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セッション1 MV撮影

セッション1 甘くない世界

2026年6月22日(月) 22:45 ~


千葉県・廃鉄工所 完全封鎖

監督:蜷川実花

共同監督・音楽監督:零

撮影監督:クリストファー・ドイル(『花様年華』『2046』撮影)

22:45 

現場入り凛が到着した瞬間、蜷川実花は無言で凛のスマホを没収。

メイクも衣装も、すでに完成形。

挨拶なし。

笑顔なし、蜷川実花へ凛に一言だけ、

「今日から甘えは一切禁止。

 プロの世界は甘くない。

 泣いても、震えても、カメラは止まらない。

 覚悟はできた?」

凛は小さく頷くだけ。

声が出ない。


23:10 演出説明(容赦なし)蜷川

「ルールは3つだけ。

 1. 口パク禁止。ちゃんと真剣に歌え。

 2. 指示通りに動け。足が震えても、その場で耐える。

 3. 感情は自分で持ってこい。私たちは待たない。

 できなかったら、朝まで撮り直す。

 それがプロだ」

零は黙って横に立ち、

凛に一切優しい言葉をかけない。

これが、凛を守るための最後の甘えを断つ儀式だと決めたから。


23:30 本番開始

照明:背後から5000Kのハードライト16灯(容赦なく瞳を焼く)

スモーク:ドライアイス100%(目が痛くなる濃度)

カメラ:ARRI ALEXA 65、10m固定、寄りなしテイク1

凛、開始10秒で涙。

蜷川「カット。やり直し。涙は勝手に流せ。拭くな」

テイク4

凛の膝がガクガク震え始める。

蜷川

「震えてもいい。倒れるまで撮る」


テイク9

凛が耐えきれず、両手で顔を覆う。

蜷川

「手、下ろせ。顔を隠すな。これは逃げだ」

零も一切助けない。

ただ、遠くから凛をじっと見つめるだけ。


04:11 テイク17

凛はもう声も出ない。

目が真っ赤。

スモークで喉が焼ける。

足は完全に痙攣している。でも、そのとき初めて、

凛は涙を堪えたまま、零をまっすぐ見た。赤い瞳が、痛みと覚悟で、確かに燃えた。

蜷川が初めて小声で、


「そう……これ」


05:44 テイク23(最終テイク)

凛はもう限界を超えている。

膝が折れそう。

でも、零に向かって、ゆっくりと、

ほんの少しだけ、微笑んだ。

その瞬間、ハードライトが凛の輪郭を刃のように切り取り、スモークが血のように渦を巻き、赤い瞳けが、痛みの中で、静かに、確かに、生きていた。

蜷川が静かに

「……カット。終わり」

凛はその場に崩れ落ちた。

零が駆け寄り、抱き起こす。

蜷川実花が凛に初めて優しく、

「よく耐えた。

 これで、あなたはもう“甘い世界”には戻れない。

 プロになった。おめでとう」

凛は、零の胸で、掠れた声で呟いた。


「……痛かったけど……

 もう、怖くないです」

零は凛の震える背中を撫で、涙を堪えて言った。

「これが本当のデビューだよ。

 プロの世界へ、ようこそ」


『I’ll never forget』

MV!23テイク目で完成。

凛はただ痛みと覚悟を晒しただけ。

それが、世界を貫く映像になった。デビューまで、あと22日。

視界がプロの世界へと変わった。


挿絵(By みてみん)

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