第3話
気付くと僕は噴水のある広場のベンチに腰掛けていた。
キョロキョロと辺りを確認すると、町並みはいかにも中世ファンタジー世界という感じで、木造やレンガ造りの家や商店が並んでいた。
道行く人達を見れば、耳の長い綺麗なお姉さんがいたり、柴犬のような耳が頭部から突き出たおじさんがいた。
これは…。間違いなくエルフや獣人だよね。
そうか。僕は本当に来たんだ、異世界に!
あまりの感動に胸の鼓動が激しくなり、ドキドキが止まらない。
僕は高揚した気持ちを抑えようと自分の胸に手を当てた。
ふわっと柔らかい感触に違和感を覚え目線を落とすと、そこにはメロンサイズの2つの丘が自己主張していた。
なんじゃこりゃ!
え、どういうこと?なんで女性になってるの!?
僕は神様っぽい男性との会話を必死に思い出してみた。
たしかに、『容姿等はお任せします』と言った。言ったけど、性別は変えないでしょ、普通。
でも普通ってなんだ…。僕の普通と神様の普通は同じとは限らないし、ハクスラさえできればいいみたいなことも口走った気がする。
異世界に来た喜びは、性転換してしまったことへの困惑で上書きされてしまった。
これから女性として生きていくってことだよね。
男性と恋に落ちたりする未来は全然想像できないんだけど…。
あれこれ考えてはみたものの、現時点で女性だと困ることもないような気がしてきた。
一番の目的はハクスラだし、女の子とパーティーを組むことにも支障はない。
支障がないどころか、同性がいたほうが誘いやすいような気もしてきた。
どうせ恋愛関係になるなんて僕には無理だろうし…。
ただ、そもそも女性を誘うとか僕にできるのだろうか?
いや、出来る出来ないじゃない。やらないと。
僕は大きく深呼吸して心を落ち着けると、今後のことを考えることにした。
まず、服装を確認してみたけど、安っぽいローブを着込んでいる。
富豪のはずなのに貧乏くさいなぁと思いながら、背負っていた登山用かと思うような大きめのバックパックの中を確認すると、たくさんの金貨と50cmほどの杖のようなものが入っていた。
富豪って現金支給なの?
悪目立ちしてはいけないと思って、こそこそ金貨の枚数を数えてみると、ざっと500枚くらいあった。
貨幣価値がわからないけど、富豪に10ポイント使ったのだから資産額はかなりのものだろう。
これを持ち歩くの怖くない?銀行みたいな機関があるなら預けないと…。
次に杖を握って集中してみると、自分の体から杖に向けて不思議な力の流れを感じた。
これって魔力なのかな…。
とりあえず街中だし魔法の試し打ちは止めておいたほうがいいよね。
所持品の確認は終わったし、当面お金の心配はないと。
次にやるべきことは、やっぱり冒険者ギルドとか傭兵ギルドみたいな機関に所属するべきだよね。
あればの話だけど…。
この世界の常識を知らないの辛いなぁ。一般常識みたいなものを相談すれば1ポイントくらいで貰えたかも…。後悔しても遅いけど。
とりあえず勇気をだして聞いてみよう。
僕は広場で談笑する剣を腰に提げた戦士風の男性に声をかけてみることにした。
「あの、この町に冒険者ギルドみたいなものはありますか?」
「はぁ?何いってんだ。ダンジョン都市なんだから、あるに決まっているだろう。」
冒険者ギルドあるんだ!嬉しくてテンション上がってしまう。
「そうですよね、ハハハ…。あの場所を教えてもらえませんか?この町に来たばかりで困っていまして。」
なんか、胸を見られているような…。
世の女性は、こんな視線を感じながら生きていたのか…。
僕にも胸元をつい見てしまった前科があるので、申し訳ない気持ちになった。
「そこの大通りを行きな。道沿いに進めば右側に見えてくるぜ。」
「ありがとうございます。助かりました。」
僕は男性にお辞儀すると、そそくさとその場を後にした。
いやらしい目線は嫌だったけど、とりあえず親切に教えてもらえてよかった。
それにしても『ダンジョン都市』って言ってたよね。ダンジョンが近くにあるのかな?
神様が僕の望みを考慮して、この町に送ってくれたのかも。
性転換はどうかと思うけど、これには素直に感謝だ。
広場からは幾筋にも大通りがのびていることから、多分この広場が町の中心部なのだろう。
とりあえず陽が落ちる前にギルドで登録は済ませたい。
僕は男性が教えてくれた道へ足を踏み出した。
いよいよ始まるんだ、僕の異世界ハクスラ生活が。




