第22話
翌朝、早すぎる時間に目が覚めた。
まだ窓からは朝焼けが見えるけど、興奮で二度寝はできそうもないと思いリビングに出ていくと、もうメルディとアーシアさんが起きていた。
「ユウさん、おはようございます。」
「おはよう、ユウも早いな。」
2人の朝の挨拶で心に温かさが広がる。
「おはようございます。ドキドキして眠りが浅かったかもしれません。」
2人は僕と同じだと言い、みんなで笑顔になった。
「トリスさんとニーナが起きてくるまでにスープの残りでも温めますね。」
「火の付け方とか、見ていてもいいかな?僕もできるようになりたいし。」
「それなら、私も学ばせてもらいたい。」
メルディは笑顔で頷き、作業は始めた。
しばらくすると、目を擦りながらニーナとトリスが起きてきたので、テーブルを囲んで具だくさんスープを朝食としていただいた。
「ダンジョンに向かう前に渡しておく物があるんだ。」
僕はリップルさんから購入してきたパーティーリングの入った箱をテーブル上に置いた。
「パーティーリングかにゃ?」
「かわいいデザインですね!」
「欲しくても高くて買えなかったのじゃ。」
「みんなで同じデザインの指輪をつけるというのはいいものだな。」
「代金は僕が立て替えたけど、家賃と同じようにパーティーの稼ぎから返済していくね。」
「そうしてください。みんなで稼いだお金で買ったと思えたほうが嬉しいです。」
メルディの言葉に他の3人も同意した。パーティーの絆ともいえる物だし、僕も同意見だ。
「それじゃあ、装備を整えたら出発しよう。今日は無理せず連携を確認する程度で戻ろうね。」
「はい」
「うむ」
「了解にゃ」
「そうだな」
町の南門を出て5分も歩くと、小さな森に到着し、森の中の整備された道を進むと洞窟の入口が見えてくる。
洞窟から魔物が出てきた場合に対処するため、入口には警備兵が2人立っていた。
リップルさんの話では、ギルド証を提示すれば入れてくれるということだったので、5人そろってギルド証をみせると、「入っていいぞ」と言われた。
少し進むと道幅は狭くなり、土に石や岩が混じった壁で閉塞感を感じた。
「ここからは隊列を組もう。ランタンはニーナが持って、敵に遭遇したらすぐにメルディに渡して武器を装備してね。」
「わかったにゃ。」
「疲れるとは思いますが、アーシアさんは盾を常時構えておいてください。」
「了解した。」
「トリスは武器をもったまま行動してね。」
「わかったのじゃ。」
「メルディは辺りに気を配りつつ、敵に遭遇したら渡されたランタンを倒れないように地面に置いて、武器と盾を構えて。」
「わかりました。」
「僕はマッピングしつつ、魔力感知で何か気になる物がないか確認するね。」
「出発する前に円陣を組むのじゃ!」
円陣?体育祭とかでやったやつかな…。
「やるにゃ!」
「やりましょう!」
僕とアーシアさんが困惑していると、3人は肩を組み合い僕らを手招きしてきた。
僕とアーシアさんは顔を見合わせて笑顔を見せたあと、円陣に加わった。
3人だけで挑戦したときもやったんだろうな。
仲間の絆を深めるため、こういうのも悪くないと思う。
両隣がトリスとアーシアさんで、金属鎧だったから、躊躇無く肩をくめた。
「頑張って稼ぐのじゃー!」
「「おー!」」
ノリがわかってなかったので、慌てて僕とアーシアさんも「おー!」と続いた。
それにしても、『稼ぐのじゃー』って、なんか面白いな。
いい意味で緊張がほぐれたし、トリスに感謝だな。
ダンジョンを進みながらマッピングして思うのは、本当に通路幅が均一だということ。
前衛3人が並べば、敵が後衛にすり抜けてくることは難しい状況だ。
ただ、たまに部屋のように開けた空間があったりするので、こういう所で戦闘になるのは避けたいと思った。
思ったより敵に遭遇しないものだなと思っていると、ニーナの「いるにゃ!」という鋭い声に緊張が走った。
通路は5mほど先で右に折れている。
耳を澄ませば、確かに理解できない言語での話し声が前方から聞こえる。
「敵は何体くらい?」
「たぶん3か4にゃ。」
獣人であるニーナは、僕たちより耳がいい。大きく違えることはないだろう。
「イレギュラーに曲がり角で接敵するより、しっかり構えて向こうから来てもらおうか。」
みんなが頷き、ランタンはメルディの足下に置かれ、ニーナとアーシアさんは武器を抜き放った。
それを確認して、僕は足下の小石を掴み前方に投げた。
突き当たりの壁に石が当たると、耳障りな叫び声がして3体のゴブリンが姿を現した。
武器は棍棒、ショートソード、弓か。
数の劣勢もお構いなしに勢いよく向かってくる2体のゴブリン、そして後方で弓の準備をする1体。
弓ゴブリンを先に仕留めるのが僕の仕事だ。
【氷結】【極小】【円錐】をイメージし消費MP4の氷柱を放つと、弓ゴブリンの腕に突き刺さり、弓を放り投げて痛みにもだえている。
よし!
棍棒ゴブリンはリーチの差で、一度も武器を振るうこともなく、トリスの両手槌で頭部を潰された。
剣ゴブリンはニーナに攻撃する前に、アーシアさんのエストックが首を貫いた。
直後、ニーナが前方にダッシュし、弓ゴブリンの胸にダガーを突き立てていた。
「勝ったのじゃ!」
「やったにゃ!」
アーシアさんとメルディは安心したのだろう。深く息を吐いた。
初戦としては、完璧な勝利だったと思う。
みんな臆することなく戦えていたし、メルディも恐怖に心を捕らわれず、冷静に戦況を見れていたと思う。
小さな一歩だけど、順調にフラワー・フラグメントのダンジョン挑戦は始まった。
22話まできて、やっとダンジョンに入れました。
タイトルと違うじゃないかと思いつつ、ここまで読み続けてくれたことに感謝しています。
これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。




