セッション4 二人三脚
スタジオ。
午前10時。零が鍵を閉める。
「今日から本気で始めるよ」
「覚悟してて」リンが小さく息を吸う。
「……はい。零さん」
零がパソコンを開く。
「まず、これ聴いて」
再生。Stellar Light FINAL MIX。
静かなピアノ。
星屑のようなシンセ。
サビで天が開ける。曲が終わる。
リンがヘッドフォンを外す。
「……DZのお二人が命をかけて書いてくださった曲。」
「うん」
零が立ち上がる。
「でも今のままじゃ届かない」
「だから今日から、少しずつ変える」
リンが唇を噛む。
「はい」
「まず、姿勢」
零がリンの肩に手を置く。
「肩の力、抜いて、次、呼吸。
お腹の奥から、ゆっくり吐いて……吸って」
何度か繰り返す。
「次、発声。『あ』って言ってみて」
「あ……」
「いいよ、もう一回、頭のてっぺんから響かせるイメージ」
リンが目を閉じる。
「あ……」
少しずつ伸びる。零がギターを手に取る。
「じゃあ、イントロの頭だけ、何回か歌ってみよう」
アルペジオが鳴る。リン、歌い始める。
1回目 少し硬い
2回目 少し良くなる
5回目 零が小さく頷く
10回目 リンが自分から言う
「もう一回、お願いします」
零が微笑む。
「やる気が伝わってくるよ」
リンが恥ずかしそうに頷く。
「はい……もっと、ちゃんと歌いたいです」
午後6時。リンは汗をかいている。
でも目は燃えている。
「零さん、通しで、もう一回いいですか?」
零がギターを構え直す。
「もちろん」
イントロ。リンが深呼吸。
まっすぐ前を見て、歌い始める。
声が、確かに変わった。
スタジオの空気が震える。
曲が終わった。
リンが小さく息を吐く。そして、ふっと笑う。
「……私、少しだけ、行けそうな気がしてきました」零がギターを下ろす。リンの頭を軽く撫でる。
「うん、届くよ」
そして、静かに告げる。
「本番の日、私もステージに上がるから」
リンが顔を上げる。
「コーラスとサポートギターで、私、リンのすぐ後ろにいる」
リンが一瞬目を丸くする。それから、はっきりとした声で。
「……ありがとうございます。零さん」
泣き顔は、もうなかった。
覚悟の光だけがあった。零が心の中で呟く。
(これで、いい
この子は、もう泣かない
私が全部、受け止める)
最初のレッスンは、涙ではなく、確かな一歩で終わった。
Stellar Lightは、二人で確かに動き始めていた。




