セッション2 愛のカタチ
BEGINNING Records 7階
小さな休憩室MV撮影から丸一日。
凛はまだ目の奥が赤く、声もかすれている。
零が缶コーヒー2本持ってきて、窓際のソファに並んで座った。
零は缶を開けながらわざと軽い口調で、
「ねえ凛、ちょっと息抜きしようよ。
……恋バナでもする?
私、最近全然恋してないからさ、聞きたいなーって」
凛は最初、驚いたように零を見た。
でもすぐに、苦笑いしながら缶を受け取った。
「……零さんが恋バナって、意外です」
「ほら、女の子同士の定番じゃん。
凛は大学時代とか、彼氏いたんでしょ?
どんな人だった?」
沈黙が3秒。凛は窓の外を見ながら、
静かに、でもはっきりと話し始めた。
「いました。
2年間、付き合ってた。……最低な人でした」
零の指が、缶コーヒーで止まる。
リンは淡々と、でもどこか優しく、
「浮気は当たり前で、
お金も全部私が出して、
最後は私の歌を馬鹿にして、
別の女の前で『あいつは俺のアクセサリー』って言ってたのを、
たまたま聞いちゃって」
零の表情が、みるみる硬くなる。
「そのとき、本当に死にたくなった。
でも、逃げたり忘れたりできなくて。
……全部、受け止めたんです。
あんなに人を愛したことも、
あんなに傷つけられたことも、
全部、私の事実だから」
凛は初めて零を見て、
静かに微笑んだ。
「だから『I’ll never forget』の詞、
あの人から生まれた部分も、すごくあるんです。
透明なままの君へ……って、あの人のことも含めて、私はもう、誰のことも憎めないって気づいたから」
零は缶をテーブルに置き、頭を下げた。
「……ごめん。
軽い気持ちで聞いて、
傷をえぐっちゃった」
凛は首を振って、零の手をそっと握った。
「違うんです。
今は、本当に感謝してる。
あんな裏切りがなかったら、
私は本当の愛を知らないまま、
偽物の詞ばっかり書いてたかもしれない。
……零さんに出会えたことも、
全部、あの傷のおかげなんです」
零は顔を上げ、
凛の赤いままの目を見つめた。
そして、ふっと笑った。
「……凛って、本当に強いね」
凛も笑う。
「零さんがいるから、強くなれたんです」
二人は缶コーヒーを軽く合わせ小さな音がした。
「じゃあ、これからも一緒に、傷も愛も全部詞にしていこう」
「はい。」
15分だけの、つかの間のリラックスタイム。
でも、この15分が二人の絆を永遠に変えた。




