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第39話

カリンさんを椅子に戻し、落ち着くまでみんなで見守っていると、ぽつりぽつりと今までのことを話し始めた。

「私は、物心つく前に孤児院の前に捨てられていたそうです。院長先生は痣に気付いた後も私を追い出すことはしなかったけれど、他の孤児の間では噂が広まり、たくさん嫌がらせを受けました。たまにお金持ちにもらわれていく子もいたけど、そういう人に私が紹介されることはなく、働き手として認められる12歳まで孤児院で過ごしました。それからは、領主の荘園で農夫として働いたり、商人のところで荷運びをしたりと職を転々としてきましたが、首の痣に気付かれると決まって追い出されてしまいました。そんなことが続いて、もう普通の仕事は無理だと観念し、冒険者になろうと思ってこの町にきました。なけなしのお金で戦士の基礎訓練を受けましたが、なかなか迎え入れてくれるパーティーに巡り会えず困っていたときに声をかけてきたのがレッド・ムーンの人達でした。契約を交わせば加入させてくれるというので、藁にもすがるつもりで契約書に署名をしてしまいましたが、当時は冒険者の常識もわからず不当な内容にも疑問を抱くことができなかったです。」


「その契約のなかに、パーティーを抜けられない条項があるの?」

「はい、パーティーメンバーに借金をした場合、その返却が済むまでパーティーに尽くし脱退はできないと。」

お金のない状態だったから、借金せざるをえなかったのかな。

でも、生活費程度ならもう返せていてもおかしくないよな。


「借金があるんだね。いくら借りているの?」

「少しは減っていると思うのですが、金貨100枚です…。」

その額に思いあたることがあった。蘇生だ。

「えっと、もしかしてカリンさんの蘇生にかかった費用が全て借金なの?」

「はい。」

「そんなのおかしいにゃ!」

「そうですよ、なんでパーティーで分割しないんですか?」

「それも契約に書かれていて…。」

「ひどい話なのじゃ。」

「不利な契約を結ばされたな。そもそも借金がどの程度返せているかも教えられていないようだし、一生こき使う気だろう。」

わざと危険なところに連れて行って、死なせて蘇生させて、金貨100枚でカリンさんの一生を縛り付けたのか。


とても許せるようなことじゃなくて、心が刺々しくなる。

いっそ、僕の所持金で借金全額を返済してやろうかと考えていると、アーシアさんが契約について質問をし始めた。

「その契約書に署名したとき、家紋の印や指印は押したのか?」

「いえ、署名しただけです。」

「署名した場所と同席した者は?」

「ギルドの小部屋でした。同席していたのはレッド・ムーンのメンバーだけです。」

「なるほど。相手が不当な契約を盾にするなら、こちらは契約の無効を訴えてやろうか。」

「そんなことが可能なのですか?」

カリンさんの目に、わずかだけど希望の光が宿った。

「あぁ、任せておけ。カリンは何を言われても署名などしていないと主張するんだ。」


こういうとき、貴族としての教養をもつアーシアさんは本当に頼りになる。

「アーシアさん、ありがとうございます。僕たちに何かできることはありますか?」

「カリンはフラワー・フラグメントの一員になるのだろう。仲間のために力を貸すのは当然のことだ。感謝されるようなことじゃないぞ。」

そう言いつつも、アーシアさんは頬を染めて照れているようだった。

「アーシアは頼りになるのじゃ。」

「メルディのときも凄かったにゃ!」

「アーシアさんがいてくれて、本当に助かります。」

みんなの褒め殺しに、「それ以上はやめてくれ…。」と言い、照れ隠しにソッポをむいた。


そんな可愛いアーシアさんの姿にみんなが笑顔になった。

そして、カリンさんも笑みを浮かべていたことが嬉しかった。


レッド・ムーンのメンバーは、いつも朝10時にギルドに集まってダンジョンに向かうと聞いたので、僕たちは9時にギルドに到着してリップルさんに事情を話した。

リップルさんは、証人は多いほうがいいから、ギルドのロビーで言い負かしてやれとアドバイスをくれた。それに、始まったら受付を放り出してでも近くで見守ってくれると約束してくれた。

僕からはギルド長にも報告をあげておいてほしいと頼んでおいた。

アーシアさんの肩をもってくれそうだし、使えるものは全て使う。

総力戦でレッド・ムーンからカリンさんを解放するんだ。


僕らはロビーのテーブルを囲うように6人で座って、そのときを待っていた。

この6人で、これから数々の困難を乗り越え、絆を深めていくのかと思うと、ついに本当のスタートラインに立てるのだと感じた。


テーブルの上に置かれたカリンさんの手にメルディが手を重ね、「大丈夫ですよ。みんな凄く頼りになる格好いい仲間なんですから。」と励ましていた。

カリンさんは目を潤ませていたのは、不安より嬉しさからくるものだろうと思った。

こんなちょっとしたスキンシップとか励ましが、カリンさんにとっては経験したことのない尊いものなのだろう。


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