第23話
さて、気が進まないけど生活費を稼ぐためにも、アレをやるしかないよなぁ…。
「ゴブリンの右耳は1つにつき銀貨1枚と交換してもらえるから、切り取っていこうか。」
「おぉ、銀貨3枚なのじゃ!」
「ケーキ2個分ですね!」
『ゴブリンの命3=ケーキ2』の考え方はどうかと思うけど…。
この作業は僕も手伝ったほうがいいと思ったので、小型のナイフと防水性の高い革袋は購入してある。
バックパックから道具を取り出していると、ニーナが僕のところにやってきて、目の前に血の滴る耳を差し出してきたから、「ひっ!」と変な声を出してしまった…。
「これでいいにゃ?」
「う、うん。それで大丈夫だよ。僕も手伝うね。」
「アチシがやるから、ユウは休んでいるにゃ。」
「え、でも?」
「そのナイフ、我に貸して欲しいのじゃ。ユウは頭で、我らは体で貢献するのじゃ。」
「町に戻ったらナイフを買っておくので、次からは私も手伝おう。」
「私たちは周りの様子に異変がないか、気を張っておきましょう。」
「そ、そうだね。」
みんな、しっかりしているなぁ。
前世が日本人の僕が、一番平和ボケしているというか、生物の死にびびっているのかも…。
何でも僕がリードしないとと思っていたけど、ちゃんと僕も仲間を頼っていこうと思う。
「少し錆びておるが、このショートソードはどうするのじゃ?」
「鉄製のものは安いけど素材として買い取ってもらえるから、持ち帰るよ。あと、矢尻も鉄製なら回収しておこう。」
僕が鉄剣を無造作にバックパックに放り込むのを、メルディが心配そうに見てくる。
「重くないですか?」
「心配しないで。実はこのバックパックは、重さを軽減する効果があるから平気なんだよ。」
僕の言葉にみんなが驚愕の表情を浮かべ、動きを止めた。
「マジックアイテムなんですか!?」
「すごいにゃ!」
「驚いたのじゃ。」
「そんな貴重なものだったとは…。どのくらい軽減できるのか聞いても?」
「たぶん、10分の1くらいに。」
「「「「!?」」」」
「試させてほしいのじゃ!」
「いいよ。両手槌を入れて背負ってみたら?」
トリスが試し、興奮して「軽いのじゃー!」と叫んだ。
ヘレン・ケラーの『ウォーター!』もこんな感じだったのかな…。
それから、代わる代わる背負っていき、みんなに興奮が伝播していった。
「これは伝説的なアイテムなのでは…。市場に流れたら、どれほどの値がつくか検討もつかないな。」
アーシアさんが真剣に悩んでいた。
それほどの物なのか…。10ポイントはお買い得だったのかな?
「ユウは、他国の姫だったりするのか?」
「違いますよ!その、出自については言えないのですが、今は平民ですので…。」
微妙な沈黙が流れたが、ニーナが空気を変えてくれた。
「言えないなら言わなくていいにゃ。アチシはユウが一緒にいてくれるだけで嬉しいにゃ。」
「そうですね。一緒にいてくれるだけで十分です。」
「我は、優しくて頼りになるユウが大好きじゃ。過去など気にしないのじゃ。」
みんなの言葉が嬉しくて、とっても照れてしまう…。
「ユウは人望があるな。」
アーシアさんが穏やかで優しい声で、そう言ってくれた。
「ところで、気になっていることを1つ聞いてもいいだろうか?」
「いいですよ。何でしょうか?」
「先ほど、詠唱なしで魔法を放っていなかったか?」
「そういえば、無詠唱でお湯をだしていましたね。」
あれ…、詠唱が必要なの?なんか誤魔化しておいたほうがいいのかな…。
「えっと、聡明のスキルがあるせいか、詠唱は頭の中だけで大丈夫になっちゃったんだよね。アハハ…。」
「そ、そうか…。宮廷魔術師長の域に、早くも達しているとは。ユウは本当に規格外だな。」
無詠唱って、とんでもない領域だったらしい。
今になって初めて、自分がチート能力を与えられていたことを知ったよ…。
それから探索を再開し、何回かゴブリンに遭遇したけど危なげなく殲滅できた。
5度目の戦闘を終えたとき、僕とメルディは顔を見合わせてしまった。
それというのも、何か力が湧き上がるような感覚があったからだ。
ステータス画面を開いてみると、予想通りレベル2に上がっていて、嬉しさが込み上げてきた。
名 前:ユウ
職 業:魔法使い
レベル:2
スキル:魔力感知 聡明
年 齢:19
属 性:水
適 正:魔法使い
STR:5 VIT:6 DEX:5 AGI:7 INT:21 FAI:8
HP 12 / 12 MP 28 / 42
名 前:メルディ
職 業:僧侶
レベル:2
スキル:精神感応(悪意) 薬草知識(初級)
年 齢:16
属 性:光
適 正:僧侶
STR:6 VIT:7 DEX:6 AGI:5 INT:7 FAI:11
HP 14 / 14 MP 22 / 22
画面に見入っていると、頭の中に新しい魔法のイメージが構築されていく。
これは『スタン』の魔法か。状態異常付与はありがたい。
「メルディは新しい魔法を覚えた?」
「プリフィケーションを使えるようになりました。」
「それは、どんな魔法なの?」
「不死の存在を浄化する魔法ですね。」
リップルさんの話では、この階層でもアンデットが出現することはあるみたいだし、心強いな。
僕たちのレベル1卒業を、トリス、ニーナ、アーシアさんは自分のことのように喜んでくれた。
きりがいいし、この辺りで戻るのもありかもしれないな。
「どうかな、そろそろ引き返そうかと思うんだけど。」




