#1
3月某日
自分こと青山輝は改札を出てすぐに目の当たりにした人込みに圧倒されていた。
4月に地元から遠く離れた東京の私立高校に入学するため、今日から親戚の家に厄介になるのだが・・・
「今日はなんかイベントでもあるんか・・・?」
つい言葉に出てしまった。ほとんど地元の田舎から出てきたことがない自分にとっては別世界のようだ。
どうしようか迷っているとスマホに連絡が入った。
《もう改札出た?今そっち迎えに行くねー》
メッセージに返信して間もなく、一人の女性がこちらにかけてくる。
「ひかる君久しぶり~!また大きくなったんじゃない~?」
そう言いながら両手でこちらの手を握り腕をブンブンと勢いよく上下に動かす。
「お久しぶりです。真由華さん」
この元気な女性は今日からお世話になる綾瀬家の綾瀬 真由華さんである。
茶色がかったショートボブでスタイルもよく、到底2児の母とは思えないほど若々しい。
自分にとっては『母の妹』ということで叔母にあたるのだが、本人曰く、『おばさん』と呼ばれるのがすごく嫌らしい。そのため真由華さん呼びとなっている。
「ママ~、ちょっと早いよ~・・・」
遅れてやってきた男性は疲れたのか少し肩で息をするように呼吸を整える。
清潔感のあるきっちりとした身なりで優しげなこの男性こそ綾瀬家の大黒柱である綾瀬 秀作さんである。
「お久しぶりです、秀作さん」
挨拶をしてお辞儀をする。叔父である秀作さんも真由華さんと同様名前呼びである。どうも真由華さんが自分に名前呼びされるのがうらやましいから同じように名前で呼んでほしいという訳である。
「久しぶりだねー、ちゃんと会うのはひかる君が小学生以来かな?大きくなったね」
真由華さん達はお盆期間や年末年始にたまに帰省してくる関係上、会う機会はあったが、秀作さんは昨年末まで海外にいたため、ビデオ通話をする機会はあっても、直接会って話すのは小学生以来である。
「ほんとに立派になったねー、なんせもう僕より大きいもんね!」
というのも、自分は身長が中学に上がる少し前から身長が伸びはじめ、現在の身長は183cmである。
以前見上げていた秀作さんが目線の少し下というのも不思議な感覚だ。
「ね~!本当に大きくなったからあの子たち驚くんじゃないかしら?」
うふふ、と笑いながら真由華さんが言う。
「そうだねー!そろそろおうちに行こうか」
そうして賑やかに会談した後、綾瀬家へ向かうのだった。