セッション5 初ステージ
BEGINNING Records 地下第3スタジオ凛からのLINEが、零のスマホを震わせた。
【凛 → 織田さん】
「すみません、急に……
やっぱり私、無理かもしれないです。
ステージに立ったこともないし、
人前で歌ったこともほとんどなくて……
配信は画面越しだからできたけど、
実際にお客さんの前で歌うなんて、想像しただけで足が震えます」零はすぐに電話をかけた。
凛は3コール目で出た。声が小さく震えている。「凛、今どこ?」
「……家です」
「30分で行くから、待ってて」
30分後,凛のマンション前零はマスクとニット帽で顔を隠し、
凛の部屋に上がった。
初めて見る凛の部屋は、予想以上に質素で、
小さなマイクとPCだけが、彼女のすべてだった。凛は膝を抱えてソファに座り、
俯いたままだった。
「私……本当にデビューできるんですか?
曲は作れるけど、ライブとか、テレビとか……
全部、経験ゼロなんです」
零は隣に座り、
優しく、でもはっきりと答えた。
「経験ゼロだから、いいんだよ。
凛の歌は、まだ誰にも汚されてない。
でも、不安なのはわかる。 だから、まず一歩だけ、踏み出してみない?」
凛が顔を上げる。
「……一歩?」
「うん。ステージに立つ、最初の一歩」
零はスマホを取り出し、
スケジュールを開いた。
「来月、2月、うちの所属のライブがあるんだ。
横浜アリーナ、WAVE。
日本武道館でEternal Flame。
まだバックコーラスを入れてない曲が2曲ある。 そこに、ノークレジットで入ってもらう」
凛の目が見開く。
「え……私、バックコーラス……?」
「うん。名前は出さない。
ステージの暗いところで、ただ歌うだけ。
大観衆、 本物の照明と、 本物の歓声を感じてほしい」
凛は唇を噛んだ。
「……怖いです」
「私も、横にいる。一緒にステージに立つ」
凛は驚いて零を見た。
「織田さんも……?」
「もちろん。私はプロデューサーとして、
二組に楽曲提供してるからバックでギター弾く予定だったから。
一緒に並んで、歌おう」
零は微笑んだ。
「これが、二人三脚の特訓の第一歩。
失敗しても、誰も凛だって知らない。
でも、成功したら……
凛はもう、“ステージに立てる”って自信が持てる」凛はしばらく黙って、
やがて、小さく頷いた。
「……わかりました。 やります」
零は立ち上がり、
凛の手を取った。
「じゃあ、明日から特訓開始ね。
毎日、夜9時からここで。
私はギター持ってくる」
翌日から、本当の二人三脚が始まった。
・ハモリの精度を合わせる日
・ステージ上での立ち位置練習
・マイクの距離感
・歓声の中でも声がブレない発声
・暗闇での目線の送り方凛は毎日、会社から帰ると、
零が待っている部屋で、汗だくになるまで歌った。零は、時に厳しく、時に優しく、凛の手を取って、
「ここ、もう少し息を抜いて」
「目線、客席の最後列まで届けて」
と、一音一音を磨いていく。
2月27日 WAVEのライブ当日。
震える足でステージ袖に立っていた。零が、そっと肩に手を置いた。
「大丈夫。私がいる」
「……はい」
本番、3曲目の「世界中の誰よりきっと」
【https://drive.google.com/file/d/1uPtB7tr7kwqJKEldz2ZkabX1NyHNtZ43/view?usp=drivesdk】
初めて凛の声が、横浜アリーナの上に重なった。
透き通る高音が、会場を貫いた瞬間、
客席がざわめいた。
「今のコーラス、誰!?」
「ヤバくない?」
凛の声は最後までブレなかった。
ステージを降りた瞬間、
凛は零に抱きついた。
「私……歌えました……!」
「うん、完璧だったよ」
零は凛の頭を優しく撫でて、
小さく呟いた。
そして2日後、Eternal Flameのライブ。
オープニング曲
「刹那さを消せやしない」
【https://drive.google.com/file/d/1vdaGTsiMzbZCmIuFGBLguDl-klOEm-qS/view?usp=drivesdk】
を完璧なハモリで、やり遂げた。
ノークレジットのコーラスが、密かに話題となっていた。
※音源の実在のコーラスは宇徳敬子さんです。




