セッション2 外されるヴェール
深夜1:42
株式会社BEGINNING Records 最上階・社長室】
部屋は薄暗く、窓の外の東京の夜景だけが光源。
神崎龍一社長はデスクに座り、背後の夜景を眺めている。
零は黒のレザージャケット姿で、静かに立っている。
神崎は静かに、でも決して揺るがぬ声で、
「2ndシングルから、凛を顔出しする。決定事項だ。」
零は姿勢を正し、丁寧に、しかし芯の通った言葉で、
「社長……当初の約束と異なります。
凛は声だけで世界を取ると、私が責任を持ってお約束したはずです。」
神崎はゆっくり振り返る。
「状況が変わった。
数字は圧倒的だが、視覚的なフックが足りない。
ADOは顔を隠してもダンスとラップという“見せ方”がある。
凛にはそれがない。
だったら、顔を出すしかない。」
零は目を伏せずに、静かに、
「凛の外見は、私が守るべきものです。
社長も最初はご理解くださいました。」
神崎は淡々と、しかし重く、
「零。君は最高のプロデューサーだ。
だからこそ言える。
今の時代、22歳で美人で清楚で、歌が上手い女性が
“癒し”として求められている。
それを隠し続ける理由は、もうない。」
零は一瞬、唇を結ぶ。
指先がわずかに震えるが、すぐに抑える。
「……凛はまだ、心の準備ができておりません。」
神崎、
「準備はこちらで整える。
次のMVも蜷川さんで。
凛の瞳を世界中に届ける。
ただ、ヴェールを外すだけです。」
長い沈黙。
零は静かに目を閉じ、開いて、
「……承知いたしました。
ただ、どうか一つだけお願いがあります。
凛が初めて顔を出す瞬間は、私がすべて決めさせてください。
カメラの位置、光の量、凛の表情……
私がそばにいて、凛を守ります。
それだけは、約束していただけますか?」
神崎がわずかに頷く。
「いいだろう。」
零はもう一度、深く頭を下げる。
「ありがとうございます。
凛のヴェールを外すのは、私自身です。
だから、どうか……
凛を傷つけないでください。」
神崎は小さく、優しく、
「君がいる限り、傷つける者はいないよ。」
零は静かに踵を返し、ドアを開ける。
出る前に、一度だけ振り返り、
「社長。
凛は私のすべてです。
だから、私が責任を持って、世界一美しい形で凛を届けます。
どうか、見守っていてください。」
ドアが静かに閉まる。神崎は一人残り、
夜景を見ながら小さく微笑んだ。神崎(独り言)
「……あの子は、本当に凛のことしか見ていないな。
それでいい。それで、最高のものが生まれる。」
翌朝
零は凛をStudio ZEROに呼び、
二人きりで、優しく告げる。
零は凛の頬にそっと触れながら、
「凛……ごめんね。
次は、少しだけ顔を見せることになった。
でも大丈夫。私が全部決めるから。
凛が怖かったら、いつでも私の胸に隠れてていい。
約束だよ。」
凛は零の指に自分の手を重ね、小さく、でも確かに頷いた。




