第36話
レッド・ムーンの面々が占拠するテーブルに、カリンさんから預かったお金を置くと、4人の男どもが一斉に僕を見てきた。
といっても、その視線はすぐに僕の胸に移っていく…。
ああ、もう最悪な環境だな。こんなパーティーに紅一点でカリンさんがいたのかと思うとゾッとする。
「なんだよ、この金は?」
リーダー格らしい男が、威圧的に聞いてきた。
「これはカリンさんに頼まれて代わりにもってきた、今日のあなたたちのパーティーの稼ぎです。」
「あ!?なんでカリンがこねぇんだよ!」
「カリンさんは熱が出て倒れたので、ここには来られません。それでは。」
さっさと立ち去ろうとしたけど、メンバーの一人に腕を掴まれて止められてしまう。
「おい!カリンはどこにいるんだよ!」
代わりに持ってきてくれたんだから、本心でなくても普通は礼くらい言うだろう。
それに、この暴力的な対応…。あぁ、ダメだ、我慢できない。
「その汚い手を今すぐ離せ。」
他のテーブルの客には聞こえないようなボリュームで、あえて威圧的に言葉を放った。
「なんだと!お前、喧嘩売ってんのか!?」
リーダー格の男が激昂して立ちあがり、その拍子に椅子が倒れて大きな音が店内に響いた。
他の客や店員の視線が僕らに集まるの感じたので、今度はみんなに聞こえるような大声で叫ぶ。
「手を離してください!」
僕の叫びに反応するように店内がザワつきだし、レッド・ムーンの男達に非難の目が集まっていく。
「おい、手を離してやれ。」
怒っているなぁ、こめかみに青筋たってるし…。
「え、でも。」
「いいから、離せって言ってんだよ!」
拘束が解けたので背を向けて出口に向かうと、後ろから「なめやがって、覚えてろよ。」とドスのきいた声が聞こえてきた。
敵にまわしたのは間違いないけど、どうせカリンさんを引き抜くことになれば、穏便にはいかないだろう。
それが少し早まっただけだと思えばいい。
深呼吸を繰り返して怒りを静めながら、僕はカリンさんの待つ噴水広場へ向かった。
僕がこの世界に転生したときに座っていたベンチに、カリンさんが不安そうにキョロキョロしながら座っていた。
本当に他人とは思えないんだけど…。
「カリンさん、お待たせ。渡してきたよ。」
「ありがとうございます。あの、大丈夫でしたか?」
「ちょっと絡まれたけど大丈夫。さぁ、いこう。」
「うぅ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「気にしないで。僕が勝手にやっているんだから、カリンさんが謝ることないんだよ。」
それ以降、カリンさんは黙ってしまったが、僕のすぐ後ろをついてきてくれている。
「あの、なんで私にそんなに優しくしてくれるのですか?」
振り返ると、カリンさんは目には零れずとも涙がたまっていた。
今まで不遇な扱いを受けてきたから、この状況をどう受けとめていいのか処理できないのかな。
それなら、何か納得できる理由を答えてあげたほうがいいのかもしれないと思った。
「理由は3つあるよ。」
「え、3つもあるのですか?」
「うん、1つ目は本当に仲間としてスカウトしたいということ。勿論、他の仲間との相性とか、うちのパーティーの求める役割をカリンさんが引き受けてくれるかの問題はクリアしないといけないけどね。」
「どうして私なんでしょうか?」
「背の高い女性で弓が使えるという条件なんだけど、簡単にはみつからないみたいだし、背と性別の2つをクリアしているカリンさんは有望株だと思ってね。」
「そうなんですね。でも、私、レッド・ムーンを抜けられなくて。」
「その話はホームで聞くよ。ホームでは言いにくいことを先に伝えておきたいんだ。それが2つ目の理由でもあるんだけど、自信がなさそうで辛そうなカリンさんが昔の僕みたいで放っておけないんだよ。」
「ユウさんが私みたいって、そんなこと信じられません。」
「うん、自分でも信じられないくらい変われたんだ。それも今の仲間の影響が大きいと思ってる。だからカリンさんもフラワー・フラグメントに加入して、僕みたいに変われたらいいなぁって本気で思っているんだよ。」
「こんな私が、本当に変われるでしょうか?」
「変われるよ。でもね、そのためには自分にあった環境を勝ちとる努力が必要だと思う。」
「わたし、今が精一杯で、そんなこと考えたこともありませんでした…。」
「僕だって、そうだったよ。偶然にも神様からチャンスをもらえて、そこから必死に自分を変えようと頑張ってみたら、世界が変わりだしたと思う。」
「自分を変えようと…。」
「3つ目は、自分の心に嘘をつきたくなかったからかな。カリンさんが酷い扱いを受けているのを偶然見てしまって、すごく気分が悪くなったんだ。昔の僕なら見て見ぬふりをしたと思うけど、それって自分の心に蓋をするってことでしょ?そういうの、もう止めたいんだ。だからね、カリンさんを誘ったのは、僕の自己満足でもあるんだよ。」
それからカリンさんはしばらく無言で考え込み、ポツリと言葉をこぼした。
「ユウさんは凄いです。私にはできそうもありません…。」




