第38話
「どうしたのじゃ!?」
それに気付いたトリスが驚いて声をかけた。
メルディとアーシアさんも心配そうにカリンさんの様子をうかがう。
「うますぎて感動したにゃ?」
いや、そうじゃないだろう…。
「あの、そうじゃなくて。ごめんなさい。私には眩しすぎて…。」
なんとか想いを言葉にすると、カリンさんは立ちあがって出ていこうとする。
「カリンさん、本当にいいの?」
カリンさんは足を止めたけど、振り返りはしなかった。
「みんなが賛同してくれれば、僕はカリンさんをパーティーに迎えたいと思っているよ。カリンさんの気持ちはどうなの?」
しばしの沈黙のあと、カリンさんは心の内を吐露した。
「そんなの、入れて欲しいに決まっています。私は今まで生きてきて、こんなにも温かい場所は知りません。」
「だったら、なんでチャンスを掴もうとしないの?」
「それは…。ユウさんが私のことを知らないから。知っていたら私のことなんて誘うはずがない。後で態度を変えられるのが一番辛いって、何度も体験してわかったし…。」
いい終えると、カリンさんは長い黒髪を掴んで持ち上げ、後ろ首を露わにした。
そこには、歪な形をした赤い痣があった。
「忌み子…。」
アーシアさんがポツリと漏らし、表情を固くした。
忌み子?初めて聞く言葉に僕は困惑した。
「忌み子ってなんですか?」
「200年ほど前に起きた忌まわしい事件を、ユウは知らないのか?」
「知らないので、教えてください。」
知らないと何も言えないし始まらないということだけはわかる。
アーシアさんの説明では、200年ほど前に金鉱石を採掘する山間の集落群が火山の噴火に巻き込まれて、たった一人の生存者を残して全滅した事件があったらしい。
これが災害ではなく事件と呼ばれる理由こそ、忌み子伝承の始まりだった。
当時、村には全身のいたるところに赤い痣のある女児が生まれた。
女児は村の衆から気味悪がられ、家の外に出れば石を投げつけられるような酷い扱いを受けていた。
ほとんど家から出ることも叶わず、唯一慈しんでくれた母親だけが女児の全てだった。
時は流れていき、金の採掘量が極端に落ち、山には魔物が出現するようになった。
何かの祟りと感じた村の衆は、女児をその原因と決めつけ、生け贄として山に女児を捧げるように母親に求めたが、断固として応じない母親に業を煮やし切り捨ててしまった。
母の死を目の当たりにした女児は、村人によって拘束されながら呪いの言葉を発した。
『なんで母様を殺した!憎い!何度生まれ変わってもお前達を許さない!みんな火の波にのまれて死んでしまえばいいんだ!』
7歳の子供が発したとは到底思えない怨嗟のこもった言葉だった。
その言葉に恐怖した若者の一人が逃げるように山を下りたとき、一番大きな山が火を噴き、岩の雨と火の波が村々をのみ込んでいった。
それからというもの、ごく稀に体に赤い痣をもつ赤子が生まれるようになり、『忌み子』と呼ばれるようになった。
生まれた赤子は生かしておけば悲劇をもたらすとして、不幸な運命を辿ることになっていった。
人々は一つの命を刈り取る度に、その怨嗟は積もり積もって、いつか大きな災いが起きると不安を募らせていくことになった。
伝承の内容を聞いて僕は馬鹿馬鹿しいと思った。
仮に発端となった女児が本当に噴火させたとしても、その後に生まれた赤子が何をしたというんだ。
それに、その痣があったことで、カリンさんはどれほど迫害され生きづらい人生を過ごしてきたのかを想像すると心が痛んだ。
「迷信なんか僕は気にしませんよ。どうせ、今までカリンさんの周りで災いなんて起きてないんでしょ?」
「今までは、起きていませんけど…。」
カリンさんの震える声が痛々しい。
ただ生まれてきたというだけで、苦しみ続けていたのか…。
なんだよ、結局のところ僕が感じてきた痛みなんて、ちっぽけなものだったんじゃないか。
僕はカリンさんの元へ歩いて行き、そっと赤い痣に触れてみた。
ビクンとカリンさんの肩がはねた。
「痛くないですか?」
カリンさんが後ろ姿のまま小さく頷く。
「僕は痣なんかに恐怖を抱きませんし、それで仲間に欲する気持ちが衰えることもありません。」
「ユウさんがそうでも、みんながそうではありません…。」
「メルディはどう?」
「私がそうだったように、カリンさんにもここで幸せになってほしいです。」
「アーシアさんは?」
「メルディが認めるなら悪い人間ではないのだろう?それなら問題ないぞ。」
「トリスは?」
「そもそも人間の伝承なぞ、ドワーフには関係ないのじゃ。ユウが仲間にしたいなら断る理由などないのじゃ。」
「ニーナは?」
「魚と肉、どっちが好きにゃ?」
「え、えっと、魚です。」
「大歓迎にゃ!魚好きに悪い奴はいないにゃ。」
いや、いるだろう…。
「そういうわけで、フラワー・フラグメントの全員がカリンさんを仲間に求めているよ。それで、カリンさんはどうしたいの?」
カリンさんは肩を震わせ啜り泣き、途切れ途切れに本当の気持ちを伝えてくれた。
「わ、わたしも、入れてください。一緒に、いさせてください。」




