第44話
誰かの話し声が僕を眠りから覚ましたけど、まだ意識がハッキリせず、ぼんやりと話し声を聞き流していた。
「相変わらずユウは寝坊助さんじゃな。」
「疲れているのだろう。もう少し待ってみてはどうだろうか?」
「これ以上待ったら、店が閉まるにゃ。」
「何か屋台で買ってきましょうか?」
「カリンの加入を祝って、この前の店に行こうって言ったのはユウにゃ。」
「あの、私は今日でなくても大丈夫ですよ。」
「そういう訳にはいかないのじゃ。よし、我が起こしてやろう。」
何か嫌な予感がして、意識が一気に覚醒し目を開くと、トリスが僕の体に向けてダイブする姿が飛び込んできた。
あ、これはやばい…。胸部に重い衝撃が走り息ができず悶絶する。
「どうじゃ。爺様はこの起こし方をすると喜んだのじゃ。」
ドワーフの分厚い胸板と一緒にしないでほしい…。それに孫が起こしてくれたら、お爺ちゃんは嬉しいだろうね…。
「ユウさん、大丈夫ですか!?」
心配して手を伸ばしかけたカリンさんが、躊躇ってその手を止めた。
メルディに続き、第2のフラワー・フラグメントの良心が誕生してくれたことを嬉しく思うよ…。
僕は宙を彷徨うカリンさんの手を握って、「心配してくれてありがとう。」と伝えた。
カリンさんが頬を染めたのを見て、僕から手を握った事実に気がつき、カリンさん以上に顔を真っ赤にして慌てて手を離した。
寝起きとはいえ、僕がこんなに大胆な行動をとったことに驚いたけど、カリンさんを守ってあげたい気持ちがそうさせたように思う。
うーん、妹っていうより、泣き虫な幼なじみの女の子みたいな感じかな?
とりあえず、そういうことにしておこう。
どうせ女性になってしまった僕は、誰かと恋愛関係になることもないしね…。
遅くなってしまったことを詫びて、すぐに準備を済ませると、みんなで前回利用した高級店に向かった。
なんか家族で奮発して洋食レストランに行くみたいで胸が躍る。
みんなも嬉しそうで、何を食べるかで盛り上がるいつもの光景が微笑ましい。
今回は各自食べてみたい一品料理とケーキを頼むことになったので、僕もメニューを隅々までチェックしてみた。
そこで僕は運命のメニューに巡り会ってしまった。
ガーリックバターライス!?ライスだと!?しかも、なんか凄い高い…。
動揺しつつも、すぐさま近くにいた給仕の女性に確認してみる。
「あの、ライスというのは、どんなものですか?」
「ライスは、東方の島国との貿易で手に入るようになった穀物なんですよ。まだ出回っている量も少なく、輸送にも手間がかかりますので高価ですが、甘みがあり美食家の間では注目されているそうです。」
これは米で間違いないだろう。東方の島国、実に気になる存在だな。
「では、僕はガーリックバターライスとピーチタルト、それに白ワインをお願いします。」
「ピーチタルトは、ユウさんのお勧めですか?それなら、私もピーチタルトにしてみます!」
どのケーキがいいのかメニュー名から判断できないようで、困っていたメルディが僕に便乗する。
結局、メルディはポークステーキとピーチタルトに赤ワインを注文していた。
なんだかんだ言って、毎回赤ワインは飲むんだよなぁ。酔った感じが可愛いのでいいんだけど。
トリスは牛肉の赤ワイン煮込みとサバランに火酒を注文していた。
全てに酒が含まれているとは徹底しているなぁ…。
ニーナは赤身魚のムニエルとチョコレートケーキに赤ワイン。毎食、魚は飽きないのかなぁと思うけど、全ての魚料理を食べることが夢なんだから問題ないんだろうなぁ。
アーシアさんは僕の頼んだメニューに興味をもったようで、ガーリックバターライスとベイクドチーズケーキに白ワインを注文していた。
カリンさんは高級店に萎縮しているみたいだし、何を頼んでいいのか困っていたみたいだった。
結局、「ニーナさんと同じものでお願いします…。」と自分で決めるのを諦めたみたいだけど、次に行くときには、みんなの感想を聞いて自分の食べたいものを注文できるといいなと思う。
帰り道はいつもの感想大会になるけど、今回は僕も参戦することになった。
「ライスという穀物は初めて食したが、悪くない味だったな。」
「僕は大満足でしたよ。ずっと食べたいと思っていたので、口にしたときは泣きそうになりました。」
「そんなにも食べてみたかったのか…。」
アーシアさんが僕の熱量にひいているような…。
「ユウさんのお勧めのピーチタルトも美味しかったですよ!ピーチは甘くてしっとりしてて、最高の果物ですね。初めて食べましたけど、虜になりました。」
「うん、確かに美味しかったね。今度は普通に皮をむいただけの状態でピーチを食べてみたいかも。」
桃は高級な果物みたいで、庶民はなかなか食べる機会がないみたい。
喜んでもらえてよかったよ。
「どれも美味しかったのじゃ~。ユウに出会えてからお酒が飲めるようになって感謝しているのじゃ~。」
そう言いながら、僕にくっついて甘えてくるのでドキドキしてしまう…。
珍しくトリスが酔っ払っている。火酒をおかわりしていたしなぁ。
まぁ、酔うと甘えてくるのは可愛いから、さっきのボディープレスのことは水に流そう。
「ムニエルはどうだったにゃ?」
「驚きました。バターを使うとあんなに濃厚な味になるのですね。今まで食べた料理で一番美味しかったです。」
「これからも一緒に世界の魚を食べ尽くすにゃ!」
「はい、お供します。」
魚以外も食べたいのではないかと心配になったけど、ニーナに振り回されているほうが早くパーティーに馴染めそうな気がして、これはこれでいいのかなと思った。
その後も、メルディがチーズケーキとチョコケーキの評価を執拗に聞き出したり、ニーナが海に行って生魚の料理を食べてみたいと夢を語ったりしているうちにホームに帰りついた。
タライのお風呂初体験のカリンさんは、ほぼ毎日風呂に入ることに驚いていたけど、「使い方を教えてやるにゃ。」とニーナが引っ張っていく。
「えっ、私と一緒に入るのですか?」とカリンさんは動揺していたけど、「当然にゃ!アチシが背中を洗ってやるにゃ。」と言われると、頬を染めて大人しくついていった。
ニーナからすると、面倒をみてやらないといけない妹分みたいな感じなのかも。
風呂の順番を待ちながら、リビングでまったりしているとアーシアさんに話しかけられた。
「明日は朝からダンジョンに挑むのか?」
「そうですね。カリンさんとの連携も確認したいし、レベルを上げておくようにギルド長にも言われているので。」
「ギルド長からですか?」
「うん。一層の深部に侵攻をかけることになると予想しているみたいで、フラワー・フラグメントも参加できるようになっておいて欲しいんだって。」
「そうか…。私も父上のように武功をあげられるといいのだが。」
「ゴブリンなど、爺様からもらった槌で蹴散らしてやるのじゃ。」
「うん、頼りにしているよ。」
いよいよ6人フルメンバーでのダンジョン探索が明日から始まると思うと、僕は胸が躍るのを抑えることができなかった。




