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第13話

夜になっても冒険者ギルドは賑わっていた。

ダンジョンから戻ってきたパーティーが何かしらの報告や買い取りをしてもらっているようで、気になってしまう。

いいなぁ、こういうのを体験したかったんだよ!


リップルさんはまだ受付の仕事を終えていなかったようで、先ほどと同じ場所で冒険者の対応をしていたけど、やっぱり他の受付より列が短い・・・。

僕たちのパーティーが活躍すればリップルさんの人気も上がるのかな?

そうだとすれば、担当受付さんと冒険者パーティーは二人三脚で歩んでいるようで、強い信頼関係が築けそうだな。

とりあえず列に並ぶと、すぐに僕の順番がまわってきた。


「ユウさん、お帰りなさい。メルディは無事に蘇生できましたか?」

気になっていたようで、僕が何か言うより先に、リップルさんのほうから話しかけられた。

「大丈夫ですよ。今は食事も済ませて湯屋にいっています。」

「そう・・・よかったわ。ユウさんには本当に感謝しているの。可能性の塊みたいなあの子達が、まともにスタートもきれずに潰れてしまうと思ったら、平常心ではいられなかったわ。」

初めの守銭奴のようなイメージから、面倒見のいいお姉さんといった好印象に僕のなかでは格上げされている。

これからも、リップルさんに相談しながら困難を乗り越えていこうと思った。


「僕もいいパーティーに引き合わせてもらえて、リップルさんには感謝していますよ。」

「本当にお人好しね。心配になっちゃうわ。」

そう言いながら、リップルさんは優しく笑った。

「あの、先ほどの続きでいろいろ教えてもらってもいいですか?」

「そうね、途中で中断してしまったままだったわ。さっきの部屋にいきましょう。」

移動の際に手を繋いでくれなかったのが、ちょっと寂しい・・・。

でも、手を繋ぎたいって思ったことに、僕自身すごく驚いていた。


部屋に入りソファーに向かい合って座ると、早速質問を始めた。

「あの、あと一人前衛職の仲間が加わればダンジョンに挑めそうなんですけど、どうしたら仲間を集められますか?」

「誰でもいいならすぐにでも紹介できるけど、そうもいかないでしょ?メルディは男性に少なからず苦手意識があるし、トリスとニーナは単純で騙されやすいしね。」

ちゃんと考えてくれていたから、なかなか紹介できず待機させていたみたいだ。


「まぁ、あと一人だし、メンバー募集のチラシを出せば案外すぐにみつかると思うわ。メンバーは全員女性だということを売りにしましょう。」

「全員女性だから男性が飛びつくみたいなことですか?」

「そうじゃないの。冒険者は男性人口のほうが多いから、男ばかりの中に女1人みたいなパーティーが多くてね。嫌な思いをしてる子も少なからずいるのよ。」

なるほどね、確かに女性ばかりの中に僕一人混じったら、気を使うし心労がとんでもないことになりそうだ・・・。

「だからね、『女性限定パーティー』と書いておけば、今のパーティーを抜けてでも入りたいって子が出てくると思うの。」


「なるほど、確かにすぐみつかりそうですね。」

実際には僕という紛い物の女性が混じっているけど・・・。

「よければ募集のチラシは私がいい感じに作ってあげるけど、チーム名もあるといいわね。」

「チーム名ですか?」

「そうよ、所属感も強くなるし、実力がつくにつれて指名依頼とかも増えるわよ。」

ちょっと守銭奴の目が垣間見えた・・・。きっとリップルさんにも仲介手数料とか入るんだろうなぁ。

「わかりました。みんなで話し合って明日までに決めてきますね。」

「じゃあ、チーム名の欄だけあけてチラシを作っておくわ。」

「よろしくお願いします。」


「他に聞きたいことはあるかしら?」

「実は賃貸物件を借りられないか考えているのですけど、そういうのって普通じゃないですか?」

「名を上げたパーティーなら家を所有していることも珍しくないわね。他の町への移動を考えていないなら悪くないんじゃないかしら。」

「そうなんですね、何処に行けば契約できるでしょうか?」

「商業区に不動産を扱う店があるから行ってみるといいわ。」

そう言うと、簡単な地図を書いてくれた。


「あと、魔法の試し打ちができる訓練場のような場所はありますか?」

「それなら、ギルドの地下がそうよ。1時間につき銀貨2枚で貸し出しているわ。」

お金とるのか・・・。でもぶっつけ本番という訳にはいかないし、素直に払おうかな。

「このあと1時間借りたいのですが大丈夫ですか?」

「もう質問が終わりなら、空いてるか確認してくるけど。」

「お願いします。今のところ聞きたかったことは全て教えてもらいました。」

「そうなのね、ちょっと待ってて。」

部屋を出るリップルさんを見送りながら、2人きりで自然に話せていたことに安堵する。

僕が女性と話せなかったのは、僕自身が信頼できると心を開いていなかったからなのかもしれないな。

結局のところ、過去のトラウマから僕自身が女性との間に壁を築いていたのだろう。

これからは、信頼できる人なのかを見極めて、自然に話せる女性を増やしていきたい。


扉の開く音に、思考の海から引き戻された。

「お待たせ~。空いていたから予約してきたわ。」

「ありがとうございます。早速使用させてもらいますね。」

リップルさんに銀貨2枚を支払い、案内してもらって地下の訓練場に降りた。

訓練場は学校の教室くらいの広さがあり、壁には様々な武器が掛かっていた。

中央奥には丸太に鎧が着せられたものが立っていて、打ち込まれてベコベコになっていた。

うん、だいたい想像通りだ。


「それじゃあ、時間になったら呼びに来るわね。」

「はい、お願いします。」

リップルさんの姿が上階に消えたのを見届け、僕はバックパックから杖をとりだした。

さぁ、いよいよ魔法を使うときがきた。

聡明のスキルを含め、今の僕にできることを確認するぞ。


メルディとテレサさんの会話から察するに、普通は誰かに職業の基礎訓練を受けるようだけど、僕にはその記憶はない。

それでも、魔法を使おうと思うと、水を射出するイメージが頭に浮かんでくるから不思議だ。

1レベルだし、このくらいしかできないのは当然として、まずは一発放ってみよう。


体から不思議な力の流れが杖に集まっていくのを感じながら、水が鎧に向けて飛ぶイメージをもって力を解放すると、サッカーボール程の水球が出現し勢いよく鎧に向けて飛んでいき命中した。


魔法を使えてしまった。体が震えている。鼓動が速い。

あぁ、剣と魔法のファンタジー世界に本当に来たんだなぁ・・・。

しみじみと喜びが全身に浸透していくようだった。

僕は深く深呼吸し、自分を落ち着けて訓練を再開した。


まず、今の魔法で消費したMPは2だった。ということは18回魔法を放てるわけか。

メルディのMPを考えると多いほうだと予想されるのは嬉しいけど、トリス達が言っていたように、威力は低そうだなぁ。

とりあえず、もう1回魔法を使ってみようとすると、頭に文字列が浮かんできた。


魔 法:ウォーターボール

消 費:2

速 度:超速 速い 普通 遅い 停滞   (普通)

温 度:超高温 高温 普通 低温 氷結  (普通)

体 積:特大 大 中 小 極小  (中)

形 状:球体 立方体 任意  (球体)


これって、カスタマイズできるってこと?聡明のスキルの影響なのかな?

いろいろイメージしてみると括弧内の表示が変わり、右側に消費の変動が表示された。

とりあえず、遅い(消費2分の1)、氷結(消費4倍)、極小(消費4分の1)、任意で円錐(消費2倍)として放ってみた。


杖の先から細めの氷柱が先ほどより遅い速度で放たれた。

これは面白いな。ワクワクが止まらない。

消費は2のままだけど、水のまま当てるよりは威力がありそうだな。

遅いから機敏な敵なら避けられそうだし、威力も当然下がるはずだ。

まぁ、敵に合わせて速度と体積は調整するとして、次は温度を上げてみたい。


停滞(消費4分の1)、高温(消費2倍)、小(消費2分の1)で放ってみる。

杖の先に現れた湯気を上げる球体に触れてみると、かなり熱かった。

50度くらいはあるんじゃないか?

お湯は3秒ほど空中に漂ったあと形を崩して床に落ちていった。

MPは1消費しているから、1を下回ることはないみたいだな。

これを使えば個人風呂も可能ではないだろうか?


次は、停滞(消費4分の1)、超高温(消費4倍)、小(消費2分の1)。

出てきた水球は明らかにグツグツと沸騰している。

これをぶつけられるのが一番怖いかもしれない・・・。

聡明のスキルをもっていなかったら、最初の水球を放つだけだったのかと思うと、あのときの選択の重要性をひしひしと感じてしまう。

ちゃんと説明してほしかったよ・・・。


その後は、体積特大を試してみたところ、密集していれば範囲魔法のように使えることを確認できたし、速度は超速で氷柱を放つと高威力が実現できることがわかった。

あれこれ熱中しているうちに、リップルさんが呼びに来て訓練場をあとにしたけど、本当に充実した1時間で、時が経つのを忘れるとは、こういうことかと実感した。


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