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セッション4 誰にも渡さない

【深夜3時17分 BEGINNING地下第3スタジオ】

照明は真っ暗。

レコーディングブースの赤い「ON AIR」ランプだけが、

血のように点滅している。

凛はブースの中に立っていた。

白いワンピース。

ヘッドフォンは首にかけたまま、マイクスタンドを両手で握りしめている。

コントロールルームでは、零が一人でミキサーの前に座っていた。

他のメンバーは全員帰した。

今夜は、零と凛だけ。

スピーカーの向こうから、零の声が降ってきた。

低く、掠れて、でも優しい。

「……準備できた?」

凛は小さく頷いた。

喉が震える。

是永巧一のギターが、まるで泣いているように入ってくる。

BOHの6弦ベースが、胸の奥を抉る。

そして、凛が歌い始めた。


声が震える。

でも、震えを隠さない。

スキャンダルで傷ついたままの、剥き出しの声を、そのままマイクにぶつける。


零は目を閉じていた。

頬を伝うものが、涙か汗か、もうわからない。

サビで、凛は初めて顔を上げた。

最後のフレーズで、凛の声が裏返った。

でも零はカットしなかった。

そのままフェードアウトまで録りきった。

静寂。零がインカム越しに呟いた。

「……もう一回」

凛がいう。

「……これでいい」

零は立ち上がって、ブースのドアを開けた。

凛はヘッドフォンを外し、零を見上げた。

「……どうして?」

零は答えなかった。

ただ、凛を抱きしめた。

強く、強く。

まるで二度と離さないと誓うように。

凛は零の胸で、小さく笑った。

「……零さん、泣いてる」

零は掠れた声で答えた。

「凛の声が、心臓を抉った」

凛は零のシャツを握りしめて、耳元で囁いた。

「これ、私たちの曲ですね

 誰にも渡さない」

零は頷いた。

「誰にも渡さない」

二人はそのまま、ブースの中で座り込んだ。

床に背中をつけて、肩を寄せ合って。零がぽつりと呟いた。

「IN YOUR ARMS」


スキャンダルも、過去も、嘘も、全部飲み込んで、ただ一つの真実に変わった。



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