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第40話

10時を少し過ぎた頃、レッド・ムーンの面々がギルドにやってきた。

彼らはギルド内を見回すと、僕たちと一緒に座っているカリンさんの姿をみつけ、不機嫌そうに近づいてきた。

リップルさんも約束どおり、受付から出て僕らのテーブル近くに待機してくれた。


「チッ、昨日のクソ生意気な女と一緒か。行くぞ、カリン。」

明らかに敵意の目を僕に向けながら、リーダー格の男がカリンさんの腕を掴もうとする。

その腕をトリスが払いのけて、睨みつける。

「うちのカリンに何の用じゃ?」

「はっ!?カリンはレッド・ムーン所属だぞ。頭でも打ったか?」

怒りと嘲笑が入り交じった言葉に他の男達も下卑た笑いを漏らす。


「おまえらのとこは抜けて、今日からアチシたちのパーティーに入ったにゃ。」

ニーナも気が立っているな。獲物を狙うような鋭い目になっている。

「何を勝手なこと言ってやがる!カリン、まさか契約のこと忘れてねぇよな?」

カリンさんは顔を伏せ、身を震わせていたが、その手をメルディがギュっと握りしめ、「大丈夫ですよ。」と優しく声をかけた。


「お前達の主張する契約とやらだが、カリンは署名した覚えはないと言っているぞ。契約書の偽造は重罪だ。役所に通報されたくなければ、今後一切カリンに近づかないことだな。」

「ふざけんな!偽造なんかしてねぇし、カリンが間違いなく署名をした!」

「そんなに言うなら、確認してやるから、その契約書とやらを見せてみろ。」

「クソが!おい、契約書をだせ!」

後ろに控える男の一人が、慌ててポーチから一枚の紙切れを取り出すと、リーダーがひったくってテーブルに叩きつけた。

「どうだ!難癖つけてんじゃねぇよ。」


完全にアーシアさんのペースに乗せられてるなぁ。

まずは契約書を検める必要があるって言ってたし、まんまと向こうから出させた手腕に感服してしまう。

「どれ、確認させてもらおう。」

そう言うと契約書を手に取り、急に大声で読み上げ始めた。


その非常識で死に至った者に不当な重圧をかける内容が耳に入ると、ギルドにいた他の冒険者たちもザワつき始めた。

「なんだよ、死は自己責任ってこと?」「尽くすって何?」「パーティーを抜ける自由もないの?」「借金返済まで収入をパーティーリーダーが管理するって、どういうこと!?」

ロビー内が騒然となるなか、リーダー格の男は青筋をたて怒りに震えている。

「おい!声に出して読むんじゃねぇ!」

「聞かれては困るような内容なのか?もしそうなら契約の妥当性が疑われるぞ。」

言い返したいのだろうが、言えば不利になると思ったのか、怒りに身を震わせつつ読み終わるのを待っている。


「ふむ、やはり偽造だな。こんな不利な内容で署名する者はいない。それに指印も押されていないのでは、正式な契約として認められないぞ。」

ギルド内の他の冒険者たちも同意見のような反応を示すが、当然レッド・ムーンの男達は納得しない。

「そのバカ女は署名したんだよ!カリン、署名したよな?」

リーダーの男は、脅すように強い口調でカリンさんに迫った。

「私は、署名した覚えはありません…。」


「ふざけんな!」

怒りが限界を超え理性が吹っ飛んだのか、男はカリンさんに殴りかかった。

咄嗟にカリンさんを庇ったトリスの頬にその拳が当たる。

その瞬間、僕の胸の内が急速に冷え込み、絶対に許さないぞと心が決まった。

「なんじゃ?嘘の契約が通じないとなれば、今度は暴力か?」

挑発するように言い放つトリス。

こういうときトリスは男前というか、僕の心が本当の女性だったら惚れてしまいそうだ。


「冒険者同士の暴力は、ギルドの規約に違反します。一度目は厳重注意、2度目は資格失効よ。」

リップルさんに鋭く咎められ、さすがに拳を下ろさざるを得なかったようだ。

そこに、慌ててナーラという受付嬢が駆けつけてきて、リーダー格の男を制止する。

「ちょっと貴族の娘を相手に何やってるのよ!相手が悪いわ。もうその女のことは諦めなさい。」

まがいなりにも担当だろ?それなのにカリンさんを『その女』と呼ぶのかよ!


貴族というワードは相当強烈だったみたいで、レッド・ムーンの面々の勢いが急激に削がれた。

「契約が偽造とは認めないが、破棄でいい。だが、お前の蘇生にかかった金貨100枚は払ってもらうぞ。」

そうくるか。カリンさんを手放すなら、せめて元手だけでも回収したいと。


そのとき、耳元でメルディが囁いた。

「今の言葉、何か騙そうとする悪意を感じました。」

騙す?どこかに嘘を紛れ込ませたのか?


『破棄でいい』は本当は破棄する気が無いとか?

『蘇生にかかった金貨100枚』が嘘ということはあり得るのか?


「カリンさん、蘇生を受けたときのことを思い出してほしいのだけど、蘇生の儀式を執り行ってくれた人は、どんな人だった?」

僕の問いかけに、レッド・ムーンの面々が顔を青くしたのを僕は見逃さなかった。


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