そんなのが好きなんだ
駅のトイレまで混んでるのは予想外だったな。「お待たせしました」トイレから出るとみんなが待ってくれている。「じゃあ帰ろうか。電車もうすぐだしね」とすみちゃんが先頭にたって歩いてくれる。今日はずっとそうだった、すみちゃんが先を歩いてくれてそれについていくだけ。ちょっと頼りすぎたかな?
扉の近くで電車に揺られている扉の窓にはシールの剥がし後みたいな汚れがある、これの正体は一体なんなんのか、いつも気になるけれど調べはしない、そこまでの興味はないから。電車の中はギチギチで、こうなると会話もあまりできる雰囲気ではない。駅に着くたび人が少しずつ入れ替わっていく、大きめの駅に着いたところで乗り換えのために大勢の人と一緒に降りる。先頭のすみちゃんを見失わない様に気をつけて進む。ドンッ「すみません」。大きな荷物を持った人にぶつかってしまう。前を見てみてもたくさん頭はあるが、もうすみちゃんの姿は見えない。どうせ次に乗るホームで会えるし問題ないかな。次のホームまで一人で歩く。こんなに人がいるのに少し寂しい。駅のホームを見ると人でごった返している。これは見つけられないかな、一人で帰るか。駅を出ようとすると「宇高さん!」人混みの中からはっきりと聞こえる音量で太田くんの声がした。そっちを向くと安心した様な顔をしたて手を振っているのが見えた。
「すみちゃんたちは?」「わかんない宇高さん探してたら逸れた」「ははっ、おっちょこちょいだね。二人で帰ろっか」(パンポン パンポン一番線に電車が到着しそうだよ)アナウンスが聞こえる。キーッ電車が止まる。プシュー電車のドアが開く。降りる人はほとんどいない。前後に並んでいた人とあたしが一斉に乗り込みまた満員電車、今回は真ん中で立ってる。電車に揺られて駅に着く、人が少し降りていく。また電車と一緒に駅を出る。電車に揺られ駅に着く、人が結構降りていく。また電車と一緒に駅を出る。電車に揺られて駅に着く、人がたくさん降りてゆく。次があたしの降りる駅。「結構人減ったね、後一駅だけど座る?」と太田くんが少し疲れた様子で話しかけてくる。「座ろうかな」出口の近くの席に座る。しばらく太田くんと話す。ついさっきの夏の思い出話。ガタンゴトン電車が揺れる。キーッ電車が止まる。プシュー電車のドアが開く。
駅を出る。「えぇ宇高さん気をつけて帰ってね」太田くんがと別れて私の家へと帰る、今から‥「お姉さん体幹強いですね、電車で全然揺れてなかった。」気味の悪い声が聞こえ、びっくりして振り返るとさっき声をかけてきた大きなリュックを背負った男の人がいる。「お姉さん、あなたはどんな生き物ですか?」にやけながら聞いてくる。「すみません今日疲れてるので、失礼します」質問をはぐらかして走って帰る。後ろ確認しても付いてきている様子はない。家に着く。あたしにとっては都合の良い街の中に一つだけある廃墟、ここがあたしの家。ブオォォォォ キッーー一台の車が家の前に止まる。たまに廃墟巡りをする大学生が来ることがある。その時は急いで荷物を持ってできるだけ音を立てないように天井裏でいなくなるのを待つ。タッタッタ歩く音がする今ちょうどあたしの真下くらいにいる。一人で来るなんて珍しい。あたしの真下で足音が止んだ。「お姉さんどこにいます?GPSではここら辺なんですけどねぇ」さっきの気味の悪い人がいる。一気に鼓動が早くなる、できるだけ音を立てないように外に出る方法を探す。パァン!銃声が響き足元の床を銃弾が突き抜ける。「どこですか?出てきてくださいよ。上かな?」男はそこら辺にあるボロボロの箱や家具を積み重ねて階段を作り始めるそして天井に届くとバンバンと金槌のようなもので天井を叩き始める。静かに天井裏から降りて、叩くのに夢中になっている男の足場を蹴っとばす。大きな音を立てて男が落ち、銃と金槌が地面を滑りどこかへいく。男は体を起き上がらせてにやけながら話しかけてくる。「あなたなんでこんなところにいるんですか?家に帰るのでは?」「ここが家です。あなたの予想どうり人外ですよ」もう落ち着いていた、ふっきれていた。男は大きなカバンから手榴弾のようなものをいくつか出す。その中の一つのピンを抜きこちらに投げてくる。男は急いで部屋を出て逃げる。咄嗟に手榴弾に覆い被さる。ダァン大きな音と共に身につけていた服が焦げ落ち床が壊れる。床が抜け落ちた先には男が嬉しそうな顔で立っている。「本当に人じゃないんだ」男は追加で一つの手榴弾のピンに指をかける。体は痛くて動けそうにない。「死ねぇぇぇぇぇ」聞き覚えのある声と共に男が大きく前によろけ倒れる。「宇高さん大丈夫?立てる?」大きなあたしの体を非力ながらも頑張って支えて運ぼうとしてくれている、彼は太田くん。「もう大丈夫動けるよ」太田くんは落ち着いた様子で言う「回復早いね、逃げよう」「逃げんなよ」食い気味に男は叫んで手榴弾を投げてくる。太田くんに言われ通り太田くんを担いで天井裏まで跳び、タンスを担ぐ。ダァン手榴弾が下で爆発する。ウィーウォーウィーウォー パトカーのサイレンが聞こえる。流石に近所の人が通報したらしい。人目につかないように裏から山へはいる。奥まで行ったところで少し休憩する。「太田くんなんで来てくれたの?」とあたし「なんか別れた後さっきの不審者見えて、宇高さん走ってくし不審者タクシー乗ってたからとりあえず宇高さんの方向に行ったら爆発音聞こえたから」と落ち着かない様子で太田くんが話す「ありがと、助かった。久々にこの姿見せたね」とあたし「なんか服いる?」と太田くん「タンス持ってきたから大丈夫」とあたし「すごいね。この後どうするの?」と太田くん「また家探そうかな」とあたし「あのぉ‥うちくる?」と気まずそうに太田くんが言う。
8月11日土曜日のニュースです昨日夜11時ごろ廃墟で手榴弾を巻くキチガイが逮捕されました犯人は「もう我々は見分けられますよ。もうあなたたちは長くは持たない」などと供述しています。
目を覚まし、リビンングにつながるドアを開けると太田くんが朝食を用意して待っていてくれました。「おはよう今日初日だからなんとなく豪華にしてみたんだけど‥どうかな?」テーブルの上にはオムレツにウィンナー、サラダにオニオンスープ、パンとジャムとバターさらにオーブンからはアップルパイの甘い香りがチラ見えしている。「すごい美味しそう。食べていいの?」「もちろん!」「いただきます。」スープを啜りオムレツの端をフォークで切ってケチャップにつけて口運ぶ。「すごい美味しい!お嫁さんみたいだね」太田くんは安心したような悦楽したような顔で「ありがとう」って一言。
全て食べ終え「ごちそうさま」と言うと「ちょっと待って」と慌てた様子で急いでオーブンの中から長方形のアップルパイを二つ取り出し白い皿の上に乗せ「一緒に食べない?」だって。「食べたい」というと新しいナイフとフォークを2本ずつとアップルパイを持ってあたしの向かい側に座る。「「いただきます」」一口食べると前歯でパイ生地をサクッと噛んでその先にあるリンゴの果肉にシャッと切り込む食感 シナモンの香ばしさとカスタードの甘さが口いっぱいに広がり鼻と喉を流れる。「これすごい店出せるよ!」「ほんと?よかった」と言って焦ったように太田くんもかぶりつく。「あっつ」まだ熱くて食べれないみたい。申し訳ないことしたかな。
「僕課題やってるから適当に遊んでていいよ」と太田くんが言う「あたしもやろうかな」少し億劫だと思いつつ気合いを入れる。課題は授業の復習をするだけだからそんなに難しくない。太田くんの正面に座り数学の問題集を開き取り掛かる。しばらく進めた後ちらっと太田くんの方を見るとかなり行き詰まっている様子だ。「大丈夫そう?」無視するのも心苦しいので聞いてみる。「助けて一人じゃ解けそうにない」と素直に頼まれる。「答えは見た?」「見てない」「見て理解できなかったら頼ってね」正直自分のも進めたいのでちょっと先延ばしにする。
問題を四つ解いたところで「普通に理解できないわ、助けて」と太田くんから声がかかる「いいよ、どこができない?」と太田くんの隣にすわり問題を見る。それは期末テストの最後に出てきたものと同じものだった。「前回のテスト太田くん数学捨てたでしょ」軽く説教するように聞く「それ以外は良かったよ」濁すように太田くんは答える。少し呆れながらもやり方を一つずつ丁寧に教える。「理解できた!ありがとう。宇高さんいなかったら死んでたわ」満足したように感謝される。「少し疲れたね。見たい映画あるんだけど今から行かない?」休憩がてら誘ってみる「いいね。何見たいの?」「(カクレクマノミのみの飲み会)だよ。この間広告見て面白そうだなーって」「席の予約するね」太田くんが予約をとってくれる「あ、今日夜中まで満席だな。どうする?」昨日の記憶がフラッシュバックする。ブルっと寒気がする「明日の昼は空いてる?」平然を装って聞いてみる「明日の朝イチなら」「じゃあそこにしよう。今日は大人しく課題やろうか」「そうだね」また課題に二人で取り掛かる。
眠りについてしばらくすると肩を軽く叩く感覚が脳に伝わってくる「宇高さんそろそろ準備した方がいいかも」なんとか布団押し退けて体を起こし大きくあくびをする「おはようちょっと待ってね」寝ぼけた声で返事をして顔を洗いに行く。「味噌汁とお米はあるけど食べる?」太田くんはいつも朝ごはんを作っているのだろうか?「もらおうかな。ありがとう」洗面台の蛇口を開き顔にパシャパシャかけて泡立て器の上に洗顔料を出しシャカシャカしてもこもこにしたら顔の上に乗っける、一通り終わったら流してリビングに戻るとお米と味噌汁が湯気を立てていた。「召し上がれ」「いただきます」
映画館につきポップコーンのLサイズを二つキャラメルと塩、ジュースはコーラとジンジャーエールを持ち四番目のスクリーンに入り席につく。映画館の電気が消え本編が始まる。
幼く可愛いカクレクマノミがいる。少し形と色の違う魚たち合わせて泳いでいる、みんなと餌を食べながら。この集団から離れてはいけないことは幼いながらに理解している。
次の日も餌を見つけでみんなと話しながら食べる、そこで周りの大きな魚たちが話しているのが聞こえた。「南に住んでるカサゴさんイソギンチャクに食べられたらしいわよ」「また?最近被害増えてるわね」二匹の魚が僕が話を聞いていることに気づく「クマノミくんも気をつけてね」クマノミは軽く頭だけを下げる。
次の日餌を探し回り泳いでいると世界観が明らかに違う幻想的な塊があることに気づく。「クマノミくんあれイソギンチャク近づかないようにね」その場では頷いたような目線を下げただけような曖昧な反応をする。またしばらく泳ぐと餌が見つかる、大人たちは談笑を始め餌を食べる、クマノミくんも餌を食べようとするがさっきの光景が忘れられず、今来た道を大人たちにバレないように引き返す。そこにはまださっきの塊があった。生き物かどうかもわからないこの塊に声をかけてみる。「こんにちは」塊はゆらゆら揺れながらまったり答える「どうかしました?」思ったより穏やかでとても魚を食べそうには見えない。「あなたは魚を食べるの?」「食べないよ。」「みんな君がカサゴさん食べたっていてるよ」「それは‥」言いかけたところで「クマノミくん離れて」大きな魚さんたちがクマノミくんをひっぱってイソギンチャクを睨み遠くへ行く。
「アレには近づいちゃダメ!」初めて強く叱られる「ごめんなさい」焦って形だけの謝罪をする。その夜みんなが寝た頃またイソギンチャクに会いに行った。大きな魚に気づかれてしまいまた連れ戻されて怒られる。こんなことを何度も繰り返した。時には「イソギンチャクが魚を食べてるとこは見たことがない」と訴えてみたりした、しかしそれは魚たちには関係ないようだ。近づいてはいけないから近づいてはいけないのだ。それが常識だから。そんなことを何度も繰り返してイソギンチャクの安全を訴えようとするも、周りはイソギンチャクを受け入れることよりクマノミを捨てることを選んだ。そしてクマノミはいつしかイソギンチャクと餌を食べるようになっていた。毎日毎日楽しそうに。そんなある日イソギンチャクに会いにいく途中岩に頭を打ってしまう、しばらく悶える、視界が少しぼやけているがぼんやり見えてきたイソギンチャクからモヤのようなものが出ていることに気づく。「大丈夫?」クマノミが聞いても返事がない。クマノミは急いで解決策を探すためなんでも知ってるジンベエザメさんに会いに行き、焦ったままの勢いでクマノミがどうすれば良いか質問する。「そっか…多分そのうち治るから大丈夫だよ」とジンベエザメさん言われ安心してイソギンチャクの元に戻り。モヤがかかって曖昧になった輪郭の形が戻るまでイソギンチャクの横で一人で餌を食べる。毎日「調子はどう?」などと話しかけながら。やがてクマノミに寿命がくる、そこでやっと気づくイソギンチャクはもう分解され切っていて何もいないただの岩の隣に一人で餌を食べていたことに。
映画が終わり映画館を出る。「お腹すいたね。昼ごはん食べに行こうか」太田くんが誘ってくる。「いつも通りハンバーガーでいい?」「いいよ」映画来る時は基本ここでご飯を食べる。注文を済まししばらく待って商品を受け取り席に着く。あたしはチーズバーガー、太田くんはベジタブルバーガーを食べながら映画ついて話す。「あれはバッドエンドなのかな?」太田くんに聞くと「一人でずっと生きるよりは一緒に死んだほうが幸せなんじゃない?」と返ってくる。それは妥協案で最高は一緒に生き続けることで幸せとはちがうのではないかと思いつつ「なるほどね」と納得したような返事をする。
コンティニュ