第4話
大通りには装備品を売る店や保存食やキャンプ用品を売る店、酒場などが多く並んでいた。
冒険者ギルドのある通りだから、自然とそういう店が増えていったんだろうなぁ。
ついつい興奮してしまい、覗いてみたい衝動を抑えるのが大変だよ。
通りを歩き始めてから5分ほど、右手に2階建ての大きな建物が見えてきた。
気付くと早歩きになっていて、建物の目の前までくると少し息が上がっていた。
おかしいな、このくらいで息が上がるなんて…。この女性の体、だいぶ運動不足では?
それに胸って重いんだな…。女性の肩こりの原因はこれかも。
まぁ、体力はこれから鍛えればいいか。
気を取り直して改めて建物を観察すると、看板には間違いなく『冒険者ギルド』とあった。
本当にあったよ、冒険者ギルド!
夢見た場所、きっと綺麗なお姉さんが受付嬢をしているはず。
マンガやアニメの通りならだけど…。
僕は扉を開け、恐る恐る中に入ってみた。
ドキドキしながら見渡してみると、正面奥にはいくつかの受付ブースが並んでいる。
右手には横に長い木製の掲示板が設置されていて、B5サイズくらいの紙が何枚も貼られ、それに冒険者風の人達が群がっていた。
左側にはベンチや丸テーブルがいくつも設置されていて、待ち合わせをするためのスペースのように見える。
うん、イメージ通りだ。ついに冒険者デビューの時がきた。
僕は高揚する気持ちを抑え、受付に向けて歩き出した。
受付ブースは6つもあり、それぞれに受付のお姉さんがいる。
なんか、混んでいるブースとガラガラのブースがあって、テレビで見たアイドルの握手会を連想してしまった。
まぁ、ガラガラのところでいいよね。登録するだけだし。
僕は誰も並んでいない一番右のブースの前に進んだ。
受付ブースまで、まだ3mほど距離があるんだけど、受付のお姉さんと目が合ってしまい、急に緊張で足が止まってしまう。
僕の足が止まったことで、お姉さんは期待に満ちた目から、やさぐれた態度に変わった。
接客業なんだから、そんなあからさまな態度はどうかと…。
頬杖ついてソッポをむいたお姉さんは、白髪に兎の耳がピンとのびる美人で、出るとこ出ている…。なんで人気ないのだろう…。
今から、あのお姉さんと話すと思うと、緊張で鼓動が速くなる。
落ち着け、ビジネス会話じゃないか。
仕事でも、相手先の女性社員と事務的な話をしてきたじゃないか。
勿論、緊張はしていたけど、なんとかなっていた。
深呼吸を繰り返し、踏み出そうとしたとき、隣の列に並ぶ男性から声をかけられた。
「おいおい、キラーラビットは止めとけって。」
あのお姉さん、随分ぶっそうなあだ名で呼ばれているんだな…。
「なんで、そんなふうに呼ばれているんですか?」
「あいつの常連パーティーが、ここ最近で3つも全滅してる。冒険者は運も大事だぜ。」
なるほどね。まぁ、言っていることはわかるよ。
縁起が悪いのは、命をかけて戦う仕事の冒険者にとっては避けておきたいだろう。
「私、冒険者登録に来ただけなので、どなたでも大丈夫かと…。」
「別に気にしないってんなら、いいけどよ。早死にしないように精々気をつけるんだな。」
男性はヘソを曲げてしまったようだ。
まぁ親切で忠告してくれたのに、言うこと聞かなかったわけだし仕方ないかな。
前世でも僕は無神論者というか、験担ぎとか意味を感じないほうだったので、空いているところでいいし、なんか一度期待させてしまった手前、他の列に並ぶのも忍びない。
僕が受付ブースの前まで進むと、お姉さんは慌てた様子で急に営業スマイルで取繕った。
「いらっしゃいませ。今日はどのような依頼を受注なさいますか?」
なんかメイド喫茶の店員さんみたいな服装で、胸には『リップル』と名札がついている。
僕が緊張で声が出せず沈黙してしまうと、リップルさんは怪訝そうに顔を覗き込んできた。
「どうかされましたか?」
近い、近い…。それに胸元が見えてますけど…。
「あ、あの…。ぼ、ぼ、ぼ、冒険者登録をお願いします!」
言えた!よかった!
僕が達成感を感じていると、お姉さんは溜息をついた。
「なんだ、登録ですか。」
なんだろう、この落差。依頼の斡旋とかで給料歩合制なのかな…。
「ここに必要事項を記入して。」
リップルさんは、ぶっきらぼうに一枚の紙を受付の上に置いた。
まぁ、登録さえできればいいけどさ…。
えっと、名前と職業、レベルを書けばいいだけか。
僕は名前に『ユウ』、職業に『魔法使い』と書いたところで、ペンを止めてしまった。
あれ、僕のレベルは『1』なのか?そもそもレベルはどうやって決まるのだろう…。
「あ、あの、レベルはどうしたらわかりますか?」
うわ、睨まれた…。
「ふざけているの?どうせ照合するんだから、さっさとステータス見せて。」
ステータスを見せる?どうやって?
僕が困惑していると、他のブースから救いとなる会話が聞こえてきた。
「ステータス・オープン」
「はい、確かに10レベル到達を確認しました。昇級おめでとうございます!」
本当にゲームみたいだ…。でも助かったよ。
「ステータス・オープン」
僕の言葉に反応するように、目の前に半透明な液晶画面のようなものが現れた。
名 前:ユウ
職 業:魔法使い
レベル:1
スキル:魔力感知 聡明
やっぱりレベルは『1』でよかったんだ。
ほっとしてレベルの欄に『1』を書き込んでいると、リップルさんが目を見開いてステータス画面を凝視していた。
「魔力感知に聡明…。」
リップルさんがブツブツ言っているけど、目を合わせると緊張が増すので記入に専念しよう。
「書き終わりました…。これでいいですか?」
顔をあげると、リップルさんが目をキラキラさせて僕をみていた。
目が合ってしまい、顔がボっと熱くなり慌てて目を逸らした。
「ええ、問題ありません。それにしても、魔法使いのもっていると嬉しいスキル第1位の聡明をもっているなんて将来有望ですね。それに魔力感知なんて引く手数多ですよ。是非、今後は私、リップルをご指名くださいね。」
最高の営業スマイルで、ぐいぐい迫ってくるんだけど…。




