セッション4 ツアー最中の新曲制作
【6月10日 ツアー中盤 京都・ロームシアター京都公演後 楽屋】
ツアー「What a beautiful memory」は、残り6公演。
動員は30万人を超え、追加公演の要望が止まらない。
京都公演が終わったのは、午後10時30分。
凛はステージを降り、汗で濡れた白いブラウスを着替え、楽屋のソファに座っていた。
メンバー全員が、楽屋に集まっていた。
零、是永、BOH、千里、真琴、悠里。
そして、神崎龍一社長が静かにドアを開けて入ってきた。
神崎はいつもの落ち着いた表情で、全員を見回した。
「みんな、お疲れ」
全員が、軽く頭を下げる。
神崎は、中央のテーブルに一枚の紙を置いた。
「次のシングルについて、最終決定だ」
全員の視線が紙に集まる。
タイトル欄は、まだ空白。
しかし、リリース日がはっきり書かれていた。
『2027年7月27日(金)リリース』
神崎が、静かに告げた。
「ツアーファイナルは、7月20日 大阪・京セラドーム大阪。
そこで、新曲を初披露する」
「そして、一週間後、7月27日に、シングルリリース」
凛の瞳が、
わずかに揺れた。
「ファイナルで……初披露?」
神崎が、頷く。
「そうだ。時間がないのは十分承知している。
だが、この勢いを止めたくない。
ツアーの集大成として、新曲を5万人の前で初めて歌う」
零が、静かに息を吐いた。
「……了解しました」
神崎が、全員を見回して、続ける。「
この曲は、ツアー中の凛の声で完成させる。
零のデモから、凛の詞が生まれていく。いつものスタイルだ。
ツアー中盤で、まだ6公演残っている。
移動の合間、公演後の深夜、ホテルでもスタジオでも作れ」
凛は神崎の目を見て、静かに言った。
「……わかりました」
神崎が部屋を出た後、
楽屋は、静かになった。
零が、凛の隣に座り、
手を握った。
「……凛、ファイナルで、初披露。
その一週間後にリリース。
絶対的に時間が足りない。
覚悟がいるよ?」
凛は、零の手を握り返して微笑んだ。
「はい。
みんなの前で初めて歌う。
それが一番の瞬間だと思う」
零の胸が熱くなる。
6月11日~7月19日ツアー後半は、
新曲制作と並行してさらに過酷になった。
6月15日 名古屋公演終了後
深夜スタジオ凛はステージから降りそのままスタジオへ。
車の中で悠里が、汗で濡れたブラウスを着替えさせ、タオルで汗を拭う。
到着後すぐにマイクの前に立つ。
零が最新のデモを再生。
イントロのツインリフが凛の心を優しく、切なく、揺らす。
凛は、目を閉じて歌い始めた。
「夕暮れの街を 二人歩いてた
君の横顔に 目が離せなくて……」
声は、ツアーで鍛えられた、
透き通る明るさ。
中音域の穏やかなハスキーさが、甘く胸を締めつける。
プレコーラス。
「好きだなんて 言えないまま
この気持ちが 揺れてる」
凛の声が少し揺れる。
ギターソロ。
零の14小節。
メロディアス。
零の指が、震える。
Final Chorus。
キーアップ。
凛の声が、高音域で、甘く、情熱的に突き抜ける。
「揺れるままの恋 この想いを受け止めて
君の隣に いられるなら 祝いでいい」
全員のコーラスが、爆発する。
零は、コントロールルームから駆け出し、凛を抱きしめた。
凛は、零の胸に顔を埋めて、震える声で言った。
「零さん……いい曲つくりたい。」
零は、凛の髪を撫で耳元で呟いた。
「もちろんだよ。」
7月10日 仙台公演前日 ホテル仮スタジオ深夜3時。
凛は歌詞ノートを広げる。
そして目を閉じて歌う。
「揺れるままの恋 風に揺られても 折れないよ」
凛の声が震えながらでも強く響く。
新曲制作。
二つの戦いを同時に。
睡眠は少なく移動は長く声は毎日限界まで使う。
でも、WIZARDは多忙の中でさらに強く輝いていく。
新曲は、
ファイナルで初披露。
一週間後にリリース。タイトルは、
【揺れるままの恋】
のちに、この曲がWIZARDの代表曲の一つとなる。




