セッション2 白熱のプロジェクト会議
BEGINNING Records本社 22階 大会議室
【PROJECT WIZARD 最終戦略会議】
出席者12名(録音・録画禁止)
神崎龍一(63/社長)が 椅子に深く座り、腕組み。
「残り期間。甘えは一切なし。始めよう」
佐藤(42/宣伝部長)
「テレビはCDTV7月14日20:03トップ+FNS歌謡祭7月16日で確定。
問題は“見せ方”。顔出し? ヴェール? シルエット? どうする?」藤井」
藤井(39/マネジメント部長)
「私は完全顔出し派。22歳のフレッシュさを売りにしたい」
石井(45/制作部長)
「でも凛ちゃん本人は“まだ怖い”って言ってるだろ」
全員の視線が、テーブルの最奥に座る織田零へ。
零(35)は静かに口を開いた。
「ヴェールもシルエットもナシ。
顔は出す。
でも、はっきり見せない」
佐藤
「……どういうこと?」
零がリモコンを手に取り、スクリーンに一枚の静止画を映す。
真っ暗なステージ。
中央に立つ凛。
強烈な逆光。
顔は光の粒に溶けて、輪郭だけがぼんやりと浮かんでいる。
「すでにテスト済み。
ライトは後ろから3000K暖色10灯。
正面照明ゼロ。
カメラはF1.4単焦点。
結果、顔は常に“ぼやけた光の塊”になる。
目も鼻も口も、誰も正確に捉えられない」
高木
「動いたら?」
零
「動かさない。
7月13日ドームも、CDTVも、FNSも、
凛は半径2メートル。
その範囲でパフォーマンス。
基本、動くのは光と煙だけ」
佐藤
「MVは?」
零
「蜷川実花さんと共同監督。
レンズは全部ソフトフィルター3枚重ね+バセリン塗り。
最後のカットでピントが合うふりして、結局合わない。
観る人は“もう少しで顔が見えた”って何度も巻き戻す」
藤井
「グッズは?」
零
「公式写真も同じぼかし。
ファン拡大しても意味ない。
それが癖になる」
神崎
「要するに、顔は出してるけど誰も覚えられない、ってことだな」
零は微笑みながら、
「そう。
凛はまだ、はっきり見られたら壊れちゃう。
でも隠したくもない。
だから光で優しく包む。
私が、ぼかしてあげる」
佐藤は興奮気味で、
「最高に狂ってる! 即決!」
高木
「ティザーは?」
零
「30秒。真っ暗なスタジオで凛が一人。
同じぼかしライト。
最後に『2026.7.14』だけ浮かんで終わり。
声だけで800万はいく」
神崎が立ち上がる。
「異議ある者?」
誰も手を挙げない。神崎
「全会一致。
演出コンセプト『光でぼやかす』、総責任者織田零。 以上。」
零が最後に、静かに呟いた。零
「7月14日、CDTVの瞬間、
日本中が“誰……?”って息を呑む。
でも誰も顔を覚えられない。
覚えるのは、声と、輪郭だけ。
それでいい」
時計は14:49。会議終了。
誰も席を立たない。
全員が、まだ熱を帯びたまま、スクリーンのぼやけた凛の姿を見つめていた。
世界はまだ、彼女の顔を知らない。
でも、もうすぐ、忘れられなくなる。




