気、使ってくれたんだね
またこの場所に戻ってきた。少し前まではここで暮らせる事に感謝すらしていたのに今はもう侘しさしか感じない。
最後見た時よりもずいぶんボロボロになっている。一部は完全に崩れ落ちているし、壁はこの間の爆発で黒く焦げてしまっている部分も多い。
一度だけ深呼吸をして廃墟の中に入る。廃墟の中を適当に歩いて回る。5分もしないうちに埃まみれの汚いソファを見つける。
しばらくソファで休憩していると後ろから足音が聞こえる。振り返ると翔太くんがいる
「どうしたの?」至極冷静にあたしが聞くと翔太くんはあたしの顔を見て、無言でカバンから銃を取り出す。
「どうしたのそれ?」とあたしは不思議なくらい落ち着た声で聞く
「前にここが爆破された時に拾ったんだ、あの男から身を守るためにって」何やら翔太くんがカチャカチャと銃をいじる。
「そう。やっぱりあたし信用できないか」悲しみを悟られないように出来る限り明るいトーンで話す。
「うん。ちょっと見てて」と翔太くんは痛めているはずの右手で銃を持つ。震える手と荒い息遣いから緊張しているのがよく伝わってくる。
「もう抵抗とかしないから気楽に殺していいよ。一発じゃ死なないかもね」最後くらいカッコつけようと笑顔で目を閉じる
「違うよ」と震えた声で翔太くん バン 銃声が響く。
しかし自分の体に痛みがない「外しちゃった?」薄目を開けて翔太くんの方を見ると右太腿から大量の血を流している。
「何やってるの!」激しい口調であたしが言い駆け寄る
「が、あぁ」地面に倒れ込んで足を押さえている
「救急車呼ぶからちょっと待てて、スマホ借りるよ」と翔太くんのカバンを漁る
「何で自分の足うったの!」まだ収まらない興奮任せに強い口調で聞く
「あぁあっあぁ。すぅはっは。…どうぞ」翔太くんは笑っているのか、歯を食いしばっているのか曖昧な表情であたしを見る。
「そんなことしなくても簡単に食べれるよ」とあたしは翔太くんの奇行を理解して涙声で返す「…」こちらを真っ赤に充血した目で見ている翔太くん無視してスマホを取り出し救急車を呼ぶ。
ピーポーピーポー しばらくして救急車が来る。担架に乗って翔太くんは救急車まで運ばれていく。それに一緒に乗り病院までついていく。
少し掠っただけで大した怪我ではないとお医者さんが言っていた、一晩入院したらもう病院を出れるそうだ。拗ねた子供のようにベッドで丸くなる翔太くんの隣に座る。
「何であんな危ないことしたの?」静かな声で説教をする
「ちょっと、、立が由根さん食たって言って脳みそバグちゃった」拗ねた態度に似合わず、何処か調子良いことを呟く。
「普通の人の足一本とか変わらないから」あたしは冷たく返す
「疑ってごめんね。また帰ってきてくれる?」甘えたように言う翔太くんが今までに無いほど幼稚に見えた。
「あんなので信用していいの?」自虐的に、確かめるようにいう。
「今更疑うのちょっとおかしいわ」翔太くんはハハっと力なく笑う
「そっか。帰る場所もまたなくなったし、ありがたいね」タッタッタ。話しているとドアの前から誰かが走り去る音が聞こえる
「何だろう?見に行ってくるね」立ち上がりドアを開けると、警察が立っていた。銃についての事情聴取だった。廃墟巡り中に見つけた銃をおもちゃだと思って遊んでた事にした。あまり信用されている様子はなかったが今日のところは一旦帰ってもらう事に成功した。
病院を出て翔太くんの家に帰る。特にやることもないのでテレビをつける。(空前のインコブーム)(大学のサークルで大麻パーティ)(脱獄男逮捕)とニュースが流れる。良かった。これでまた安心して暮らせるようになるかな。安堵していると ピコン とスマホの通知がなる。
(明日ちょっと会えない?)とかにちゃんからだった。(もう大丈夫なの?)と一度打ってから全て消して(了解!何時くらい?)と送るとすぐ返信が来る(12時とかでいい?お昼ご飯食べよ)とかにちゃん(了解)と送りまたテレビを見始める。
集合時間になり言われたお店に行く。かにちゃんは先に到着していたようで席に座ってコーヒーを飲んでいた。
「ごめん待たせた?」あたしが小走りで駆け寄る
「全然待ってないよ」以前と変わらない笑顔で返事をしてくれる
「久しぶりな感じするね」あたしがカニチャンの顔をまじまじ見る
「ほんとにね。心配かけてごめんね。うちはもう元気だから大丈夫だよ」かにちゃんは健康的な白い歯を見せて笑う
「良かった。どこにいるのかわからなくて、会いに行けなくてごめんね」深刻にするのも気まずいと思い、胸元で軽く手を合わせる
「早速なんだけどさ。持井に全く連絡つかないんだけどあいつ大丈夫なのかな?」学校のことを隠す後めたさと共にもうそんな余裕があるのかと感心する
「あぁ。…元気なんじゃないかな」曖昧に笑う
「あいつについて何も知らない?」かにちゃんは少し前のめりになる
「知らないかな」罪悪感で少し息が詰まる
「…そう。ありがと」とかにちゃんが少し残念そうに背もたれに寄りかかる、そのあとは普通に雑談をしながらお昼ご飯を食べて解散する。
「ありがとね。今日は楽しかった」かにちゃんが手を振る
「こちらこそ。久しぶりに会えて良かったよ」と手を振降り返す。
「おはよう澄子。うち病院でエナちゃん達の話ちょっと聞いちゃった」朝早く学校へ行き、誰も居ない教室で澄子の席の前に座る。
「うちと同じ病院に太田が入院してきたからさ、お見舞いに行こうとしたら中の話聞こえたんだ。あの二人が立と澄子のこと話してたからさ、エナちゃんに詳しく話聞こうとしたら何も知らないだって。なんか隠してるよ。信用されてないのかな」澄子のいない席に話しているとドアが開き人が入ってくる。うちは自分の席に戻る。
「おはようございます。今日から新学期が始まります。また気を引き締めて頑張りましょう」来上が話し終わり、クラスみんなが各々動き始める。
「澄子ちゃんと持井くん今日休みなの?」何人かが聞いてくる。
「そうみたいね。二人で休みなんてロマンチックだね〜」ふざけたように返し来上の方を少し見る、となんか宇高と話してる。
休み明け初日なので学校はすぐに終わり、誰よりもはやく学校を出る。平日の昼間でも街中に意外と人はいる。
その人たち全員が性欲や食欲や保身のために悪意や不信感をうちに向けているのではないかと思いながら大股で歩く。かすれて読めなくなった看板の下をくぐり価値あるものは一つもないビルの中に入る。




