔』って、私だって!」


凛は頷いて、沙月の小さな手を両手で包んだ。


「うん。沙月ちゃんのことだよ。

 あのとき、黒のアトリエで沙月ちゃんが笑ってくれたから……

 『太陽』って言葉が、ぽっと浮かんだの。

 沙月ちゃんの笑顔が、私の太陽になった」


沙月がぱっと顔を赤くして、でも満面の笑みで凛に抱きついた。

「えへへ……私、リンちゃんの太陽なんだ!

 嬉しい! すっごく嬉しい!!」

真琴がお茶とクッキーをトレイに載せて戻ってきた。

三人で丸くなって、クッキーをつまみながらおしゃべりが始まる。

沙月がクッキーをかじりながら質問攻め。

「リンちゃんは、歌うとき緊張する?」

凛が優しく答える。

「するよ。すごく。

 でも、沙月ちゃんがどこかで聴いてくれてるって思うと、頑張れる」

「じゃあ、私がいつも聴いてるって思って歌って!」

「うん。そうする」

真琴が微笑みながら口を挟む。

「沙月、凛ちゃんに甘えすぎよ」

沙月が首を振る。


挿絵(By みてみん)



「だっていいじゃん! リンちゃんは私の太陽で、私はリンちゃんの太陽なんだもん!

 太陽同士、くっついててもいいよね!?」


凛がくすっと笑って、沙月の頭を抱き寄せた。

「いいよ。ずっとくっついてて」

沙月が凛の膝に頰をすり寄せる。

「リンちゃんの声、ほんとは近くで聴きたいなあ……

 生で、歌ってほしい」

凛は少し考えて、静かに息を吸った。

そして、小さな声で歌い始めた。

「夜が明ける前に 目を閉じてた……」

沙月がぴたりと動きを止め、真琴もお茶の手を止める。

凛の声は、テレビやライブとは違う。

すぐそばで、耳元で、優しく包み込むように響く。

「君の笑顔が 私の太陽

 それだけで すべてが輝き出す」

沙月が、ゆっくりと凛を見上げた。

瞳に涙がいっぱいつまっている。

凛はサビを、沙月だけに届けるように歌った。

「Rise With The Sun

太陽と一緒に 立ち上がろう

君がいるから 強くなれる」

歌い終えたとき、沙月がぽろぽろと涙をこぼしながら、凛にぎゅっと抱きついた。


「リンちゃん……大好きだよ……」

凛は沙月の背中を優しく撫でながら、涙声で答えた。

「私も……沙月ちゃんが大好き。

 ずっと、太陽でいてね」

真琴は二人をそっと見守りながら、静かに涙を拭っていた。

夕暮れのオレンジ色の光が、リビングを優しく照らす。

小さな家族と、凛の声と、沙月の笑顔。

ダブルミリオンという大きな賞は、結局、こんな小さな、温かい場所で、一番輝きを放った。

凛は沙月の髪に頰を寄せ、心の中で呟いた。


ありがとう、沙月ちゃん。

 あなたが、私に朝をくれた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ