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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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アジュガの過去④

 書庫から出て向かったのは王宮の庭である。アジュガの探す人物は直ぐに見つかった。


「アセビ!」


 学校にいた頃とは違い、随分と痩せている。腕には酷い傷があるし、もう何日もゆっくり眠れてないのだろう、目の下には濃い隈ができている。


「俺は逃げる。一緒に来るか?」


 いつかアセビを自由にすると言った。追われる立場なら自由とは言い切れないが、もうアセビも限界だろう。

 卒業後は王宮に連れ戻され、ドラゴンの娘ではないか確認するために、酷い目に遭わされている。


(馬鹿だよな。ドラゴンの娘はまだ生まれてさえなかったっていうのに)


 アジュガが好まない王宮に出入りするのはアセビの状況を確認するためでもあった。二人の仲の良さは王宮も把握しているからか、アジュガが来るときはアセビは庭で過ごすことを許されている。あたかも、普段からそうであるように。アセビの状態を見れば、普段どうやって過ごしているかなどわかりきっているのに。


「行く!」


 アセビは力強く答えた。


「ここから連れ出して!」


 本当は、随分と前に会えなくなった男に言いたかった言葉なのだろう、と思う。


(あんなやつにアセビは任せられないな)


「当たり前だ。行くぞ!」


 アセビの手を取って、北部まで移動する。

 ワープでこれほど長距離を移動できるのはアジュガくらいだ。しばらくは追手も来られない。

 アセビをいったん森に隠して、アジュガはフレグの元に移動した。そして、自分が知り得たこととそこからの推測を話して、また北部に戻る。


「アセビ、無事か?」


 追手の気配はないが、アセビは状態が良くない。気絶していないか心配だった。


「うん、大丈夫。

 それより、アジュガは?またワープしてたでしょう?」

「まあ、流石に疲れたな」


 ワープは転送の魔法を改良したものだ。学生の頃はまだ自由に動けなかったが、研究者になってからは北部に行くことも許された。幼いころから気になっていた魔の山の調査に乗り出したが、あまりにも遠いので移動時間を短縮できないかと移動系の魔法の改良に取り掛かった。今この魔法が使えるのはフレグと王族くらいだ。王の手先の襲来を心配する必要はまだない。


「それより、移動するぞ」

「移動するって、どこに?」

「ここは魔の山の端。比較的穏やかに山を越えられる位置で、人が通れる道には関所が置かれている。

 だから中央付近に移動する。

 北部は魔の山手前までは管理が厳しいが、その向こうは緩い。向こう側の人間は学校への案内が来ないほど把握されていないし、それ以外の移動する人間は関所のある場所以外からは山を越えられないからな。

 南部から逃げれば北部に向かうと考えるのが普通だ。関所はいっそう厳しい管理となるだろうが、そこで問題が起きなければ、俺達は北部の魔の山よりは南にいると判断される」

「じゃあずっとこの山にいるの?」

「まさか。いずれはこの山の向こう、最北端に家でも建てて暮らす。

 本当ならこのあたりで潜伏するのが俺達人間には生きやすいが、人の入れる範囲は捜索が入るだろう。

 だから中央、普通の人間には入れないところに身を隠して、捜索隊が引き上げるのを待つ」

「その後関所を通って北へ?それともワープ?」

「いや、流石に魔の山の向こうには座標を置いてない。だが、関所を通る必要もない。普通の人間には無理だが、俺ならこの魔の真ん中を通って向こうに行ける。

 理解しなくてもいい。心配する必要はないから、アセビはゆっくり休んでろ、俺が背負ってやる」


 アジュガはアセビを背中に乗せて移動した。

 その後は山の中で身を潜め、王宮側の熱が冷めたところで山を越えた。

 最北端の人の記憶を少し操作して、二人は元から北部で暮らしているイルとアンとして受け入れられた。一年も経てば、二人を怪しむ者はいなかった。


 特に追われてもいないことを確認した後は、これからどうするかという話になった。

 アセビも体調が回復し、精神的にも安定するようになっていた。


「ずっとこのままじゃない。もう少し経ったらフレグにも連絡を取るし、ドラゴンの娘を探すつもりだ」

「フレグに連絡を取るのはいいけど、ドラゴンの娘を探してどうするの?」

「決まってる。その力を以てして、王を倒すんだ」

「その後は?」

「後?後なんてどうでもいい。

 ドラゴンの娘の力を認めれば、自然とそいつを担ぐだろう。王族以外は過去を知らない。適当なやつらが喜んで国を導いてくれるぜ。

 王が倒れれば、今王宮に囚われている人間も解放される。アセビも自由に生きられる」

()()()()よ。

 あなたはずっと王族を恨んできたもの、当然王を倒すだろうし、そういうことなら私だって協力するわ。でも、どうしてもドラゴンの娘を使わないといけないの?」


 アセビは悲しそうな顔をしていた。


「アセビだって、ドラゴンの娘のせいで散々な目にあっただろ?なぜ気にする?」

「ドラゴンの娘はまだ生まれていないって言ってたでしょう?生まれたとして、きっと赤ん坊のはずよ。王族が少女を探していたのだから、人の形をしているでしょうし」

「今までのどの資料にも、ドラゴンの幼体の話は出てこなかった。ドラゴンとして生まれるだろう」

「じゃあなぜ王は人間の少女を探していたの?」

「それは……」


 わからない。予言でもドラゴンの娘としか言われていなかったはずだ。王族が予言の不都合な部分を隠したとして、もし人間の少女などという言葉が入っていてもそれを隠す必要はないはずだ。どうしてその予言だけで人間の少女を探しているのか、それはわからない。


「赤ん坊なら都合がいい。俺に協力するように育てる」

「あなたに育てられるの?」

「アセビも手伝ってくれ。それとも嫌か?」

「いいえ。あなたがどう思ってドラゴンの娘を育てようと、私は協力するわ。子どもが死んでしまうところなんて見たくない」

「俺が育てたら死ぬのか?」

「あなたは、少なくとも丈夫な年になるまでは、きちんと育てられてきたわ。ドラゴンと関係していたらむやみに殺すことなんてできない。そこに親が子を想う愛情なんてなかったとしても、最低限のことだったとしてもね。

 けど、私は王宮で見たのよ。魔力を使えるからと、殺されそうになっていた子を。王宮が探しあてて死ぬ前にと引き取ったけれど、数日で死んでしまったわ。しばらくは元気だったけれど、急に具合が悪くなって、たまたま世話をする人がいない時間だったから誰も何もできずに……。生まれたての子が来ることもあったけど、たいていは死んでしまうの。私達の世話係なんて何人もいないし、ドラゴンの娘なら死なないだろうと、積極的に育てようとする人なんていなかったから」


 アジュガが引き取られる前の話だろう。アジュガはそこにいる人々で助け合っている光景しか知らない。アセビやそのほかの女性たちで改善したのだろう。


「あなたがドラゴンの娘を育てるのなら協力するわ。あなたが王を倒すというのも、もちろん。

 だけど、私は大切に育てた子どもを武器にするなんてできない。他のことは協力してあげられるけど、それだけは許して」


 それでもアセビがやめろと言わないのは、アセビがどう思って何をしようと、アジュガを阻むことはできないとわかっているからだ。他のことはいざ知らず、王を倒すためならアジュガは何でもやる。


「わかった」


 元々はアセビを巻き込む気はなかった。彼女がどうしてドラゴンの娘を気にかけるのかはわからなかったが、アセビが協力しないとしても問題ない。きっと妨害もしないだろうから。

続きます。

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