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セッション6 本番レコーディング

2026年5月20日(月) 13:00 ~ 15:27

BEGINNING Records 地下1階 Studio ZERO

(完全防音・関係者立会い)13:00 スタジオ内

防音扉が閉められた瞬間、空気が変わった。

ブースの中、マイクスタンドの前に立っている。

ヘッドフォンは片耳だけ。目は閉じたまま。


ガラス越しに、12人の関係者が無言で並ぶ。

神崎龍一(社長)

高木(A&R部長)

佐藤(宣伝部長)

藤井(マネジメント部長)

石井(制作部長)

TAKUゲストギター

稲葉晃司(特別立会い)

そして、零はコンソールの中央に座り、髪を後ろに束ね、指一本動かさずに凛を見つめている。

誰も口を開かない。スピーカーはまだ無音。


13:03

零がインカムマイクに口を寄せた。

声は、いつになく低く、優しい。

「……凛、準備できた?」

ブースの中、凛は小さく頷く。

目を開けない。

「じゃあ、最初から通しでいくよ。

 間違えても気にしない。

 全部、1テイクで録るから」

全員が息を呑む。

零が再生ボタンを押す。

92BPM。

Eメジャー。遠くでピアノが鳴り始める。

凛は、まるで誰かに語りかけるように、

静かに歌い始めた。

「街の灯がにじんで見える夜は……」

声は、透き通っていて、

風通しがよく、ややハスキーな高音域が胸を締めつける。

誰も動かない。

TAKUが、腕を組んだまま、目を閉じて小さく頷いている。

稲葉晃司は、壁にもたれ、唇を噛んでいる。

神崎は、拳を固く握りしめている。

Verse 1 → Pre-Chorus → Chorus

「透明なままの君へ

 私はまだ約束を信じている……

 Shine on me…forever」

サビで、凛の声が少しだけ大きくなった瞬間、

コントロールルームの全員が、同時に息を呑んだ。零は涙を堪えて、フェーダーを微調整している。 


Bセクション。

凛の声が、ささやきになる。

「そっと目を閉じてみれば

 君の笑顔がまだここにある……」


佐藤(宣伝部長)が、

ガラスに額を押し当てて、

震えている。


2回目のChorus。

フルバンド爆発。

凛の声が、一気に空を突き抜ける。

「透明なままの君へ

 あなたの声を決して忘れません……

 Shine on me…永遠に」


ブリッジ。

凛は、ここで初めて、目を閉じたまま、

少しだけ微笑んだ。


「涙の跡が乾いてゆくたびに

 新しい朝が来るよ……」

そして、最後のコーラス。

キーアップ。ヘ長調へ。、

「透明なままの君へ

 私はまだ約束を信じている

 永遠に色褪せない想いを胸に刻んで歌い続ける

 どこにいても君に届くように

 Shine on me…透明なままの君へ…永遠に」


最後の「永遠に」が、

長く、

長く、

長く、

伸びて、

ゆっくりとフェードしていく。誰も、

息をしていない。曲が終わった瞬間、

スタジオは、

完全に無音になった。

零が、震える手で、

フェーダーを下ろした。

そして、インカムに、かすれた声で言った。

「……カット。 完璧」

凛は、

マイクスタンドから手を離し、ゆっくりと目を開けた。

コントロールルームで、最初に動いたのは、稲葉晃司だった。

彼は、

静かに、拍手を始めた。

一人、

二人、

全員が立ち上がって、

拍手がスタジオに響き渡った。

零は、ガラス越しに凛を見つめ、口だけ動かした。

「ありがとう」

凛は、微笑みながら、小さく頷いた。

神崎が、初めて口を開いた。

「……これで、 世界は変わる」

TAKUが、零の肩を叩いた。

「零……お前、またやったな」

零は、ただ、凛を見つめたまま、頷いた。

15:00

録音終了。

テイクは、たった1回。

誰も「もう1回」とは言わなかった。

必要なかった。


『I’ll never forget』

WIZARD デビュー曲本番ボーカル

1テイクで完成。


スタジオにいた全員が、一生忘れられない時間を共有した。


挿絵(By みてみん)


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