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セッション6 休息

HOLD METonightの曲を完成させた零は、外の空気が、吸いたくて近くの公園に散歩に出た。

ベンチに座り、タバコに火をつける。

リンには絶対に見せない姿。


挿絵(By みてみん)


ふと公園の池を、見ると夕暮れで赤く染まっている。

なんだか、切ない気持ちになり、昔を思い出す。


2015年8月25日 午後4:17

Izumiが逝った瞬間。

零は28歳だった。

Izumiの手を握りしめたまま、医師が肩を叩いても、動けなかった。

悠里が廊下で泣き崩れている音が聞こえた。

その夜、零は誰にも告げず、BEGINNING Recordsの鍵を社長室の机に置き姿を消した。


2015年10月2日

黒崎哲也(当時43歳)からの着信。

30回目の無視のあと、ようやく出た。

「零、LUXEで働かないか。

 アレンジだけ。表に出ない。正社員。

 好きなだけ音を作っていればいい」

零は、

「……考えてみる」

とだけ答えた。

2015年11月15日

LUXE本社地下3階スタジオに現れた。

髪は伸び放題、目は完全に死んでいた。

契約書にサイン。

肩書:Special Arranger / R.O

給与はBEGINNINGの1.5倍。

顔を出す必要は一切なし。


2015~2020年 LUXE裏方時代

零は完全に機械になった。

・国民的アイドルグループの全曲ストリングス

・大物ロックバンドの復帰シングル

・映画主題歌

クレジットは常にR.O

黒崎は顔を出すたび、

「まだ生きてるか?」

「……生きてる」

会話はそれだけだった。


2020年4月3日

白石美波(16歳)プロジェクト始動黒崎がスタジオに連れてきたのは、

すでに圧倒的な才能を持つ16歳の美波だった。

プラチナブロンド、青い瞳、完璧なピッチ。

「デビューまで1年だけ、最終仕上げを頼む」

零は1年間限定で契約延長を了承。

2020年4月~2021年3月 

美波の最終1年

週3回、3時間の個人レッスン。

零は美波に

・ボーカルコントロール

・感情の深さ

・ステージでの存在感

を徹底的に叩き込んだ。

美波は驚異的に吸収した。

2021年3月25日 最終レッスン終了後

「R.Oさん、もう大丈夫です。

 私は自分でやれます。

 1年間、本当にありがとうございました」

零は初めて微笑んだ。

美波の瞳に、もう自分の影は必要ないと分かった。その夜、零は黒崎に辞表を提出。

「約束の1年が終わりました」

黒崎は笑って受け取り、

「お疲れ様。またいつでも」


2021年4月1日

BEGINNING Recordsに復帰

Exclusive Producer / R.O

表に出ない完全裏方として再スタート。

2021~2025年 “幽霊プロデューサー”の5年間は

零は誰にも顔を見せず、スタジオに籠もり、

BEGINNINGの黄金期を一人で作った。


2021年12月

新人ガールズグループ「LUMINOUS」

デビューシングル「Prism」→ オリコン1位・ミリオン

2022年4月

男性ソロアーティスト「蒼井翔」

「Blue Horizon」→ 紅白初出場2023年7月

5人組ボーイズグループ「NOVA」

「Supernova」→ デビューから3連続ミリオン

2024年11月

女性シンガー「星野灯」

「Stardust Memory」→ 第66回日本レコード大賞2025年3月

大型コラボプロジェクト「BEGINNING ALL STARS」

世界総売上2億枚突破・業界史上最高の年間売上記録(アニソンが多いラインナップだったと評価される一面もある)。

業界では「R.Oに触られた音は必ず売れる」と伝説化。

誰も零の顔を知らない。

2025年4月18日 深夜2:43

零はいつものようにスタジオで次の新人デモを聴いていた。

100曲以上を連続でスキップし、

疲れで目を閉じかけていたとき、匿名配信サイトの“おすすめ”欄に、小さなサムネイルが現れた。

タイトル:【弾き語り】オリジナル曲 

投稿者:rin.(フォロワー0人)

サムネイルは真っ暗で、画面中央にだけ、黒いコートを着た影が映っている。

零は、何気なく再生した。

最初の4秒、ギターのアルペジオ。

そして、声が零れた。

零は、ヘッドフォンを外した。

手が震えていた。

11年ぶりに、心臓が音を立てた。

画面の中の影は、

顔を一切見せていない。

零はIzumiの最後の言葉を思い出した。

「次の声を……ちゃんと守ってね」

零はすぐに神崎社長に電話をかけた。

時刻は午前3:02。

「社長……今すぐ探してください。

 この子を……

 絶対に、逃がさないでください」

2025年4月19日

この日から零はスタジオのモニターを見つめたまま、リンに宿題を与える作業に入った。

一睡もせずに同じ配信をループ再生し続けた。

胸の奥が熱くて、痛くて、

11年ぶりに“生きている”と実感した。

ただ、どこかの小さな部屋で、誰にも見せていない顔を隠して、零に向かって歌っていた。

2025年4月 偶然の配信で、零は凛を見つけた。

それが、WIZARDプロジェクトの、

本当の始まりだった。

「さて、レコーディング、MV撮影、やることがたくさん。

でも、リンと共に前に進まなきゃ」

零は自分を鼓舞してタバコをもみ消した。



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