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第14話

宿に向かって夜の裏路地を一人で歩いていると、急速に不安になってきた。

酔っ払いの嫌らしい目線や場違いな存在を排斥するような睨み、そういったものが次々に襲いかかり身の危険を感じる。

今の僕は豊満な胸をもった若い女性であり、暴漢に襲われたら対抗できる自信がない…。

安かったからだろうけど、トリス達がこんな場所に宿をとっているのが心配でならない。

やっぱり賃貸物件を本格的に考えよう。

僕は杖をギュっと握りしめて足早に宿へと急いだ。


ずっと早歩きをしてきて、息を切らせながら部屋に入ると温かく3人が迎え入れてくれた。

「よかったです。遅いので心配しました。」

「女一人で夜に出歩くのは感心せんのじゃ。」

「この乳は危険にゃ。」

乳って…。まぁ、見られている自覚はあったからね、無事に戻れてよかったけど。


「確かにちょっと怖かったよ。それでね、1つ提案なんだけど、もう少し治安のいいところに家を借りてみない?」

「それには賛成ですけど…。」

「もう明日の宿代もないにゃ…。」

「面目ないのじゃ…。」

やっぱり極貧状態なんだな。

「当面は僕がお金をだすけど、かかった家賃はパーティー資金として計上しておいて、稼げるようになったら返してもらうってことでいいかな?」

「それでいいにゃ。ユウがいなかったら、明日から路上生活だったにゃ。」

「それでいいなら助かるのじゃ。」

「お世話になってばかりで申し訳ないですけど、お願いしたいです。」

「じゃあ、明日は武具を買ったら物件を探してみようね。」

「はい。」

「わかったにゃ。」

「楽しみなのじゃ。」

みんな賛成してくれてよかった。まぁ、他の選択肢もなさそうだったけど。

とりあえず、お手頃のいい物件がみつかるといいな。


「それとね、さっきギルドでリップルさんと相談してきたんだけど、パーティーメンバーの募集のチラシを出すことにしたんだ。女性限定パーティーと宣伝したほうが集まりやすいっていうから、その方向でチラシをつくってもらっているんだけど、それでよかったかな?」

「異論ないのじゃ。パーティーの方針はユウにお任せなのじゃ。」

「アチシは早くダンジョンに行けるなら、どっちでもいいにゃ。」

「私は女性限定のほうが嬉しいです。男性が近くにいると緊張してしまって。」

メルディは父親に暴力をふるわれていた過去があるから、男性恐怖症になっているのだろう。

僕の過去をもっと過酷にしたような人生を歩んできたメルディには、これからは幸せになってほしい。

僕が少しでもその助けになれたらと思うよ。


「それでね、パーティー名を決めたほうがいいみたいなんだ。後々指名依頼とかも受けやすいみたいで。みんなはどんな名前がいい?」

「ふむ、アイアンメイデンはどうじゃ?」

それって拷問器具の名前では…。

聞いた覚えのある言葉でアイアンが入っているから言ってみただけなんだろうな…。


「えっと、他の案はないかな?」

「フィッシュ&チップスがいいにゃ。」

魚料理の名前で思いついたのを言っただけっぽいな…。


「美味しそうな名前だね…。メルディは何かいい案あるかな?」

「そうですね。女性限定ですし花とかに関係する名前がいいと思います。」

やっと真っ当な意見が!

「そうだね、僕もそういう感じがいいと思っていたんだ。」


「みんなで1つの花を構成するみたいな名前はどうじゃ?」

「トリスにしては名案にゃ!」

「失礼なのじゃ!料理名にしようとしたニーナのほうがセンスがないのじゃ。」

また2人がじゃれ合い始めたのを横目に、メルディが真剣に考えてくれている。


「それでしたら、『フラワー・フラグメント』というのはどうでしょうか?」

花の欠片という意味か。いいね、可愛いくて気品がある感じだ。

「僕はその案に賛成するよ。トリスとニーナはどう?」

「我も賛成なのじゃ。」

「アチシも気にいったにゃ。」

「じゃあ、僕らは今からフラワー・フラグメントの一員だね。いい名前を考えてくれてありがとう。」

僕が感謝を述べると、メルディは照れ笑いをしていた。

今後もそうやって笑っていてほしいと切に思うよ。


少し雑談して、いよいよ就寝となった。

突然3人が服を脱ぎ始めたので僕は焦って背中を向けた。

どういうこと?もしかして裸で寝るのが普通の世界だったりする?

動揺を抑えようと目を瞑って深呼吸を繰り返していると、いつのまにかニーナが僕の前にきていたみたいで、「何してるにゃ?」と声をかけられて飛び上がりそうになった。


驚いて目を開いてしまうと、ニーナはシミーズのような寝間着に着替えていた。

よかった…。寝間着の文化があるんだね。

あれ、僕のバックパックに寝間着なんか入ってなかったぞ。

そもそも着替え類は何もなかった…。

明日、買いそろえないと…。女性ものの下着とか僕に買えるだろうか…。


「えっと、着替えがないので今日はローブだけ脱いで寝るね。」

「問題ないのじゃ。」

「明日、衣類も買いに行きましょう。選ぶのをお手伝いしますね。」

「よろしくお願いします…。」

絶対に変だと思われただろうなぁ…。つっこまないでくれたことに感謝だよ。


しかし、シミーズ姿の若い女性3人は目の毒だ。

できるだけ視界に入らないようにローブを脱ぐと、内側には道行く人が着ているようなラフな服が着込まれていた。

いきなり下着とかじゃなくてよかった…。

それにしても、胸がでかいな…。せめて普通サイズにしてほしかった。


ランタンの灯りを消して各自ベッドに潜り込んでいく。

平常心、平常心と心で唱えながらトリスの隣に横になった。

「一人より温かいのじゃ。」

トリスの嬉しそうな声に、ここに居ていいのだと認められたような気がした。

それでも心臓の鼓動は速く、とにかく無心を心がけているとトリスの寝息が聞こえ始めてちょっとほっとした。

それでも緊張から寝付けないでいると、トリスが寝ぼけながら僕を抱き枕のようにして手や足を絡めてくるものだから、平常心を保つのに苦労した。

この夜だけで、瞑想のスキルがあるならレベルが上がっていただろう…。


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