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竜眼の少女  作者: 五十音
北部にて
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三人の目標

「いいか、ジル、モーリ」


 セキの死を見届けた翌日、朝食後に三人はダイニングに集まって机を囲んでいた。


「俺たちの目的は一つ。ジルが国王に会って、不幸な境遇にある人を助けるように説得することだ。説得は難しいだろうから、ひとまずは目通りすることを目的とする」

「説得は難しいの?」


 モーリが不思議そうに首を傾げた。


「ああ、不幸をつくりだしてるのは王族だ、と俺はにらんでる。望んで作り出した状況を、簡単になくすと思うか?」

「でも私の魔力があれば、やめるかもしれないんでしょ?」


 ジルトがおずおずと話に入ると、レオは不機嫌そうに眉を寄せる。


「ああ、だがそれも可能性だ。いいかジル、お前が今からやろうとすることは誰かに強制されたものではないし、義務でも何でもない。嫌になったら途中でこの山に引き返してもいいし、交渉が失敗してもお前が責任を感じる必要もない」


 それだけは覚えておけ、と強く言われて、ジルトは素直に頷いた。実際にどういう行動をとるかはわからないが、レオは何をしてもジルトの味方であってくれるということだろう。


「そこで色々決めておきたいことがある。一つ、この目的の期限は俺たちの二十歳の誕生日までとする。十分な時間だ、それ以上かかるようなら諦めた方がいい。二つ、ジルトがやめたいと思ったらそこでやめる。三つ、俺たち三人全員で目的を遂げる。本当に危ない旅なんだ。場合によっては途中で死んでしまうかもしれない。誰かが犠牲になるくらいなら、俺はやらない方がいいと思う」


 レオはまだジルトがこの山を出ることを快く思っていないらしい。


「異論はあるか?」

「ないよー」

「私も、ない」


 ジルトは自分のわがままを聞いてもらっている以上、レオに強くは言えなかった。そうでなくとも、もしこの中の誰かが死んでしまったら……考えたら怖かった。そして自らその危険を冒しにいっているのだと、改めて確認する。


「よし、じゃあ明日の朝出発だ。今日中に準備しとけよ」


 立ち上がり、レオは獣を狩るために外に出て行った。残されたモーリとジルトに静寂が訪れる。


「モーリ、ごめんね。巻き込んじゃって」


 ジルトが沈黙を破る。

 視線を落としていたモーリは、顔を上げ、ジルトと目を合わせた。


「大丈夫だよ、ジル。僕は置いてけぼりにされちゃう方が嫌だ。それにね、僕たち三人一緒なら何でもできると思うんだ」


 モーリはジルトの傍までやってきて、よしよしと頭を撫でる。


「ありがとう、モーリ。モーリには励まされてばかりだね」

「ジルだって、僕を励ましてくれるよ。お互い様」


 僅かな不安を残しながらも、ジルトは優しく微笑んだ。



 *



 翌日の早朝、三人はようやく慣れ始めた家に別れを告げた。

 その夜、主人を失ったはずの家に、灯りがついていた。その灯によって数人の影が作れらている。


主人マスター、どこにも誰もいません。外の畑の具合からして、ここを出てからそれほど経ってないでしょう」


 白いローブを着た女性が、口を開く。その目元はローブに付いたフードで覆い隠されている。その視線の先、主人マスターと呼ばれた男も同様の格好をしていた。


「それくらいわかるよ。俺の愛しい子の匂いが残ってる。今日出て行ったばかりだろうね」


 何もない空中に両手を伸ばし、腕を交差させて左右それぞれの肩に手を置く。目に見えない何か抱きしめるような行為に、傍に立っていた男がけっと悪態をついた。白い外套は身に着けていない。


「気持ち悪い野郎だな。あんな存在モノのどこがいい」

「おい、口を慎め!」


 先程とは違い、もう一人の白いローブを纏ったものが男に詰め寄った。男は特に気にした様子もなく、はいはいと手を振っている。


「いい。人それぞれ捉え方は違うからね」


 主人が手で制すと、興奮していた者は一歩引いた。しかしながら下唇は噛みしめられており、不満げであった。


「俺は竜の娘の目玉を頂く。体はちゃんと渡してやるよ。多少壊れても大丈夫なんだろ?」

「構いません。なんなら死にかけでも大丈夫です。頼みますよ。あなたのような人間はなかなかいないんですから」


 物騒な言葉を吐いた口が柔らかに弧を描く。


「ああ、ジルニトラ。早く会いたいね」

続きます。

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