セッション5 限界を超えた情熱
【深夜3時 東京・BEGINNING地下第1スタジオ】
ツアー「What a beautiful memory」は、残り3公演。
ファイナルまであと10日。
大阪京セラドームでの5万人公演が、新曲初披露の舞台となる。
スタジオは深夜の静けさに包まれていた。
照明は暖色に落とされアナログ機材が柔らかく光る。
零はコントロールルームの椅子に深く座りギターを膝に置いていた。
指先は、弦を軽く撫でるだけで音を出さない。
ただ、凛の声を待っていた。
凛はマイクスタンドの前に立っていた。
レコーディング本番。
凛の瞳は、
澄んでいた。
疲れを知らない強い光を宿していた。
零が、静かにインカムをオンにした。
「……凛」
凛は、零の声に小さく頷いた。
「今日で、完成だよ」
零は、曲の最終バージョンを再生した。
160BPMのツインリフが、スタジオに響く。
イントロから、零のギターが、
優しく、
切なく、
凛を誘う。
Verse 1のイントロが終わり、
凛の声が、
静かに落ちてきた。
「夕暮れの街を 二人歩いてた
君の横顔に 目が離せなくて
何気ない会話の隙間に
心が少しずつ 近づいてく」
Pre-Chorus。
「好きだなんて 言えないまま
この気持ちが 揺れてる」
凛の声が、
少し揺れる。
それは、
演技ではなく、
本物の感情。
Chorus。
凛の声が、高音域で軽やかに情熱的に突き抜ける。
「揺れるままの恋
君に触れたくて たまらない
揺れるままの恋
どんな言葉も 足りないよ
遠く感じても すぐそばにいる
この想いはもう 隠せない
揺れるままの恋
君だけに 届いてほしい」
10層の女性コーラスが、
凛の声に重ねられ凛を包み込む。
Verse 2。
「信号待ちの交差点で
君がふとこっちを見た瞬間
時間が止まった気がして
胸が熱くなった」凛の声が、
さらに深みを増す。
ツアーの毎日が、
みんなの温もりが、
心を満たす。
Pre-Chorus。
「もう逃げられない この衝動
今すぐ伝えたい」
Chorus。
「揺れるままの恋
風に揺られても 折れないよ
揺れるままの恋
君の笑顔が すべてだから
どんな距離も 超えてみせる
この気持ちは 永遠だから
揺れるままの恋
今、走り出すよ」
ギターソロ。零の14小節。
Final Chorus。
キーアップ。
「揺れるままの恋
君に触れたくて たまらない
揺れるままの恋
この想いを 受け止めて
君の隣に いられるなら
それだけでいい
揺れるままの恋
ずっと ずっと…
揺れるままの恋
君へ…」
スタジオは、静まり返った。
凛は、マイクから離れ、
零の元へ歩いた。
零は、ヘッドフォンを外し、
立ち上がった。凛が、
震える声で、
言った。
「……零さん」
零は、
「凛……完成した
あと数テイクとって調整は私がする。
よく頑張ったね、凛。」
と、静かに言った。
ツアーの熱を、そのまま形にした曲。
『揺れるままの恋』は、
完成した。ファイナルで初披露。
その一週間後にリリースである。




