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セッション2-2 永遠の居場所

部屋の明かりは消えている。

街灯のオレンジだけが、カーテンの隙間から細く差し込んで、床に縞模様を描いていた。

凛はソファの端に座り、膝を抱えていた。

素顔のままで、ただじっと虚空を見つめている。

スマホの画面が、ぼんやりと光る。

ロック画面には、零が誕生日に撮ってくれた写真。

凛が零の肩に頬を寄せて、目を細めて笑っている。

あの頃はまだ、こんなことになるなんて想像もしていなかった。

凛は指を滑らせて、検索窓を開いた。

「WIZARD 大学時代」

候補がずらりと並ぶわっと出てくる。


WIZARD プリクラ

WIZARD 元カレ

WIZARD ホテル

WIZARD 遊んでた


指が震えて、画面が揺れる。

結局、検索ボタンを押せなかった。

押したら、もう戻れない気がした。

「……私、汚れちゃった?」

声は掠れて、自分でも驚くほど小さかった。


午後。

スタジオの照明は全部落としてある。

非常灯だけが、薄赤く床を照らしている。六人が円になって座っていた。

床に直接。

アンプもマイクも全部電源を落として、ただ静かに。中央に凛がいる。

是永巧一が、最初に口を開いた。

「……凛ちゃん。お前が謝る必要なんて、どこにもねえよ」

声は低くて、でも優しかった。

BOHが、無言で凛の隣に移動して、大きな手で凛の頭をぽん、と置くだけ。

いつもの「姫」って呼び方はしない。

ただ、そっと撫でる。

川口千里は、もう泣き腫らした目で、凛の手を両手で包んだ。

「ごめんね……凛。

私が『すっぴんで歩こう』って言ったから……」

凛は首を振った。

「……違う。

千里ちゃんのせいじゃない」

皆川真琴が、静かに膝をついて、凛の前に座り直した。

「凛ちゃん。誰一人として、凛ちゃんへの愛は薄れたりしないよ。」

凛の肩が、小さく震えた。

「……でも、世間は……」

「世間なんて、知るか!!」

是永が珍しく大きな声で吐き捨てるように言った。

「プリクラの一枚で、凛ちゃんが変わるわけねえだろ

そういえばイズミも顔出しして身バレしたときに、昔の水着のグラビアとかでてきたなぁ。

本人はミュージシャンへの足掛かりにと思ってやった仕事だったが、一気に売れると逆に足かせになった。

だがイズミは前向きだった。

そんな自分に歌まで作って見せやがった。

FOREVER Youって歌だ。

凛ちゃんだけじゃなく、みんなそれぞれ過去がある。

自分の過去に恥じることなんてないんだ。

なあ、凛ちゃん」

BOHが、初めて声を出した。

低くて、震えてる。

「……姫は、俺たちの誇りだ」

千里が、涙を拭きながら笑った。

「そうだよ! 凛がいなかったら、私たちまた集まってなかったもん!

凛ちゃんの声がなかったら、WIZARDなんて……ただのセッション・バンドで終わってた!」

真琴が、凛の頬に手を添えた。

「凛ちゃんは、私たち全員の居場所なんだよ」

凛は、ゆっくりと顔を上げた。

涙でぐしゃぐしゃの顔で、

でも、確かに笑った。

「……みんな……」

零は最後まで黙っていた。


挿絵(By みてみん)



ただ、凛の背後に立って、

誰にも見えないように、凛の髪にそっと唇を寄せた。


凛は全員を見回して、涙を拭いもせずに、言った。

「……私、歌うよ」

全員が顔を上げた。

「この傷も、全部抱えて、

でも、みんながいるから、

私はまだ歌える」


凛の本当の歌声。スキャンダルは、確かに傷を残した。

でも、同時に、

WIZARDという家族を、これ以上ないほど強く結びつけた。

「……みんな、大好きだよ」

六人全員が、同時に答えた。

「俺たちもだ」

その夜、WIZARDは、永遠の居場所となった。



そのころ悠里は法的手続きの準備をしていた。

「絶対に許さない」

彼女もまた凛の居場所の住人であるのだ。

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