第17話
あんまりジロジロ見ると、『何見てんだよ、キモッ!』と言われた中学校時代の辛い記憶の再現が起こりそうで慌てて目を逸らした。
ただ、脳裏に残る残像では、美しく整った横顔、輝くような金髪と、文句のつけようのない美女だった。
服装は平民にしては上質そうだったから、お金持ちのお嬢様なのかもしれない。
そうだとすると、鍛えてきたであろう女性にしては筋肉質な二の腕の説明がつかないぞ。
何にしてもフラワー・フラグメントに興味をもっているのは確かだ。
もし、加入したら緊張しちゃうよなぁ…。
ああいう本格的な美人は特に苦手というか、緊張で顔を直視できないのだ。
なんとなく気まずくて、円形のテーブルを1つ占拠して何やら盛り上がっている仲間のもとに合流してみると、先ほど食べたケーキの話でもちきりだった。
「あれは反則にゃ。魚よりも美味しかったにゃ。」
「あの芸術的な美しいフォルムとこの世の物とは思えぬ甘み、人間の作り出した最高傑作なのじゃ!」
「私は今日ケーキを食べるために、今まで生きてきたのかもしれません。」
なんか、凄いこと言っているな…。
確かにケーキ4個で銀貨6枚払ったから、1つ1500円と思うと高いけどさ。
僕も仲間の輪に入れてもらって座り、先ほどの女性を目で追ってみる。
その女性は唯一誰も並んでいない受付のリップルさんに何やら話しかけると、リップルさんが僕たちのところに女性を連れてきた。
「あなたたちのパーティーに興味があるそうよ。話をしてみたいそうだから、いつもの部屋を使ってもいいわよ。」
「おー、早速希望者が現れたのじゃ!」
「アチシに何でも聞くのにゃ。」
トリスとニーナは念願の五人目を迎えられそうで嬉しそうだな。
メルディに目配せすると、察してくれたのか「大丈夫ですよ」と悪意を感じないことを小声で伝えてくれた。
僕たちが場所を移そうと動き始めると、リップルさんが耳元で囁いたので驚いて飛び跳ねてしまった。
「あの子、貴族のご令嬢みたい。仲間にするか、よく考えて決めなさい。」
ありがたい助言なのに、変なリアクションをしてしまい申し訳ない。
それにしても貴族か…。どんな事情があるのだろう?
部屋に入り、向かい合うようにソファに腰掛けたけど、3人掛けに僕たち4人が並んで座ったので、別の意味で圧迫面接みたいだと思った。
隣がトリスだったから、昨夜のうちに身体的接触に慣れていたので、そこまで緊張はしない。
それもどうかとは思うけどね…。
「えっと、まずは自己紹介しましょうか。僕は魔法使いのユウ、並び順に戦士のトリス、盗賊のニーナ、僧侶のメルディです。」
「私はロンウェー騎士爵が娘、アーシアと申します。」
凛とした雰囲気でこっちを見てくるので、目が合わないように鼻の辺りに焦点を当てて会話する…。
確か騎士爵っていうのは一代限りの準貴族だったはず。僕の知識がこの世界と同じならだけど。
「それで、何か聞きたいことがあるんですよね?」
「失礼でなければ、パーティーの活動方針をお聞きしたい。」
お堅い感じだなぁ…このパーティーと合わないかも。というか冒険者に向いていないかも。
「活動方針はユウに一任なのじゃ。」
「まぁ、基本はダンジョン探索ですよ。」
「こちらからもお聞きしたいのですが、貴族のご令嬢であるアーシアさんがどうして冒険者に?」
少しの沈黙があり、意を決したようにアーシアさんが話し始めた。
「恥ずかしながら、王女の近衛騎士を目指していたのだが、選定の儀で落ちてしまってな。ただ、勘違いしてほしくないのは、実力は私が一番だったと自負している。後で知ったのだが、上位貴族の令嬢に内定していたのに儀礼的に選定の儀を開催したのだそうだ。それを知って今までの努力が全て否定されたようで…。」
ショックを受けているのはわかるよ。
頑張ったのにコネのある奴が入社試験に通ったみたいな感じだろう。でもなぁ…。
「それで、近衛騎士を諦めたから冒険者になろうと思ったのですか?」
アーシアさんは言葉に詰まったようだった。
「それは…。自暴自棄になっていた私に、父上が『世界を見て周り、やりたいことをみつけろ』と言ってくれたので…。」
「冒険者がアーシアさんのやりたいことだと思ったのですか?」
「私は、見返してやりたかったのです。何か功績をあげて私を落としたことを後悔させてやりたいと…。」
初めの凛とした表情は崩れ、泣き出しそうな状態になってしまった。
女の子の涙とか、僕には対処不能だ…。
「あの、理由は人それぞれでいいと思います。だけど、一緒にやっていくなら、過去に捕らわれるより前向きにいきませんか?」
メルディが言うと重いな。でも、いいことを言ってくれた。
「お金を貯めて一緒に美味しい魚料理を食うにゃ。」
ニーナがどうでもいいことを言ってしまった。
でも、重苦しい空気を壊してくれたのはありがたいかな。
しばらく考え込んでいたアーシアさんは深く息を吐いて、再び凛とした空気を纏った。
「中途半端な覚悟で加入を希望するのは失礼だったと反省している。一晩よく考え、明日改めて加入を希望するか伝えさせてもらいたい。」
うん、いい顔になった。この様子なら仲間に加えても大丈夫かな。
「わかりました。明日の9時にギルドで落ち合いましょう。」




