セッション3 風の歌
6月18日 木曜日 夜11:47
新宿・ワンルーム凛は、会社帰りのスーツのまま、玄関に崩れ落ちた。
黒髪ロングは汗で額に張り付き、白ワンピはバッグの中。
広告代理店のプレゼン資料を3回もやり直し、終電ギリギリ。
くたくた……でも、スマホを開く。
配信アーカイブ「雨の旋律」
視聴回数:7回(自分含め)
コメント:0
いいね:1 @rainy_ear
凛、画面を何度も拡大。
指が震える。
初めての「いいね」。
@rainy_ear さん……ありがとう。涙がポロリ。
会社員の疲れが、歌姫の喜びに変わる。
数日後の金曜日 朝。
また配信。
視聴者:1
コメント欄に、新しいリクエスト。
@rainy_ear
「今度は【風の歌】が聞きたい」
凛、即座にメモ帳を開く。
赤ペンで、「風」 を大きく書く。
風か……雨の次は、風。
休日。ベランダに出る。
春の風が、黒髪ロングをなびかせる。
アコギを抱え、窓全開。
コード:G → D → Em → C
風の音がマイクに入る。
アコギ+声。
再生。
風と声が重なる。
そしてミキシング。
これ、@rainy_earさんに、明日。
返信@rainy_ear さんへ
「風の歌、作りました。
明日、配信で歌います。
また、いいね、くださいね。」
送信。
既読はつかず。
でも、風が窓を通り抜ける。
風の歌
【https://drive.google.com/file/d/1n4Y6ZH0HWnGvFhnKfOe7tLY2-12_X49L/view?usp=drivesdk】




