表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
景虎  作者: 三峰三郎
3/6

景虎 3

「して、如何に語ったのでございますか」

 

 宗親は、暫く続いた沈黙に耐えきれずに尋ねた。


「ままを、言って聞かせた」


 景虎は自嘲の籠った笑みを口辺に浮かべて呟いた。

 宗親は唾を飲み下すと、無言で景虎を窺った。

 こちらの疑問を察した景虎は、鼻で息をついた。


「目を赤らめて、何かに耐えるような表情をしていた。しかし、何も言わなかった。その時は、ただ向かい合ったまま、互いに嗚咽を漏らしていた」


「無慈悲で、ございますな」


 宗親は、それ以上言葉を継ぐことができなかった。


「父と兄を恨んではいない。むしろ、関東の平穏を想ってのことだと理解している。それに、不識庵(ふしきあん)様にお会いできたと思えば、幸福だったともいえる」


 景虎は、おもむろに夜空を見上げた。

 半月はすでに、ここからでは見えない位置にまで上っていた。

 月明かりに照らされて、闇夜に沈んでいた庭の脇に植えられた一本の桜が視界に浮かび上がっていた。

 すでにほとんどの花弁は散り、青葉が生い茂っている。

 しかし、二、三の花弁が枝葉に隠れて密かに咲いているのが見えた。


「不識庵様とはじめてお会いした時のことは、よく覚えている」


 景虎は視線を戻すと、膝にのせていた盃を再び口へと運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ