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みちくさ

作者: 晃明


このページにいらして頂きありがとうございます。



とある学生の話です。

一口に学生と言っても彼らの世界は様々なようです。その一部を御覧になって下さい。



空は低くて風は落ち葉をさらって行く。






「コーメー。」


僕の固くなった背中はピクリと反応した。

学校帰り、駐輪場へ向かう途中あいつが走ってきたのだ。




「僕、あったかいもの飲みたいんだよね。」


隣を走る彼がふとそんなことを口にしたので僕たちは校門の前にある自動販売機の前に自転車を停めた。



彼のお目当ては、新商品のチョコレートモカだったらしく、これといって飲みたいものがない僕は自然と同じものを買うことになる。






手に取ったばかりの缶は熱くて、投げ出しそうになったけれども、いつのまにか自分の手のひらにおさまり、じんわりと冷えきった指先を温めてくれた。


どうしてだろう。芯まで冷えきった僕は温まろうとしているのにその熱をもらうとどこか痛みを伴う。




ぷすっと缶の空気を抜くとなぜだかわからないが僕はその音に開放感を感じる。



「ちゃんと缶振ったかぁ?」



彼の声を聞きふと我に返った。


コーヒーとチョコが分離してしまうのであろう。もともとコーヒーをあまり得意としないぼくは後にそれだけが残ってしまった時のことを考え、ふたを開ける前に振ることにした。




ぴしゃっ・・・・・・




コンクリートに茶色の液体が広がる。




「コーメー。」


半ば呆れたような困ったような笑みで僕の間抜けな姿を眺めている。



どう考えたってこぼれることは分かっていたのに。


僕は恥ずかしくなって缶を握ったべとついた液体のついた手をただただ見つめた。

何秒かの沈黙が訪れた後にぼくらはお互い早く飲んでくれと言わんばかりに口から白い湯気を出すそれに恐る恐る口をつけた。



学生の子小遣いで買えるくらいのその飲み物はお世辞でもうまいとはいえない。チョコとコーヒーの混じった液体は正直どこか石油のような匂いがした。






くすっと缶を口につけ俯いたまま彼が笑い出す。





笑いが止まらない。何で笑っているのか分からない。ただただ声を殺して笑っている。でもきっと僕らは同じことで笑っているのだろう。たとえ異ったとしてもそう思いたい。




ずっとこの瞬間が続けばいいのに。そう思ったのは僕だけであろう。





缶の中身も、半分以下になると温度を失いつつあった。


彼はもう既に飲み終えたらしく、かれの指の間に付いた最後の一滴を舌を伸ばして舐めていた。


見てはいけないものを見てしまった気がしたが、僕は目をそらすことも忘れ、その一部始終に見惚れる。




彼はやっと僕の視線に気づいたらしく、恥ずかしそうに顔をこちらに向ける。



「変なところみせちゃったね。」



・・・まったくだ。その彼の表情がとても大人びてみえた。

返す言葉が見つからずつい


「僕もそういうことあるよ。」







と、てきとうに返事をごまかして動揺している自分を隠す。










また風が吹いてきた。










帰ろう。








僕たちは暗くなってきた向こうの空に向かって肩を並べて走る。










明日も会うのだろうか。







僕たちは約束をしない。







最後まで読んでいただきありがとうございました。



相変わらずお粗末ですが読んでくれる方がいるというのは嬉しいです。



図々しくはありますが、良くも悪くも感想を頂けると光栄です。




またのお越しをお待ちしております。

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