戦いに向けて③
ジルトが食べ終わったところで、レオが話を切り出した。
「俺達がすべきことは三つだ。
イルを助けること、カトレア、ファレンを助けること、魔力の結晶を取り返すことだ。
イルの処刑までには今日を含めて四日しかない。だからイルを助け出すことが最重要だ」
「うん」
カトレア、ファレンは後に処遇が決まるだろうが、王族であるのでイルのように早急に残酷な方針が決定しないだろうとレオは予測している。また、王宮側が魔力の結晶を破壊するようなこともない。
「問題は、イルのいる場所に辿りつけるかということだ。
イルは今、地下の牢に入れられている。護りは厳重で、例え侵入に成功したとしても抜けるのが難しいとバンダから聞いている」
「バンダさんと連絡が取れるの?」
「ああ。ウォートは今王宮にいる。サクラの治療にそのまま当たっているみたいだ。意識は戻ったが解毒が上手く進んでいないみたいでな。バンダは巡回の時にウォートに色々情報を流してくれている。ウォートはA.K.クラブの通信機を持っているみたいで、そこからジルの通信機宛てに連絡をくれた」
「ウォートも通信機を持ってたんだね」
「どうやらフリティアに持たされたようだ」
「フリティアさんが……」
ジルトと別れた後、色々と動いてくれたのだろうか。
「もしかすると、処刑の実行時に場所を移す瞬間が一番狙いやすいんじゃないか、というのがバンダの考えだ。
王宮側としては、ドラゴンと同じ色をもつイルを殺せる力を持っていると示すためにも、必ずイルを外に出すはずだからな」
「もし、間に合わなかったら――」
「と、ジルが考えるだろうから、それを待つことはしない。最終手段だと思ってくれ。
何にせよ、イルの処刑日は待てない。北部の民は一日でも早く王都に乗り込みたい。連れ去られた者達が酷い目に遭うのにじっとはしていられない。すぐにでも王都に乗り込むんだ。その後はできるだけ早くことを進めたい」
レオは一度息を吐き出す。
「今日の昼、半獣人達も含めて、全員で山を出る。
王都に向けて進みながら、道中の反王政派に声をかけていく。お前の声はきっと頼もしく聞こえるはずだ。南部の連中も警戒して人員を配置しているだろうから、少しずつ半獣人を置いていく。
中央に入ったら、A.K.クラブの連中と合流して南部に入る。そこからはそいつらに戦ってもらう。俺達は王都に入ってイルの元に向かう。案内は城にいるバンダにしてもらう」
「そしたらイルさんと、カトレア、ファレンを助けるんだね」
「ああ。そうすれば、お前は自由に動ける。本当なら真っ先に目を取り戻してやりたいが……」
レオはジルトの黒い左目の下を指でそっとなぞる。
「私にとっては、一番大事なのは家族や、友達だから」
「そうだな」
レオだってそれは同じだろう。ジルトの顔から手を離す。
「王宮に捕らわれている者達については、A.K.クラブ、あるいは各地から王都に辿りつけた民たちが解放に向かう。
王都までは確実に乗り込めると思う。各地にいる王宮側の人間はその場の人間や半獣人が相手をしてくれるからな。だが、王都ではどうなるかわからない。
当然、警備は厚いだろうし、向こう側の一人一人の力も強いだろう。こちら側は王都までどれだけ辿りつけるか読めない。人数が少なくなればなるほど、王都で目的を果たすのが難しくなる」
レオは少し不安そうだった。
「大丈夫だよ、レオ」
そう言ったのはモーリだった。
「僕はもう本来の年齢に戻った。魔力だって多くなったし、テアントルで、クラブで学んでいたから魔法だって使える。少しは僕を頼ってよ」
「モーリ……」
「何でも一人で抱え込まないで。
もちろん、僕たちが目的を達成できるとは言い切れない。不安なこともあるだろう。けど、きっとうまく行く。そう信じて頑張ろう」
モーリの言葉にジルトも自信が湧いてくる。
「そうだね、頑張ろう!」
「いいのか?お前が最初に望んだ通りには進まなくなっているんだぞ?」
意気込むジルトにレオが声をかける。
本来なら、ジルトは王と話し合うつもりだった。アジュガの命がかかっているとはいえ、こんな荒っぽい方法をジルトが取れるのかもレオは気になっていた。
「そうだね。でも、イルさんを処刑にして、私を誘い出すやり方なら、きっと、王は話を聞いてはくれないんだろうと思う。レオも最初に言ってたよね、説得は難しいだろうって」
力を使って言うことを聞かせるなんて、いいことだとは思えない。それでも、ジルトはその覚悟をもうしていた。サクラが死んでしまうかと思ったあの時、アジュガの命がかけられている今、やり方にこだわって大事な人を失うのは嫌だと思った。
みんなが信じてくれるから、自分がこの力を正しく使えると信じて、戦うしかない。
「私がドラゴンとしてちゃんと覚醒できたなら、きっと王も話を聞く気になると思うの。
それに、A.K.クラブの人達も、王族を殺したりはしないって言ってたから、今はやるべきことをやるしかないんだと思う」
カトレアはどうなるだろうか。A.K.クラブと繋がっていない、普通の民たちはどう考えるだろうか。
ジルトに何かできることはないのか、どうすればいいのか、まだ答えは出ていない。だから、それらも考えつつ、今できる最善を尽くすしかない。
「レオ、モーリ。あの日、一緒に山を出てくれてありがとう。
危ない目に遭わせちゃってごめんね。でも、二人が一緒にいてくれるから私は頑張れる」
ジルトが二人を見て言うと、二人は顔を見合わせてから笑った。
「俺は、最後までお前のやりたかったことを見届けるだけだ」
「ジル、一緒に連れてきてくれてありがとう。僕も最後まで頑張るよ」
この二人がいれば、きっと大丈夫だと思う。
ジルトはぎゅっと両手に力を入れた。
続きます。




