表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/87

セッション5 小さな成長

Studio ZERO・黒のアトリエ午後7:12。

零が凛の手を優しく引き、スタジオの最奥に連れて行った。

挿絵(By みてみん)



ドアのプレートには「黒のアトリエ」とだけ書かれている。

中は暗く、壁一面に黒い布地が吊るされ、裁縫台の上に針と糸が散らばっていた。

空気は静かで、少し埃っぽい。

零は柔らかく、

「凛、紹介するよ。

 九条悠里さん。

 君の衣装と、毎日を預ける人だよ」

悠里は背中を向けたまま作業をしていた。

黒のタートルネックに黒のスカート、左耳だけに小さなルビーのピアスが光る。

ゆっくりと椅子を回し、凛を見た。

顔は穏やかだったが、目は鋭さを持っていた。

悠里は優しく、でも静かに、

「はじめまして、凛ちゃん。

 私は悠里。

 よろしくね」

凛は零の袖を強く握りしめ、俯いたまま動けなかった。

ルビーレッドの瞳が、わずかに揺れる。

凛は小さな声で、ほとんど聞こえない。

「……はじめまして……

 凛です……

 よろしくお願いします……」

零が凛の肩に手を置き、悠里に目で合図する。

悠里は立ち上がり、凛の前にゆっくり近づき目線を合わせた。

悠里、

「怖がらなくていいよ。

 私は、凛ちゃんの衣装を作ったり、

 髪を結んだりするだけ。

 あなたのペースでいいから」

凛はまだ顔を上げられなかった。

ただ、零の袖を握る手が、少しだけ緩んだ。

零は凛に耳打ち、

「悠里さんは、私の古い友達だよ。

 信じて」

その日、凛は悠里に触れられず、ただ体のサイズを測られるだけだった。

コミュニケーションは、ほとんどなかった。

FNS歌謡祭のステージが終わり、

凛は楽屋で息を切らしていた。

黒コートの裾が汗で濡れている。

悠里が無言で近づき、ハンカチで裾を拭き始めた。

凛は驚いて、俯いたまま、

「……ありがとう……ございます……」

悠里は作業を続けながら、初めて質問。

「凛ちゃん、ステージはどうだった?」

凛は一瞬、零を探したが、零は外で電話中。

凛は小さく答えた。凛

「……怖かった……

 でも、みなさんが支えてくれたから……歌えました……」

悠里は微笑み、裾を10cmぴったり調整して立ち上がった。

悠里は、

「よく頑張ったね。

 次はもっと楽になるよ」

凛は初めて、悠里の顔を少しだけ見た。

ルビーのピアスが、自分と同じ赤い色をしているのに気づいた。


その3日後、凛が熱で倒れた。

38度を超え、ベッドから起き上がれない。

零が別のライブのリハで不在の中、悠里が凛の部屋に泊まり込んだ。

冷たいタオルを額に当て、おかゆを作ってスプーンで口元に運ぶ。

凛は朦朧としながら)

「……ごめんなさい…… 迷惑かけて……」

悠里は、

「迷惑じゃないよ。

 凛ちゃんは、私の仕事だから」

夜中、凛が悪夢を見てうなされたとき、

悠里はそっと凛の手を握った。

翌朝、凛は熱が下がり、初めて悠里に「ありがとう」を笑顔で言った。

日常の小さな変化衣装合わせの日。

悠里が凛の髪をハーフアップに結び、

黒のベルベットリボンを付ける。

凛は鏡を見て、初めて自分から、

「悠里さん……

 このリボン、ちょっと大きいかも……

 もっと小さいのでいいですか……?」

悠里は無言で新しいリボンを取り出し、

凛の髪に結び直した。

悠里は、

「どう?」

凛は鏡に映る自分を見て、小さく微笑む。

「……これがいい……

 ありがとう……ございます」

この日、凛は悠里の隣に自分から座った。

コミュニケーションが、少しずつ芽生え始めた。


作詞の始まり、苦しみのスタート零が!

「次も凛が自分で歌詞を書くんだよ」

と告げた日。

凛はパニックになり、黒のアトリエに逃げ込んだ。

悠里の足元に座り込んだ。

「私……うまく書けないかも……

 悠里さん……どうしたら……」

悠里は裁縫の手を止めず、

ただ凛の頭をそっと撫でた。

「凛ちゃんが今感じてることは、全部本物。

 言葉は、いつか出てくるよ」

凛は悠里に笑顔を見せた。

「凛ちゃん、今一番言いたいことは何?」

「……離れないで……

 ……みんな……」

悠里は

「それを書いてみて。

 それが、凛ちゃんの歌詞よ」

凛は震える手で、


「HOLD ME Tonight」


と書いた。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ