第41話
「えっと、緑髪の男性だったと思います。」
カリンさんが記憶をたぐりながら発した言葉に場が凍った。
その特徴から、金髪美人のテレサさんではないことは確かだ。
僕がリップルさんに問いかけるより早く、2階へ上がる階段のほうからギルド長の命令が響き渡った。
「真偽が判明するまで、ギルドへの出入りを禁止する!」
ギルド内に緊張が走り、誰もが動いていいのか、喋っていいのかも分からずにいる。
その中で、ギルド長が次々と指示を飛ばしていった。
レッド・ムーンの面々は拘束され、内密にテレサさんを連れてくるようにギルド幹部と思われる人に伝えていた。
レッド・ムーンの荷物が検められ、出てきた薬瓶は年配の受付さんが薬剤ギルドへ鑑定依頼に向かった。
「嬢ちゃん、死んだときのことを思い出せる範囲で話してくれ。」
一通りの指示を終えると、ギルド長がカリンさんに聞き込みを開始した。
「あの、2層のカマキリの魔物に何度も攻撃を受けて、たくさん流血して意識がなくなりました。」
「嬢ちゃんのその時のレベルは?」
「まだ1でした。」
レベル1で2層!?
それって自殺行為だろ…。連れて行かれたなら、殺す気かって叫びたくなる。
「流血しているときに、ヒールをかけてもらえたか?」
「意識のあるうちは、かけてもらえなかったです。」
ギルド長は、鋭い視線をレッド・ムーンの面々に向けた。
「おい、レベル1のヒヨッコを2層に連れていって前衛に立たせ、気を失うまでヒールをかけなかったとなると、仲間殺しの嫌疑がかかるが何か反論はあるか?」
「その女が役立たず過ぎて、ヒールが間に合わなかっただけだ!」
苦しい言い訳を聞き終えると、ギルド長はリーダーの男の顔面を蹴り飛ばした。
冒険者同士の暴力は規約違反なのでは…。
「新人を2層に引っ張り込んでおいて、役立たず呼ばわりか!?」
ギルド長の圧にその場の皆が身を竦ませてしまった。
言い逃れは無理と悟ったのか、リーダーの男が僕を睨みつけて、腹いせに不快極まりない発言をした。
「勝ったつもりだろうがなぁ、すぐに後悔することになるぜ!その女はなぁ、不幸を呼び込む『忌み子』だぞ!」
その単語に、ギルド内がざわつき始める。
心配になりカリンさんを見ると、身を震わせ両手で顔を覆っていた。
怒りが上限を超える感覚を味わったのは、この時が初めてだった。
杖を握る手に力が籠もる。一回目は厳重注意だったな。それなら、やってやろうかと沸騰する頭で直情的な思考に捕らわれたとき、ニーナの叫びで我に返った。
「忌み子だから、なんにゃ!そんなの人間しか信じてないにゃ!」
そうだ、今するべきは暴力で返すことじゃない。カリンさんの尊厳を守ることだ。
「僕は人間だけど、そんなの信じてないよ。」
「私も信じません。カリンさんはいい人です!」
「カリンは大切な仲間だ。仮に災いが起こるというなら協力して解決する。それが仲間というものだろう?」
最後は、カリンさんに優しく問いかけるようだった。
「未知のダンジョンに挑もうという猛者が、200年も前の伝承に怯えるなんて情けないのじゃ。」
トリスの言葉は、冒険者という仕事に誇りをもつ者の心に刺さっただろう。
なんだかなぁ。僕が何かしなくたって、ちゃんとみんながカリンさんを守ってくれるじゃないか。
僕は幸運だ。こんなにも頼りになる仲間を得られたんだから。
ギルド内の緊張が和らぎ、「いいぞ!それでこそ冒険者だ!」と一人の男が僕らに声をかけると、賞賛する雰囲気が広がっていった。
ギルド長も圧を緩め、アーシアさんを慈しむように眺めた。
「リップル、嬢ちゃんたちを会議室に案内して、茶でも入れてやれ。」
「ひゃい!」
リップルさん、声が裏返ってる…。ギルド長って恐れられてるんだな…。
リップルさんに案内されて2階の会議室に入ると、VIP専用なのか豪華な調度品に目がいく。
勧められるままにフカフカのソファーに腰掛けて、リップルさんの煎れてくれたお茶を啜っていると、僕らは徐々に緊張から解き放たれていった。
「みなさん、ありがとうございます。こんなにも優しくしてもらえるなんて…。」
感極まったのか、カリンさんは堪えていた涙を流し始めた。
「確かに、その痣のせいでカリンさんは今まで苦しみ続けてきたと思う。でもね、その痣があったからカリンさんは冒険者を目指し、この町にきて僕たちに出会った。これまでの苦労はこの出会いのためだったんだと思えるくらい、楽しくて充実した日々を一緒に過ごそうよ。」
「この痣があったから…。」
涙を流しながらも、カリンさんの声には希望が含まれていた。
「私も、みなさんと楽しく生きていきたいです。どうか、よろしくお願いします。」
「堅苦しいにゃ。アチシとカリンはサカナカマなんだから、気楽にしてくれたらいいにゃ。」
いつの間にか、カリンさんが変なグループの一員にされていた…。




