セッション6 Rise With The Sun
2027年9月1日 「Rise With The Sun」リリース当日
朝からBEGINNING Inc.の社内は異様な熱気に包まれていた。
零プロデュース、凛作詞の新シングル「Rise With The Sun」が、ついに世に出る日。
ミュージックビデオ(同日公開)監督は零の強い希望で、シンプルを極めた演出に。
場所は東京近郊の早朝の海岸。
水平線から朝日が昇る瞬間だけを捉える。凛はいつもの漆黒のコートではなく、
爽やかな純白のTシャツにライトブルーのジーンズ。
髪はハーフアップを解いて、風になびくストレートロング。
メイクもほとんどなく、ルビーレッドのカラコンだけが朝日に映える。映像はほぼワンカット。
凛が一人、海辺に立って歌う。
バックは生バンドではなく、楽曲そのものだけ。
サビで太陽が水平線から顔を出し、光が凛を包む。
最後のサビでは、凛が空に向かって両手を広げ、笑顔で歌い切る。
皆川家のリビングは、いつもより少しだけ早い時間から賡やかだった。
沙月はパジャマの上に薄いカーディガンを羽織り、ソファの真ん中に正座していた。
両手でリモコンを握りしめ、テレビの電源を入れるタイミングを計っている。
時計は午後7時50分。
ミュージックステーションの放送開始まであと10分。
「パパ、もうすぐだよ! リンちゃん出るよ!」
沙月が振り返って叫ぶと、キッチンでコーヒーを淹れていた瑛太が苦笑しながら顔を出した。
「わかってるわかってる。沙月、興奮しすぎて心臓に悪いぞ。
今日はママも出演してるから、ちゃんと座って見てな」
皆川真琴は今、テレビ朝日のスタジオにいる。
今夜のミュージックステーションに、キーボーディストとして出演。
WIZARDの新曲「Rise With The Sun」の凛のバックを務めることになっていた。
だから家には瑛太と沙月、二人だけ。
瑛太はトレイにコーヒーと沙月の好きなリンゴジュースを乗せてリビングに戻ってきた。
沙月の隣に腰を下ろし、軽く頭を撫でる。
「リンちゃんの歌、楽しみだな」
沙月はコクコクと大きく頷いた。
「うん! リンちゃんが『私の歌だよ』って言ってくれたんだもん!」
あの日の黒のアトリエで、沙月は凛に抱きついて、ライブの感想をまくしたてた。
凛は最初驚いた顔をしたけれど、すぐに優しく抱きしめ返してくれた。
そして、沙月が帰った後——凛はあの歌詞を書き上げた。
「君の笑顔が 私の太陽」
沙月はまだそのことを知らない。
でも、なんとなく、自分の笑顔が凛の歌に繋がった気がして、胸がずっと温かかった。
テレビの画面が切り替わり、ミュージックステーションのオープニングテーマが流れる。
沙月が身を乗り出す。
「来た!」
司会の挨拶、今日の出演アーティスト紹介。
そして——
「続いては、WIZARDの凛さん! 新曲『Rise With The Sun』をテレビ初披露です!」
画面に凛の姿が映った。
いつもの漆黒のコートではない。
純白のTシャツに、淡いブルーのジーンズ。
髪は風になびくように下ろされ、化粧も薄く、ルビーレッドのカラコンだけが朝の光を反射している。
沙月がぽかんと口を開けた。
「リンちゃん……白い服……かわいい……」
瑛太も少し驚いた顔で画面を見つめる。
スタジオのセットは真っ白。
背景に何の装飾もない。
ただ、凛が一人、マイクの前に立っている。
BGMが静かにフェードアウトし、凛が目を閉じた。
静寂。
そして、凛の声が——アコースティックギターの優しいアルペジオとともに——流れ始める。
「夜が明ける前に 目を閉じてた……」
沙月の肩が小さく震えた。
凛の声は、いつものライブとは違う。
もっと近くで、耳元で囁かれているような、優しい温かさがあった。
「暗闇の中でも 君の声が響く……」
瑛太が、そっと沙月の手を握った。
Pre-Chorusで、少しずつピアノが入ってくる。
それは真琴の音色だ。
凛の声に寄り添うように、優しく包み込む。
沙月はそれに気づいた。
「ママのピアノ……!」
そして、サビ。
フルバンドが一気に爆発する瞬間——
「Rise With The Sun
太陽と一緒に 立ち上がろう」
画面の凛が目を開け、まっすぐにカメラを見つめて笑った。
沙月の目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「沙月、どうした?」
瑛太が慌ててティッシュを取る。
沙月は首を振って、涙を拭いながら笑った。
「うれしいの……
リンちゃんが、笑ってる……」
Verse 2。
「風が頬を撫でて 勇気をくれる
一歩踏み出すたび 世界が広がる」
凛の声が、少しずつ力強さを増していく。
「君の笑顔が 私の太陽
それだけで すべてが輝き出す」
沙月が、はっと息を飲んだ。
私の太陽。
それが、自分のことだとはまだ気づいていない。
でも、心のどこかで、温かいものが広がっていく。
Bridge。
テンポが落ち、凛の声だけが静かに響く。
「そっと息を吸って
新しい朝を迎えよう」
沙月も、無意識に深呼吸をした。
そして、最後のサビ。
キーアップ。
真琴のピアノが華やかに上昇し、ドラムがフィルを叩き、ギターが朝焼けのようなリフを弾く。
「Rise With The Sun
太陽と一緒に 立ち上がろう
君がいるから 強くなれる」
凛が両手を広げ、満面の笑みで歌い切る。
曲が終わった瞬間、スタジオの観客が総立ちになった。
拍手が鳴り止まない。
沙月も、ソファの上で立ち上がって、両手を大きく振っていた。
「リンちゃん!!! すごいよ!!!」
瑛太が笑いながら沙月を抱き上げる。
「そうだな。リンちゃん、最高だった」
トークパート。
司会者が凛にマイクを向ける。
「凛さん、この曲はご自身で作詞されたそうですね。どんな思いで?」
凛は少し照れながら、でもまっすぐに答えた。
「この曲は……私が初めて、自分の言葉で書いた歌です。
大切な人の笑顔を見て、生まれました。
その人は、闘病しながらも、いつも笑ってくれていて……
その笑顔が、私の太陽になりました。
この歌を、その人に——そして、みんなの朝に届けたいと思って」
沙月が、ぽかんとした顔で画面を見つめる。
瑛太が、そっと沙月の耳元で囁いた。
「沙月……あの人って、お前のことだよ」
沙月がゆっくりと瑛太を見上げた。
「……え?」
「リンちゃんが言ってる『大切な人』……沙月だよ。
お前がリンちゃんに会って、笑ったから、この歌が生まれたんだ」
沙月の瞳が、大きく見開かれる。
そして、次の瞬間——
「うわぁぁぁん!!!」
大きな声で泣き始めた。
瑛太が慌てて抱きしめる。
「沙月!? どうした!?」
沙月は瑛太の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らしながら叫んだ。
「うれしいの……!
リンちゃんが……私の笑顔を……太陽って……!
私のせいで……こんなきれいな歌が……!」
瑛太は優しく沙月の背中をさすった。
「そうだよ。沙月の笑顔が、凛さんを強くしたんだ。
お前は、誰かを照らす太陽なんだよ」
沙月は泣きじゃくりながらも、テレビの凛を見上げた。
凛は今、カメラに向かって頭を下げている。
「ありがとうございました」
沙月は、涙でぐしゃぐしゃの顔で、テレビに向かって叫んだ。
「リンちゃん!! ありがとう!! 大好きだよーー!!!」
もちろん、声は届かない。
でも、沙月の心は、確かに凛に届いていた。
その夜、番組終了後。
真琴が帰宅したのは、午後11時を回っていた。
玄関を開けると、瑛太が静かに出迎えた。
「おかえり。沙月、もう寝ちゃったよ」
真琴は少し疲れた顔で微笑んだ。
「そう……興奮しすぎて、倒れなきゃいいけど思ってたけど」
瑛太が小さく笑う。
「倒れるほど泣いてたよ。
凛さんのトークで、自分のことだってわかったみたいで」
真琴の目が、少し潤んだ。
「……そう」
二人はリビングに入り、消灯されたテレビの前に座った。
真琴がぽつりと呟く。
「凛ちゃんの声……本当にきれいだったね。
今日、スタジオで近くで聴いてて……涙出そうだった」
瑛太が真琴の手を握る。
「沙月の笑顔が、凛ちゃんを変えたんだな」
真琴は頷いて、静かに目を閉じた。
「……私たちの娘が、誰かの太陽になったんだね」
その頃、零の自宅。
凛はソファに座り、膝を抱えていた。
零が隣で、今日の放送を録画した映像を見返している。
凛が小さく呟く。
「……沙月ちゃん、見ててくれたかな」
零が録画を止め、凛の肩を抱いた。
「見てたよ。きっと、泣いてた」
凛の目から、ぽろりと涙がこぼれる。
「……私、初めて……誰かを照らせた気がする」
零は凛の髪を優しく撫でた。
「凛は、もう太陽だ」
凛は零の胸に顔を埋め、静かに微笑んだ。
外では、夜が深まっていた。
でも、どこかの空では、きっと新しい朝が昇ろうとしていた。
沙月の笑顔が、凛の歌が、日本中の誰かの心に、小さな太陽を灯した。
Rise With The Sun
【https://drive.google.com/file/d/17cNBJDLlLiJBJQqOiekP4i-EtBvfPhyp/view?usp=drivesdk】




