迫力ヤバい
おはよう世界。ウチは結構早い時間から起きてたよ。今日はみんなと鯨を見に行くんだ。そのためにみんなで飛行機に乗ってるよ。
旅行の期間お世話になるホテルについたよ。とりあえず荷物を置くために部屋の鍵を2つもらう。
「男女で分かれる感じ?」とウチが聞く
「いや、かやとそれ以外でとりあえず別れようかな」と澄子が笑顔でいう
「あ、そっか」ウチは不思議とそれを疑わない。寂しいと思いつつトボトボ歩き、とりあえず部屋の前までついた
「荷物置いてある程度準備整ったらこっちの部屋来て」と澄子に言われ「了解」と答えて自分の部屋に入る。
荷物を置いて身支度を整えたら自分の部屋を出る。ウチは一つ上の階にある澄子たちの部屋に向かうためにエレベーターに乗る。
エレベーターがウチのいる階に到着しドアが開く。そこにはオタク風の人や医者みたいな人、土方みたいな人いろんな種類の人がぎゅうぎゅうに詰まって何やら怒号を飛ばしていた。その人たちの隙間に体を挟み込み、少し奥まで進む。彼らが何を言ってるのかは分からないけど、叫び声の勢いがおさまる事はなかった。
さらに人が乗ってきて入り口が完全に塞がる。エレベーターから降りれない事を澄子たちに連絡しようとスマホに視線を下げたら、目の前の人だかりの足元から何か手の様なものが出てくるのが見えた。人が倒れているのだと思い急いで引っ張り出そうと手を掴もうとすると、手の持ち主は自力でエレベーターまで上半身を入れてきた。
その上半身には持井の顔がついていた「何やってんの」と驚いたように聞いて、手を引っ張ると何の重みもなくスルッと上半身だけの無惨な姿になった持井が取れた。
驚いて手を離すと持井は地面に落ち、着ているパーカーについているフードの中が見えた。そこには幸せそうな顔をした澄子の頭が入っていた。
無理やり人の群れを押しのけて澄子たちが止まるはずだった部屋を見に行くと、そこには持井の下半身単体やエナちゃんの長い右足に太田の短い左足、澄子の胴体と右腕、太田の左腕にえなちゃんの頭をつけた人間たちのキメラがちょこんと座っていた。
その隣には余ったパーツを適当に縫い合わせた塊が置いてあった。エレベータにある持井の上半身と澄子の頭を回収するために部屋を出ようと振り返ると、さっきまで怒った様な声を出していた人たちは満面の笑みでこっちを指差す人と何もなかったように真顔でその場をさる人に二分化していた。なんで何で「何で」なんでなのかな?と膝をついて顔を両手で覆い涙を流す。
「…かや?」「かや大丈夫?」と澄子に肩をゆらされて目がさめる。
「怖い夢でも見た?」澄子が優しく声をかけてくれると自分が涙を流している事に気がつく
「めっちゃ怖い夢見たよー」ふざけるように澄子に抱きつく
「もう空港ついたよ」澄子が言う。
ただの夢だったよ。
「この後どこ行くんだっけ?」コンベアに流される無数のキャリーケースを眺めながら聞く
「一旦ホテルに荷物置こうと思ってるよ」澄子がスマホのマップを見ながら言う
「なるほど。部屋割りどんな感じ?」ともう一つ質問する
「かやとそれ以外に分けるよ」と澄子が言い「え?」びびって澄子の顔を見ていると
「ごめん冗談。男女だよ。そんな驚く?」澄子が苦笑する
「びっくりした。四人かと思った」と誤魔化す
「本当に品性がない」とちょっと怒られる
荷物を置いてホテルを出る「鯨見るの明日だよね?」太田が澄子に聞く
「そうだよ。今日は近場にあるとこを適当に見て回って最後に温泉入って部屋に帰る」と澄子が答える
「じゃ、行こっか」と持井が澄子の隣に立って歩き始める。持井ちょっと前までキモ束縛彼氏だったのかっこよくなっちゃて、と思いつつ二人の後ろ姿をスマホで盗撮する。
「かやちゃん時間だよ。起きて」エナちゃんに肩を軽く叩かれて目がさめる。
「おはようエナちゃん。出発まであとどのくらい?」ぼやけた頭のまま聞く
「朝ごはんまであと二十分くらいだよ」と言われる
「眠い。朝ごはん食べない」と駄々をこね、布団を深く被る
「一日動くし食べた方がいいんじゃない?」とエナちゃんが優しく起こそうとしてくれる
「いや大丈夫」とベットから出るのを渋る
「どうせ朝飯終わった後も起きないでしょ。早く出ろ」と澄子に掛け布団を剥がされ、渋々ベッドから起き上がる。
急いで顔を洗い、寝癖を直す。数秒前に部屋を出た二人の背中を見つけ朝食の会場に向かう。
「かにさん寝起き?」と太田が聞いてくる
「おうよ。クソねみぃ」と返します
「翔太くんそれ寝起きじゃなかったときすごい失礼だからやめた方がいい」とちょっと思ってたことをエナちゃんが注意してくれる
「てか太田の名前って翔太っていうの?」あんまり似合ってないな、と思いつつ聞く
「知らなかった?」太田が少し寂しそうに言う
「ごめん初知りだわ」と笑いながら返事する
「ちなみに俺もパッとは出てこない」持井が半笑いで言う
「みんなひどいね。うちはちゃんと覚えてたけどね」澄子が軽蔑するとようにウチらを睨む
「てか澄子たちもう化粧してんの?寝とけよ」とウチが聞く
「朝食会場けっこう人いるしね。普通は気を使う」澄子がウチの顔をチラリと見る
「エナちゃんは?」ウチが不安そうな顔をして聞く
「楽しみで気合い入れちゃった」とエナちゃんが照れながら笑う
「相対的にウチブスじゃん。えぐ」と言いつつも今日はこのまま出かけてもいいんじゃないかとも思う。
「かや早く準備終わらせて」身支度を整え終わって電気のスイッチの前に立つ澄子に急かされる
「ちょっと待って。スマホ消えた。助けて」と騒ぐ
「洗面所にあったから」と澄子
「まじ?さんきゅ」ウチがいい「財布は?」と続けてウチが聞く
「机の上にあるやつじゃない?」とエナちゃん
「あった、ありがと」とウチが財布をカバンの中にしまい準備が終わりホエールウォッチング向かう。
船乗り場まで全部の席が前に向いてるタイプのデカいバスで向かう。一番後ろの五人座れる席で右に持井と澄子カップル、左に太田とエナちゃんカップル?
「ねぇエナちゃんと太田って付き合ってんの?」とエナちゃんに聞く
「付き合ってないよ」照れる様子もなく笑顔で言う
「そうなんだ。めっちゃ仲良くね?」ウチが少し茶化すように言う
「高校で初めてできた友達だからね」エナちゃん
「二人の馴れ初めってあの太田が廊下でエナちゃんにナンパしたって噂のやつ?」旅行のテンションのせいか声が少し大きくなる
「そうだよ。翔太くんのせいですごい目立って恥ずかしかった」とエナちゃんが少し懐かしそうに笑う
「だってよ太田」と揶揄う様に声をかける
「まじであん時はイカれてた」太田は恥ずかしそうにいう
「あの時?翔太くんずっとおかしいよ」エナちゃんが怪訝な顔をする
「その翔太くんってやつえぐい。仲良すぎるだろ」ウチ
「親友だからね。特別感のある呼び方にしてるの。いいでしょ」とエナちゃんが言う
「それは恋人同士でやるやつでしょ」と言いたかったけど流石に野暮だと思い「なるほどね」と返す。
船乗り場に少し早く到着する。受付を済ませ、まだ人も多くない船に乗り込む。
「澄子たちは冬休み二人で遊んだりすんの?」と出発までの待ち時間、デッキに設置されたベンチに腰掛けて澄子たちに聞く
「とりあえずクリスマスには会う予定でいるけど」澄子が答える
「ほーん。いいなー楽しそ」ウチが妬ましそうに言う
「かやも彼氏作ればいいじゃん」澄子が言う
「うちのクラス変なのしかいないだろ」ウチが不貞腐れたように愚痴ると「俺らも?」と驚いたように持井が反応する
「あんたらが一番やばい」なんて話していたら船に放送がかかり発進する。
移動中、海がとても綺麗で鯨なんて見なくても十分満足できていた。
「海綺麗だね」隣に座る澄子が言う
「感動しちゃった」とウチが答える。
しばらくするとウチらの後ろ側から何やら盛り上がっている声が聞こえる。鯨が現れたらしい。
ベンチから立ち上がり急いでそちら側に向かうと体をくねらせて水面に飛び上がる鯨の姿があった。それは遠くにいたのも相待って意外にも小さく、川に石を投げて遊んだ幼少期を思い出した。
またしばらく船に乗っていると今度はうちらが座っている側に鯨が来た。それはさっきよりも船に近かった。その鯨が跳ねると空は一瞬で暗くなり、次の瞬間大量の水飛沫が飛んできた。
それは幼少期のゲリラ豪雨に似ていて、先が見えない恐怖感と水の重さで縛られる不快感の隙間を体ですり抜ける爽快感があった。




