セッション4 永遠の贈り物
【2027年2月3日 午前10時11分 凛の自宅リビング】
テーブルの上には、ノートパソコン。
画面は織田テツローから届いたばかりのファイル。
ファイル名はシンプルだった。
・01_Yukidoke_no_Yakusoku_demo.mp3
・02_Kimi_ga_Warau_Made_demo.mp3
零は今朝早くスタジオに呼ばれて不在。
だから、凛の隣にいるのは、九条悠里だけ。悠里はスケッチブックを広げ、
鉛筆を走らせながら、すでに衣装のデッサンを始めている。
凛はヘッドフォンをかけて、再生ボタンを押した。
新曲A 『雪解けの約束』
織田のピアノが、雪の粒のように降り始める。
ゆっくりとしたテンポ。
Aマイナーから始まり、優しく、でも確実に溶けていく。
凛は、目を閉じた。
「……雪解け、か」
悠里が、鉛筆を止めずに呟く。
「イメージは、白と淡いブルー。
でも最後に、春の陽射しみたいなゴールドを差したい」
凛は、Wordにタイトルだけを書いた。
『雪解けの約束』
そして、最初の言葉が、自然に零れた。
「凍てついた指先を そっと包んでくれた
その温もりだけが 春を教えてくれた……」
悠里が、横で頷く。
「いい。 衣装は、雪の結晶みたいなレースのロングドレス。
でも裾は溶けて短くなって、素足が見えるようにしよう」
凛は、どんどん言葉を紡ぎ続ける。
「雪が溶ける音を 君と二人で聞いた
もう離さないって 約束したよね……」
サビで、
織田のピアノが大きく広がる瞬間、凛は息を呑んだ。
「だから この手を離さないで
雪が全部溶けるまで
君と一緒に 春を待つよ」
悠里が、スケッチにゴールドのラインを走らせた。
「決まり。最後のサビで、雪が全部溶けて、
凛ちゃんの肩が露わになるドレス」
新曲B 『君が笑うまで』
2曲目を再生した瞬間、
凛は笑った。織田のギターが、優しく、でも力強く、弾き語りのように鳴っている。
『君が笑うまで』悠里が、すぐに反応した。
「こっちは、温かい色にしよう。
オレンジとベージュ。
ニットのワンピースに、
大きめのマフラー」
凛は、自然に言葉が降りてきた。
「君が泣いてる夜は 私がそばにいるよ
朝が来るまで ずっと歌ってる……」
悠里が、鉛筆を走らせながら呟く。
「マフラーは、零が巻いてあげたやつにしよう。
凛ちゃんが、零のマフラー巻いて歌うイメージ」
凛は、サビで、織田のギターが大きく広がる瞬間、涙をこぼしながら、でも笑顔で書いた。
「だから 泣かないで 笑ってよ
君が笑うまで 私はここにいる
どんなに時間がかかっても
君の涙が 全部乾くまで」
悠里が、最後のデッサンに、
大きな太陽を描き加えた。
「ラストシーンは、
凛ちゃんがマフラーを外して、
太陽に向かって笑う。
それで終わり」
凛は、二つの歌詞を書き終えて、悠里に見せた。
「……できた」
悠里は、スケッチブックを閉じて、凛を抱きしめた。
「完璧。」
凛は、悠里の肩に顔を埋めて、小さくうなずいた。
雪解けと、
笑顔と、
約束と、
愛と。
織田テツローからの、贈り物は凛の声で命を吹き込まれるになった。




