セッション2 顔出しの代償
【朝6時42分 都内 零のマンション】
凛はまだ眠っていた。ソファで丸くなっている。
昨夜遅くまで零と新曲の歌詞を詰めていて、そのまま力尽きたらしい。
零は隣でノートパソコンを開き、コーヒーを片手に朝のニュースをチェックしていた。
画面が、一瞬で真っ赤に染まった。
【速報】WIZARD、素顔初公開で即身バレ
倉賀野凛(23)春まで広告代理店勤務。
大学時代の“肉食系元カレ”が独占告白
「毎晩のようにホテルで……」
「実は相当遊んでた」
零の指が、キーを叩く手を止めた。
記事には、
・表参道でマスクなしで歩く凛の鮮明な顔写真
・大学時代のプリクラ
・元カレと称する男・S(26)の直撃インタビュー
「あの頃の凛はめちゃくちゃ積極的だったよ。週に3日は俺の部屋に来て……」
「零さんとの関係? あれ絶対事務所の売名だよ。凛は昔から男を手のひらで転がすのが上手くて」
零は無言でスマホを手に取り、スクリーンショを撮った。
そして、凛の寝顔をそっと見下ろす。
「……凛」
小さく名前を呼ぶと、凛は目を細めて起き上がった。
「……ん、零さん……おはよ……」
零はスマホを差し出した。
凛はぼんやりと画面を見て、
次の瞬間、顔から血の気が引いた。
「……嘘」声が震える。
凛は慌てて自分のスマホを開く。
LINEのグループは既に地獄だった。
【BOH】
姫、大丈夫か……?
【是永】
今から事務所行ってる
【真琴】
マスコミが事務所下に30人以上います
外に出ないでください
【千里】
凛ちゃん! 今どこ!? 迎えに行く!!
凛の指が震えて、スマホを落としそうになる。
「……私、大学時代……確かに付き合ってたけど……
そんなの、たった三ヶ月で……
ホテルなんて、一回しか……」
零は黙って凛の隣に座り、震える肩をそっと抱いた。
「信じてる」
たった一言。
凛は零の胸に顔を埋めて泣いた。
零は冷静に電話をかける。
「神崎さん。……はい、今すぐ対応します
……いえ、凛は一切表に出しません
私が全部引き受けます」
午前9時。
WIZARD公式サイトに声明が掲載された。
《本日一部週刊誌及びネットニュースにて報じられた
WIZARDボーカル・凛に関する記事について全て事実無根です。
当時交際していた事実はございますが、記事に記載された内容は著しい誇張・虚偽です。
法的措置を検討しております。
──Exclusive Producer 零》
午後6時。
凛は零の部屋で、膝を抱えて座っていた。
「……ごめんなさい、零さん。……」
零は凛の前に跪いて、震える手を握った。
「凛は悪くない
前に凛の過去の恋バナを話してくれたよね?……それが私の真実だよ」
零は小さく笑った。
スキャンダルは、たった三日で鎮火した。
でも、ネットにさらされた凛の偽情報は一生残る。
下世話で下品で卑猥なコメント。
それが凜の心に大きな傷となっていた。




