こんな結末
「なあ、お前はどんな悪魔になりたい」
いつか、名前も知り得ないような地で、誰かに問われた言葉を想起した。
「このクソッタレな世界で、荒廃しきったヤツらが闊歩する地獄で」
その声は、情感を大いに含んで毒を吐くようだった。
「俺は何にもなれなかった。クハッ、大事なものなんて一欠片すら残らなかった」
彼はまるで自らを嘲るように一つ笑い、懺悔するように呟いた。
地面に大の字で寝ていた彼は起き上がり、こちらに身体を向ける。
その胸に開いた大穴からは、絶えず血液が流れ落ちてゆく。
「……そうか。お前は……クハハッ、愚問だったか。お前が歩む道はもう決まっているんだな」
僕を視認した彼は何かを悟り、また一つ笑った。
その度に胸から血を吹く彼を見て、僕は……
「……ん?なんだ。心配してくれるのか。クハハ……優しいことだ。その気持ちは嬉しいが、俺はもう助からんぞ。見ての通りな」
そう言って彼は両手をあげる。視認できる限りでも、致命的な傷がいくつもあった。
幼い僕でもわかった。本当に彼は助からないのだろう。
「……」
「さてと、、」
一間開けて、彼は歩き出す。
その背中を見ていると、今にも倒れそうだとどこか不安になる。
「あぁそうだ……先人のアドバイスを一つやろう」
彼はそう言って少し立ち止まり、こちらを向いて言ったのだ。
「決して見失うな。お前の原点を」
続けて「どーせそれだけしか、残らないんだからな」と、見ているこちらが胸を締め付けられるような顔で、彼は……
もうさして動かぬ身体を、前へと進めた。
「……て……きて」
誰かの声が聞こえる。聞き覚えがある……とても安らぐ気がする、優しい声だ。
「起きてアーシャ。もう朝よ?」
聴こえた声に従って瞼を開く。
そうすると映る人影に、僕は寝惚けた頭を捻って記憶から正体を探った。
……そうだ。この人は僕の母だ。名はイグレイヌ。
イグレイヌ・グランヴェールだ。
いつもおっとりとしていて穏やかな悪魔だ。
産まれてこのかた7年は経つが、僕はこの悪魔が本気で怒っている姿を見たことがない。
体系はふっくらとしている。つまり少し太り気味。
歳は……聞いたことがないからわからないが、恐らくそれなりの刻を生きているのだろう。母はたまに自らの昔話を語るのだが、遡る年数が普通ではない。「アレは4000年は前の事だったわね〜」なんて出だしから始まる事がザラだ。
「どうしたのアーシャ?まだお寝坊さんなのかな?ボーっと見つめてきて……もしかして、私に見惚れているのかしら〜?」
そうして見つめていると、母はニュ〜っと口角を上げニヤけ始めた。
冗談ではない。なぜ僕が、実の母親に発情しなければならないんだ。
魔界にはそういった話がそれなりにはあるが、ほとんどがサキュバスやインキュバスの家庭内での話だ。その他の事例については知らんが……僕はノーマルだ。
というか、僕はなぜこんな下らない事を長々と……どうやら母の言う通り、まだ寝ぼけているらしい。
「母の言う通りだな。顔を洗ってくる」
「あら、本当に見惚れてたなんて……顔の火照りを冷ましてくるのね」
そっちではない。
見てくれてありがとうございます。
まだ未完結の作品があるのですが、少し思い浮かんだのでアイデアの書き貯めです。