第8話
美人さんが祈りの祝詞を捧げ始めた。
「我らを導きし偉大にして慈悲深き神よ、下界に彷徨いし哀れなる魂に、今一度輝くための時をお与えください。 リザレクション 」
僧侶という職業カテゴリーがあって、実際に戦闘に必須だとするならば、奇跡の力は存在するし、偉大な存在として神はこの世界に根ざしているのだ。
実際に僕も神様のような存在に導いてもらって今があるわけで、もう無神論者なんて言っていられない。
復活を告げる魔法が発動すると、メルディさんの遺体の上に金色の光が収束し始めた。
その光は少しずつ人の形を為していき、最後には光輝く少女の裸体となって遺体に吸い込まれていった。
僕は見てはいけないものを見てしまい、慌てて目線を床に落とした。
復活の儀式は、異性が見ちゃダメなやつじゃないか…。
光の塊とはいえ、裸を覗き見てしまったような罪悪感で、心臓がバクバクしている。
こんな神聖な場面で不謹慎だとは思うけど、許してほしい。免疫がなさ過ぎる…。
「ここは?」
床を凝視していた僕の耳に、初めて聞く女性の声が届き、儀式が成功したとわかってほっとした。
「メルディ~、よかったのじゃ~!」
「痛い、痛いです!トリスさん、力を弱めてください!」
顔を上げると、感動の再会のはずがトリスの暴走で可笑しな場面になっていて、緊張の緩んだ僕はつい笑ってしまった。
でも、隣ではニーナが腕で涙を拭いながら、「よかったにゃ…。」と呟いたのを見て、笑ったのは違うなと反省した。
ここはゲームの世界じゃなく、死は身近に確かにあるのだ。
全滅したらロードすれば戻れるなんてことはない。
方針を僕に委ねるよう約束させたからには、選択を誤るようなことは許されない。
「テレサ様、私、死んだのですか?」
メルディさんは自分が寝台で目覚めたことで、状況を判断したのだろう。
「そうですよ。私が教えを施した者の中でも、過去に前例のない早さで遺体となって戻ってきました。今後は慎重を期すように。」
美人さん改めテレサさんは、言わなくてもいいことまで言っているように思ったけど、慈愛に満ちた表情を見るに、優しい人なんだろう。
「ニーナ、お金はどうしたの?」
「ユウに貸してもらったにゃ。」
僕の袖をグイグイ引っ張りながらニーナが答える。
涙は止まったようだけど、目が真っ赤だな。
「返済するまで仲間になったのじゃ。今後の方針はユウに一任なのじゃ。」
2人の話を聞いてメルディさんは驚いたようだけど、慌てて寝台から降り、僕に向けて深々とお辞儀をした。
「あの、助けていただいてありがとうございました。」
言動から判断するに、メルディさんもいい子のようで安心した。
「僕もパーティーを探していたし、トリスもニーナもいい子そうだったから、一緒に頑張りたいって思ったんだよ。だから感謝は2人にしてあげて。」
年下なのは間違いないけど緊張はする。
それでも、仲間としてやっていくのだからと深呼吸で心を落ち着け、僕は緊張を押し殺して想いを伝えることができた。
「それでトリスさん、いくら貸してもらったの?」
「金貨100枚じゃ。」
その金額に再び魂が肉体を離れそうになったメルディさんの肩を、トリスが掴んで揺さぶったことで事なきを得たけど、「痛い、痛い!」という悲鳴にやっぱり笑ってしまった。
「とりあえず、メルディさんは着替えないとだね。」
服は血に染まっているし、腹部は裂けちゃっているのでこのままはよくない。というか目に毒だ…。
「ユウさん、メルディでいいですよ。」
「そういうことなら、僕もユウでいいですよ。」
「いえいえ、命の恩人ですし、『ユウさん』と呼ばせてください。」
メルディが首を左右にブンブン振りながら言うので、押し負けたというか女性に反論する勇気が無かったというか…。
それから僕たちは教会を出て、トリス達が泊まっているという宿に向かった。
仲間のステータスの確認や今後の方針を話し合おうということになったのだけど、辿り着いた宿というのは裏路地にある多分最底辺のグレードのものだった。
路地には、まだ夕方だというのに酒瓶を片手にグッタリと座り込む男性の姿もあって治安最低という印象だよ。
そういえば『路銀が尽きそう』ってニーナが言ってたっけ。
しばらくは経済的な援助も必要だと腹を括るしかなさそうだ…。




