景虎 3
「して、如何に語ったのでございますか」
宗親は、暫く続いた沈黙に耐えきれずに尋ねた。
「ままを、言って聞かせた」
景虎は自嘲の籠った笑みを口辺に浮かべて呟いた。
宗親は唾を飲み下すと、無言で景虎を窺った。
こちらの疑問を察した景虎は、鼻で息をついた。
「目を赤らめて、何かに耐えるような表情をしていた。しかし、何も言わなかった。その時は、ただ向かい合ったまま、互いに嗚咽を漏らしていた」
「無慈悲で、ございますな」
宗親は、それ以上言葉を継ぐことができなかった。
「父と兄を恨んではいない。むしろ、関東の平穏を想ってのことだと理解している。それに、不識庵様にお会いできたと思えば、幸福だったともいえる」
景虎は、おもむろに夜空を見上げた。
半月はすでに、ここからでは見えない位置にまで上っていた。
月明かりに照らされて、闇夜に沈んでいた庭の脇に植えられた一本の桜が視界に浮かび上がっていた。
すでにほとんどの花弁は散り、青葉が生い茂っている。
しかし、二、三の花弁が枝葉に隠れて密かに咲いているのが見えた。
「不識庵様とはじめてお会いした時のことは、よく覚えている」
景虎は視線を戻すと、膝にのせていた盃を再び口へと運んだ。




