第21話
夕暮れ時の町は、買い物をする主婦や仕事を終えた冒険者などが雑多に行き交い、活気にあふれていた。
改めて思うのは、僕は夢見たファンタジー世界に来たということだ。
そして明日にはダンジョンに挑む。
生死をかけて本当のハクスラが始めるのだ。
恐怖がないとはいえない。でも、それ以上に『やりたいことを一生懸命やって生きた』という証がほしい。
空虚だった僕の人生を彼女たちと塗り替えていきたいんだ。
夕焼け空を仰ぎ見ながら、大きく息を吸い込み、僕はまた歩き始めた。
ホームに帰りつくと、リビングには重戦士が仁王立ちしていて思わず一歩後ずさりしてしまった。
「おお、帰りを待ちわびていたぞ。どうだろう、この装備は?」
声でアーシアさんとわかったけど、全身フルプレートの鎧に大きめのカイトシールド、エストックという出で立ちは、かなり迫力がある。
僕に見せたくて着用したまま待っていたと思うと、ちょっと可愛いなと思ってしまった。
それにフルフェイスだから、顔が見えないので僕も緊張せずに話せるのは隠れた利点だ。
「完璧ですよ。ゴブリン相手なら傷を負うこともないでしょうね。」
「そうか…。その、似合っているだろうか?」
なんか返答の難しい問いかけが…。
女性の服装は褒めるものだということは知識としてはもっているけど、全身鎧でも同じことがいえるのか?
「とても似合っていると思いますよ。」
「そうか!それならよかった。ユウにも見てもらったし、装備を外してこよう。」
嬉しそうな声で言うと、アーシアさんは自室のある2階に上がっていった。
とりあえず正解の答えだったようでほっとしたよ。
いい香りにつられてキッチンの方をみると、メルディとトリスが並んで料理をする後ろ姿があり、思わず見入ってしまった。
身長差15cmくらいあるから、仲良し姉妹が協力して料理しているみたいで微笑ましい。
それに、帰ったら女の人が料理しながら待ってくれているという状況。
僕にこんな日がくるとはなぁ。
なんとなく目が離せなくて眺めていると、入り口の扉が開いて、ニーナが入ってきた。
「ただいまにゃ。」
ニーナは帰るなり、リビングのテーブルにバックパックから木皿や木製のタンブラー、フォークなど食器類を並べていく。
そういえば、自炊するにしても食器類や調理器具がなかったね。
パーティーの生活費をニーナに預けておいてよかった。
「ないものばかりで買い物が大変にゃ。」
「お疲れ様。何度目の買い物だったの?」
「四度目にゃ。さっきの薪と炭が重くて大変だったにゃ…。」
疲れたのか椅子に座ってテーブルに突っ伏したニーナを労いたくて、頭を撫でてあげたいと思ったけど、そんなことしていいのか不安になり手を止めてしまった。
「撫でてくれるにゃ?」
「う、うん。」
撫でていいんだ…。恐る恐る後頭部を撫でると、ニーナは嬉しそうにしていた。
自分からスキンシップをとったのは人生で初めてだけど、ニーナ相手だと不思議と怖くなかった。
夜になり、歓迎パーティーの準備が整い、みんなでテーブルを囲った。
トリスが選んで買ってきた安物のワインをタンブラーに注ぐと、開始のかけ声をメルディに頼まれて動揺してしまった。こういう役割には慣れてないんだよなぁ。
「えっと、アーシアさんの加入を祝って、カンパーイ。」
「「「「カンパーイ」」」」
鶏肉と根菜多めの塩スープは、野菜の甘みが染み出ており、丁寧に灰汁とりしたものと思われ、ほっとする味で美味しかった。
メインの豚肉の塩焼きは脂がのってシンプルに美味く、赤ワインとよくあった。
ワインは一人一杯分しかないからか、トリスがもったいなさそうにチビチビ呑んでいて、可愛らしい。
僕はお酒は嗜む程度なので、「半分あげようか?」と提案すると、「ユウは優しいのじゃ~!」と抱きついてきたけど、平気だったし嬉しかった。
意外だったのは最年少16歳のメルディも普通にワインを飲んでいたことかな。
ポワポワした様子で、「こんなに美味しい食事が食べられるなんて幸せれす~。」と言ったときは、破壊力抜群だなと思った…。
平民にはご馳走だけど、アーシアさんは口に合うのか心配になったけど、「美味しい…。いいな、仲間と食事をともにするのは。」と何か感動しているようだったので安心した。
食事を終えてまったりしてきたので、明日に向けて英気を養いたいし、お風呂を試してみようかと思った。
洗濯場に置いた大きめのタライに、停滞、高温、特大でお湯を出す。
うん、水量は丁度いいし、水温は少ししたら適温になりそうだ。
「今からお風呂に入りますね。あとで入りたい人がいたら、お湯を入れ替えますので言ってください。」
リビングに戻って伝えると、みんなは興味津々で洗濯場の様子を見に行ってしまった。
まぁ、そうなるか…。
みんなが落ち着いたところで洗濯場から出てもらって、服を脱いで湯に浸かってみると、幸せな気持ちになった。
やっぱり日本人は湯船に浸かりたいよなぁ。
豊満な胸がプカプカしているが、自分の体だからか意識することはなくてよかった。
しばらくボヘ~と浸かっていると、裸のニーナがタライに飛び込んできて、慌てて両手で顔を覆った。
ちょっと見ちゃったじゃないか…。
「一緒に入るにゃ!」
ダメだ、この状況はダメに決まっている。
「あの、裸を見られるのが恥ずかしくて…。できればお風呂は一人で入りたいです…。」
顔を覆ったまま、やっとのことで言ってみた。
「そうにゃのか?残念にゃ。」
そう言って、ニーナは寂しそうに洗濯場から出ていった。ニーナ、ごめんね。
僕が風呂から上がると、メルディとニーナとトリスが3人で一緒に入りに行った。
3人はさすがに狭いのではと思ったけど、楽しそうに出てきたので問題なかったみたいだ。
その後、アーシアさんのためにお湯を入れ替えようとしたら、このままで問題ないと断られてしまった。
本当に特別扱いをしてほしくないんだな。
アーシアさんに残り湯を使わせるのはよくないと思った僕のほうが、アーシアさんを特別視していたのだと気づき、少し後悔した。




