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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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戦いに向けて②

 「ファレン……」


 何となく、王宮にいる人なんだとは思っていた。ウォートが王宮で開発した薬を作っていたから。

 それでもまさか王子だなんて思いもしなかった。


「知ってるのか?」


 レオが驚いたようにジルトを見る。


「うん。金色の髪じゃなかったから、王族だなんて思いもしなかったけど」


 ジルトは胸元のネックレスの飾りを握る。ジルトが初めて中央に行った時、このネックレスをくれたのがファレンだった。そして思い出せないが、彼はそれよりも前、ジルトが魔法を使った時――今ならそれが魔物を倒した時だとわかる――その場にいたのだ。


「ファレンは知ってた。初めからずっと、私がドラゴンの娘だって……」


 最後に話した時、ジルトに壮大なもしもの話を持ち掛けた。あれはジルトがドラゴンの娘だと確信していたから、した話だ。

 だとしたら、彼の言葉の意味が変わってくる。


 ――ジルトがもし大きな力を持っていたら、この国をどうしたい?――

 ――もし、他の責任を果たすべき人が、君の望みを叶えてくれるなら、君自身がする必要はないんじゃないかな?――

 ――大きな力を持っているだけでジルトが犠牲にならないといけないみたいだ――


 彼はジルトがドラゴンの娘とわかっていても、ジルトの力を利用しようとは考えていなかった。むしろ、ジルトが何かをしなければならないという考えを否定したいようだった。


 ――現国王の息子、次期国王は大変よくできたお人だ――

 ――放蕩王子や出来損ないと言われることも多いが、その裏で独自に動き、私のような者にも声をかけてこの国をよい方向へ導こうと努力なさっている――


 フリティアの兄、ビジウムは王子についてそう言っていた。

 ファレンはこの国のために動いている。そして、ジルトをドラゴンの娘としてではなく、一人の人間として見てくれていた。力を持っているからと犠牲になってはならないと。


「そいつは、味方なのか?」

「はい」


 レオの問いに答えたのはルギフィヤだった。


「ファレンは独自の魔法を持つ者、つまり魔力に適性のある者です。独自の魔法を持たなくても適性のある者はいますが、その逆はありません。独自の魔法を持っていれば、必ず魔力適性のある者となります。

 アジュガも知らないことですが、ファレンはよく魔の山に遊びに来ていたのです。王族に、ドラゴンや魔女を酷い目に遭わせた人間の末裔に生まれてしまったのは複雑な思いがありますが、彼は良い人間です。幼いころから魔の山の結界をすり抜けてやってきて、妖精たちとも仲良くなったと聞いています。

 私も、その頃はまだ花で休んでいたことが多いので、これは他の妖精から最近聞いた話ですが」


 それについてはジルトも知らないことだった。


「ファレンは自身の魔法のように、風のようにそこら中を飛び回っていたようです。魔力が多かったので、アジュガの発明したワープの魔法も使えたといいいます。

 北部だけでなく中央にも足を運んで、色んな人とお話ししていたみたいです。王族の色が受け継がれなかったので、王は初めからファレンを王にする気はなく、それもあって放置されていたのかと思います。

 ジルが覚醒しかけた日は、ちょうど山に遊びに来ていたらしく、魔物の気配を追ってジルの元に辿りついたのだと思います」

「だから、初めからドラゴンの娘だと知っていた……?」


 レオはジルトの言った言葉を繰り返した。


「はい。流石にそのことを誰かに言うようなら、妖精たちも対処しなければと思っていたようですが、ファレンは誰にも言いませんでした」


 だから、ジルトはその後もあの場所で暮らしていけた。


「なら信用できるな」


 レオはどこか思いつめたような、覚悟を決めたような顔になったが、すぐに真面目な顔に戻る。


「カトレアについては、俺から話そう。

 彼女も今、王子と同じく捕らわれている。王子とは違い、次期王として祀り上げるために身柄を拘束されていると言った方がいいか」


 ――カトレア様を次期国王に押し上げようという動きもある――

 ――事を動かすには大義名分がいる。カトレア様を王にと騒ぐものが出てくれば、ドラゴンを王としようとした時、彼女は王政の象徴としてその身を脅かされる可能性があるんだ――


 ビジウムが言っていたことが現実になろうとしている。

 カトレアが次期王となってしまえば、今からジルト達が王宮に乗り込んだ場合、その王宮側の象徴はカトレアも対象となってしまう。


「早く助けないと!」


 まだ話せていないことがたくさんある。ジルトが踏み込めなかったせいで、カトレアからではなくフレグから聞くことになった彼女の過去。それについて、カトレアはまた話をしたいと言っていた。


「ジル、落ち着いて」


 モーリが布団の上から優しくジルトに触れる。


「レオ、一度話はやめていい?ジルがまだ何も食べられてない」

「ああ、悪い。せっかくのスープが冷めるな」


 食事をとりながら、とは言ったものの、落ち着いて聞けるものではない内容に、ジルトの食事は全く進んでいなかった。


「食べたら、これからのことを話そう」


 レオに渡されたスプーンを受け取って、ジルトはまだ温かいスープを口に運んだ。

続きます。

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