本当にいいやつ
「おはよう。劇の練習頑張ってる?」と可愛い声が聞こえたので顔を上げるとエナちゃんが立っていました
「おはよ、エナちゃんと久しぶりに話す気がする」と挨拶を返し「なんかかやにやる気がないって言われた」と続けて不機嫌そうに続けます
「かやちゃん頑張ってるからね。澄子ちゃんの舞台のことばっかり考えてる。すみちゃんも頑張ってあげて欲しいな。」とエナちゃん
「エナちゃんは優しいね」とうちにもカヤにも味方せず丸く収めてくれます。
放課後の練習終わり
「まだ大きい声出したりするの難しい?台本最初の方だけでも覚えて欲しいな」とカヤに言われます
「ごめん明日までに台本覚えてくるね」とぶっきらぼうに答えます
「ありがと。お願いね」とカヤに頼まれます。
「了解、また明日ね」カヤに手を振って立と下校します。
一週間後
「最近は充実しています。立と程よく遊んでますし、テストもしばらくありません、少し気になることといえば文化祭の演劇です。うちが思っているよりみんなは一生懸命考えているようです。昨日、教室のドアを開けようとしたら、劇に出るうちと立以外の人が話しているのを聞いてしまいました。『由根さんと持井君もうちょっと真面目にやってくれないかな?』『ほんとにそう、あの二人が真面目にやってくんないと始まんないし』他にもなにか言われていた気がしますがそんなことはどうでもいいのです。問題はその後です『澄子達にもいきなり頼んじゃって大変だろうしね。ウチからもっと言っとくから』とカヤの声です『かやちゃんはいいの?あんなに徹夜とかして頑張ってるのに』と一人が気遣いを装った仲間作りを始めました『澄子のことだからすぐみんなの気持ちに気づくと思うから。もうちょっと待っててほしい。ごめんね。お願い』とかやが庇ってくれます。そしてしばらくしてから教室に入りました。
『かや、衣装ってどうなってる?』とうち『山場のドレスは琴音ちゃんの知り合いが簡単なやつ作ってくれてるって』とかや『作る?』とうちが驚いて聞き返します『そう、すごいよね。趣味なんだって、こんな感じ』とかやが写真を見せてくれる『了解、ありがと。綺麗なドレスだね』華やかな白色のドレスです。高校生の演劇で使うとは思えないくらい完成度が高いです。その時初めてみんながうちに期待して努力していたことに気づきました。『うち頑張るね』今までの怠慢にいきなり不安が込み上げてきます。
…なんて事があったんですよ。」と面談で来上先生に本心で話します。
「なるほど、由根さんは持井君と付き合う前から性格はそんな感じだったんですか?」と来上先生
「いいえ。自分で言うのも変かもですが結構性格は良かったと思います、でも特別な人がはっきりと一人で来てしまうと相対的に他の人がどうでも良くなってしまったんです」自分なりの考えを言います
「飽くまで私の予想ですが多分違いますよ、由根さんは空気を読んだ結果主役を断りきれなかったんでしょう。でもやっぱり負担が大きくて、同じような状況で仲の良い持井君と一緒に手を抜いてしまったんじゃないですか?いきなり否定してしまいすみません」自虐的なうちを慰めるように来上先生が言う
「じゃあなんでかやに冷たくしてしまったんですかね?」と聞く
「信頼してるんじゃないですか?会う人全員に気を使い続けてきた由根さんが唯一、心を休めることのできる人だったんでしょう?」来上先生が微笑む
「…どうしましょう?」助けを求めるように言います。
「話し合いで止めなかった私の責任です。今からでもカフェにしますか?そうするなら私からみんなには伝えます」来上先生が優しい口調で言います。
「いや、かやのためにもやりたいです。でもうちにできますかね?」出来ます、と言われるのを待ちます
「正直な話をするとクラスの人達の不満は文化祭が終わるまで多分なくなりません。それに持井くんがどう思うかにもよります。でもイベントの時の由根さんは誰よりも楽しそうですよ。自分のやりたい方を選びましょう」と来上先生は正直に答えます
「ありがとうございます」うちが返事をして教室を出ます。
今日は一人の帰り道、不安事はたくさんあるはずなのに何も考えられません。デススパイラルに陥ったグンタイアリはこんな気分なのでしょうか?
「すみちゃん、お疲れ様」と可愛い声が聞こえてきます。エナちゃんが駅で待っていてくれました
「どうしたの?」空元気を出して答えます
「ドレス出来たって聞いたんだけどそれってお姫様の時だけでしょ?」とエナちゃん
「そう、お姫様時だけだよ」と可愛い表現を揶揄ように言います
「だからそれまでの衣装のことでさ。この間一緒に遊びに行った時に買ってもらったワンピース着て欲しいなって」とねだるような声で言います。
「エナちゃんが言うんなら仕方ないか」
冷たい風が首元から服の中へ入ってきました。
次の日
朝、ドアを開けて教室に入ってくる来上先生の方へ向かい劇をやることを伝えました。来上先生は少し微笑んで了承してくれました。次が本番です。
昼休みになりチャイムが鳴ると教室を見渡します、かやの周りには誰もいません。「かやご飯食べに行こ」とうちが言います
「お〜なんか久しぶりな感じだね」かやは違和感を感じるほど普段通りのテンションで答えました。
校舎裏の人目につかないところでかやとご飯を食べます。「なんでここ?今からウチ殺される?」とかやが冗談めかしていいます。
「いやぁ…」とうちが言葉を詰まらせていると「別にわかるけどね!謝罪でしょ」とかやがいいます。
「あぁ、うん」かやに見透かされて驚いていると「最近澄子ヤバかったからね。早よ謝罪しろ!かやちゃんは怒っているぞ」とかやは頬を膨らませて腰に手を当てます。
「台本から衣装まで徹夜してまでやってくれてたのに適当に練習してホントごめん。流石に調子乗ってた。あと教室でみんなにうちの不満言われてる時に庇ってくれてありがと」この数日の出来事をまとめて謝罪します。
「は?聞いてたの?恥ず。そっちは絶対許さない。まぁ劇はこれから頑張ってね〜。持井は大丈夫なの?」うちの覚悟を笑うように軽く流します
「立には無理やりでもやらせる。てか多分言えば真面目にやる」と最後にもう一度頭を下げます。
「イェ〜イラブラブ」とかやが揶揄い以前のように美味しく二人でお弁当を食べました。
「あんたは本当に優しいね」
放課後
「立!」自分の席に座っている立を勢いよく呼びます
「おっ!ビビった。何よ」と立が驚いて立ち上がります
「今日から真剣に劇の練習をします」はっきりと立に伝えます
「おぉなるほど。なんでいきなり?」昨日までとはまるでやる気が違ううちに立が少し困惑します
「結構みんな真面目にやってるから」と答えます
「なるほど…了解」とあまり関心のないように返事をします
「うちがやりたいから。だから真面目にやってね」立の無気力にイラついて強く言います「了解!」と今度は嬉しそうな返事が来ます。
練習の最後みんなで合わせる時間が来ました。
「みんな今まで手抜いてて本当にごめん。もう遅いかもしれないかもしれないけど本気でやるから」と立と一緒に深々と頭を下げます。
「もう間に合わないんじゃない?」「へー頑張ってね」「あぁ、そう」当たり前ですが簡単には許してくれません。でもいいんです一番後ろにいるかやは笑っていたのですから。
練習が終わり「今日かやと帰るわ。申し訳ないね。また明日」と立に伝えます。




