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第35話

「あら、ユウさん。朝もギルドに来たのに、どうしたの?私に会いたくなっちゃったのかな?」

魅惑的な笑みを浮かべて、そんな冗談はやめてほしい…。

僕には受け流すスキルがないので、顔が熱くなってしまう。

「あの、隣の列の最後尾に並んでいる女性について、知っていることがあったら教えてくれませんか?」

隣の受付嬢に聞こえないように小声でリップルさんに聞いてみると、僕の耳に顔を近づけて囁き返してきた。うぅ、生温かい息が…。

「ここじゃダメね。いつもの部屋で話すわ。」

そう言うと、リップルさんは「相談対応入りま~す。」と受付嬢たちに呼びかけて場所を移した。


ソファーに向かい合って座ると、興味津々といった様子で尋ねてきた。

「あの子をフラワー・フラグメントに引き抜きたいの?そういうことなら、お姉さん協力を惜しまないわよ。」

「なんでそんなに乗り気なんですか?」

「隣の受付のナーラに悔しい思いをさせてやりたいだけよ。」

「受付同士って、仲が悪そうですね…。」

「まぁ、ライバルだし、自然とそうなるわね。だけど、ナーラは特別よ。新人で入ったときはすり寄ってきたから丁寧に教えてあげたのに、私が落ち目になったら態度を急変させたのよ、もう絶対許さないんだから!」

女の戦い、陰湿そうだな。あんまり巻き込まれたくはないんだけど…。


「引き抜くとかまでは、まだ考えてないんですけど、さっき酒場の前でパーティーメンバーから召使いみたいな扱いを受けていたのが気になってしまって。」

リップルさんは軽く息を吐くと、手の掛かる妹を見るような目をした。

「相変わらず、困っている子を放っておけないのね。それがユウさんのいいところなんだけど、担当としては心配になってしまうわ。」

「余計なお世話かもしれないですけど、見過ごすのも心がモヤモヤしそうで。」

「隣のことだし、私も気分悪いと思っていたわよ。あの子の所属しているレッド・ムーンっていうパーティー、評判悪いのよ。新人の冒険者を食いものにしているって前々から噂になっていてね。」

「それならギルドから厳重注意とか制裁はしないんですか?」

「それがね、パーティーに勧誘するときに契約書を交わしているみたいで、契約に則っていると言われるとギルドとしても文句が言えないのよ。」

「そういうのって違法じゃないんですか?」

「当人同士が納得して交わした契約に違法も何もないでしょ。」

「それは、そうですね…。」


「どんな契約になっているかは知らないけど、メンバー募集のチラシも出しているんだし堂々と声をかけてみたら?話してみるなら、この部屋を使ってもいいわよ。」

そっか、そういうのもありなのか。

うーん、でもなぁ、僕のほうから知り合いでもない女性に話しかけるのか…。

いやいや、初心を思い出せ。『出来る出来ないじゃない。やらないと。』だろ。


「声を掛けてみます。」

僕は意を決して宣言した。そんな僕にリップルさんは「頑張りなさい。困ったときは相談にくるのよ。」と励ましてくれた。


小部屋を出ると、渦中の女性が受付で換金を依頼していた。

ナーラという受付嬢も、いつものように愛想よく対応しないで、なんか無愛想で感じ悪い。

人を見て態度を変えるタイプか。苦手な人種だ…。

ペコペコしながらお金を受け取った女性が足早に出口に向かって歩き始めたので、今しかないと思って頑張って声をかけてみた。


「あ、あの、少しいいですか?」

「え、え、私ですか?」

オドオドしてて、なんか他人な気がしない…。

「えっと、パーティーメンバーの募集をしていまして、その件でお話したいのですけど。」

「え、でも、私もうパーティーに所属していまして。」

「立ち話もなんですから、その辺りの事情も含めて、うちのパーティーのホームで話しませんか?」

「あの、でも私、急がないといけなくて…。」

「そのお金を届けるだけですよね?代わりに僕が渡してきますよ。」

どうして知っているのか不思議に思っただろうけど、少しほっとした様子を見るに仲間のもとへ行きたくないんだろうな。


「あ、でも、私が行かないと後で何を言われるか…。」

「熱があって倒れたから代わりにもってきたって嘘をついておくよ。それなら大丈夫じゃないかな。」

「それなら、大丈夫かも…。」

「我慢して行くことないよ、今回は僕に任せて。」

彼女はしばらく悩んだあと、絞り出すように言った。

「はい。お願いします。」

なんか、いつの間にかフランクな話し方になっちゃったな。

トリスたちとの生活で女性慣れしたのだと思うけど、少し成長したようで嬉しくなった。


「そうだ、まだ名乗っていなかったね。僕はフラワー・フラグメントのユウです。名前を教えてもらえますか?」

「は、はい、カリンです。よろしくお願いします。」

深々と頭を下げる姿を見ていると、カリンさんにオドオドしないで落ち着いていられる環境を用意してあげたいと思った。

僕の今が充実しているように、環境で人は変われるってわかったから。


カリンさんを先に噴水広場に向かわせて、僕は酒場に入っていく。相手が男なら頑張れるのだ。

店内の奥まったところにあるテーブルを占拠し、品のない話で盛り上がっているレッド・ムーンの男どもを発見し、近づいていく。

せっかく生まれ変わったんだ。昔の自己主張できない僕とは決別するんだ。


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